42.冒険者達の全力
同様の行為を更に繰り返し上位種となって、迫り来る約500体ゴブリン達を前に、後方が騒がしくなる。
振り返るとそこには、1000を越す冒険者達と領主直属の兵士達がこちらに向かって向かって来ていた。
その数2000。
夕暮れ前の平原。
日没まで残り2時間という中で、お互い日没前には決着をつけるため、はなから全力の構えだ。
先程までのフォルスさんに代わり、ギルド長が正面に立つ。
先程のギルド前の演説とは違い。静かに兵士達も含め全員を見渡した後ゆったりとした口調で話し始める。
魔道具なのか、ギルド長の能力かは分からないがその静かでゆったりとした口調は、離れているはずなのにその他の雑音を全て無くしたかのように、クリアに耳に入ってきた。
「諸君。まずはギルド長として謝罪させてほしい。私は斥候からの報告より、今回の襲撃を百鬼行軍だと皆に発表し、祭だと言い、焚きつけた。しかし蓋を開けてみれば百鬼行軍ではなく百鬼狂宴だった。これは迷宮都市、全勢力で向かい討つべき事態だ。だからこそ今回は私が陣頭指揮を執る。そして我が龍人としての力を全てぶつける事を約束しよう」
「だから!」
「だから皆、私についてきて欲しい!」
「「「「おう!」」」」
「ゴブリン共を駆逐するのだ!」
「「「「おう!おう!」」」」
「奴らに、迷宮都市の戦力を、刻み込むのだ!」
「「「「おう!おう!おう!」」」」」
「ではいくぞ!冒険者達よタグに手をかざせ!その秘めた力を存分に発揮せよ!兵士達よ!日頃の冒険者達を上回る地獄のような訓練の成果を見せつけるのだ!いくぞ!」
2000人の集団が、大きな気合の入った声を出すと同時に、次々と冒険者達が首からさげたタグの機能を解放する。
《認識阻害》
スキル構成を知られたくない冒険者達が、多数の冒険者達の前で本気をだせるよう。
有事の際やある一定の場所でのみ、起動を許された機能であり、認識阻害機能を使っている。ということは分かるが、ギルド長もしくはギルド長が管理する認識阻害を無効化する魔道具を渡された者以外、誰かは分からない。
更に、目の前で起動しても、一度目を離せば違う人物に見えるため、誰かは全く分からなくなる。
つまり、隠している攻撃魔法や回復魔法を惜しげもなく使う事ができ、更に固有能力すら、人前で使うことが出来るようになる。まさに制限解除状態で戦える機能といえる。
無駄に高機能なタグなのだ。
『おぉみんな姿が変わったですよ。主様〜。主様は変わらないです?』
「あれ?変わってるはずだけど」
タグを見れば起動しているのが分かる。
念のため起動の確認を近くの冒険者にしてもらったが、問題なく作動していた。
「たぶん僕と、キハクが主従契約を結んでいるからだね」
おそらくこれはギルド長が《認識阻害》を阻害できる理由なのだろう。
さすがに指示を出す際、誰か分からなければ指示なんて出せない。
同様にキハクも自分の主人が分かるようになっているのだろう。
「ユウ!」
前方から声をかけられ確認すると、人混みの中からギルド長が近付いてきた。
うん。頭2つ分くらい大きいから、集団の中でも目立つ目立つ。
「あっギルド長。どうしました?」
「あぁ。すまんな。今回はお前さんの力も期待している。シルネは置いてきてくれたんだな。すまない。」
「いえ。彼女は冒険者じゃありませんから。それでどうしました?」
まさか、これだけを確認しに来たわけではないだろう。おそらく他に用件があるはずだ。
「あぁそうだ。これを」
「これは?」
見れば、ブローチ程の大きさの、鈍い銀色の魔道具だった。
「これは冒険者達のタグに備えられている《認識阻害》よりも強力な阻害を可能にする魔道具だ。まぁ簡単に言うと他の者に見えるよう認識させるのでは無く、そもそも認識されづらくなる。まぁ魔物には全く効かないんだがな。そして高い!お願いだから壊さないでくれよ……。」
ギルド長の顔を見るに、本気で超高価な魔道具なんだろう。
『いくらなのか聞くのが怖いよ……。』
というより、ここまでして色々隠さないといけない世界も、それに対応できる魔道具が既にあることも、この世界なんだか歪んでいくのを無理に修正して、こじらせてないか?
どういう世界創ってんだあの残念美神…。
しかし、まぁこれは有難い!
例え僕が認識を変えられても、常に近くにキハクがいればすぐに関連づけられてしまっただろう。
この問題があって、僕はこの戦いではなるべく、《血桜》を使わないようにしようと決めていた。
キハクの能力的にも、これでお互い全力が出せる!
「ありがとうございます。ギルド長」
魔道具を受け取り、壊さないようにと念を押しつつ、早速首輪に取り付けると、一瞬でキハクの気配が薄くなった気がした。
《気配察知》のスキルがあり、目の前にいる僕でこの気配の薄さなら、まず戦い途中で認識されることはないだろう。
ボンッ
一発の火弾が上空へと打ち上げられたのを合図に、一斉に最前列に並んだの魔法職の冒険者や、兵士達から各属性の魔法がゴブリンの集団へと放たれる。
同時に、ゴブリンからも火弾が撃ち込まれるが、そもそもゴブリンメイジに進化した者は少なく、疎らに飛んでくる火弾をタンカーや、腕に覚えのある剣士が防いでいく。
「「「アースウォール!」」」
まだ距離がある中で、土属性の術士達が一斉に、アースウォールを唱え平原に、土の高台を作り上げる。
「魔法職は高台へ!弓隊は山なりで矢を放ち、歩兵を援護各自遠距離攻撃およびゴブリンシーフの奇襲に十分注意を!」
ギルド長が指示を出し、即座に行動に移る冒険者達の動きは、非常に素早く団結していた。
「これは。すごいねキハク。僕らも頑張らないとだよ」
『はい。主様〜」
既に配置は完了し、最前列をタンカーや盾持ちの戦士職、その後ろを武器のみの戦士職が並び、戦士間の補助として斥候職の面々が待機している。
彼らはそれぞれに、ポーションを多くギルドから与えられており、軽傷者であれば傷の手当てを重傷であれば、すぐさま後方の回復職の元へと連れて行く役目を負っている。
その中で、僕とキハクは左翼の端に陣取り、最前列のタンカーの後ろに控え、彼らの隙間から投石出来るように準備をしていた。
領主直属兵・ギルド連合軍 2000名 VS ジェネラルゴブリン軍 上位種約500体 ジェネラルゴブリン1体
鳴り響く魔法が着弾する音とともに、魔法を避けるように速度の上がったゴブリン達が、最前列のタンカーに決死の表情で突撃した。
新規にブックマーク、評価を頂いた皆さまありがとうございます。
また継続して、お読みいただいている皆様にも感謝しています。
引き続きよろしくお願いします。