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36.閑話シルネの想い②

気がつくとそこは、ギルド長室へ繋がる部屋。

ギルド長の為に用意された仮眠室だった。


「痛っ」


頭がズキズキする。


ーーー犯罪奴隷とする!


お義母さんの言葉が、何度も何度も頭を駆け巡る。


私のしでかしたことは、それくらいやってはならない事だ。貴重な冒険者の身を危険に晒す行為だ。


なんて事をしてしまったのだろう。


机に目を移すと、お義母さんの字でメモに伝言が記されていた。


【起きたかい。シル。起きたのならギルド長室への扉前で呼ぶまで待機していなさい。決して呼ぶまで出てくるんじゃないよ】


指示通り、扉の前に立つと誰かがギルド長室へ入ってきたのが分かった。


「さて。改めて挨拶をしておこう。迷宮都市ギルド長ミネリア=アルバンズだ」


「G級冒険者のユウです。先程は騒動を収めて頂き有難うございました」


挨拶を交わす声でそれがユウだとはすぐに分かった。


高鳴る心臓が胸を突き破りそうになる。

今すぐに出て行って謝りたい。

会話が続く中、そんな想いを服を握りしめ抑えつける。


「ん。シルネをお前さんの奴隷とする!」


「はぁ?」(はっ?)

ユウと図らずも想いが一致してしまった。

お義母さんは何を言い出すの?


何を言っているのか理解できなかったが、お義母さんのユウへの言葉で私は全てを理解した。


「だからな、ユウに迷惑を掛けて奴隷になるんだ。そのままお前さんが所有者になればいいって話だ。それとも何か?シルネがどこぞの気持ち悪い狸オヤジに飼われて、好き勝手に弄り回されてもいいっていうのか?ん?」


そうか。私は犯罪奴隷。


エルフとして売られ、誰だかも分からない人に買われ、迷宮に潜らされ、性欲の赴くまま夜の相手をする。

いや夜だけじゃないかもしれない。それに犯罪奴隷の末路は、酷いものだと聞いた事がある。


カタカタと肩が震え。膝が笑う。

聞いている限り、ユウもあまり乗り気じゃない。


そうだよね。会えば憎まれ口を叩き、ミリネの胸を凝視するユウにドス黒い感情を飛ばしていたものね。


ーーー自業自得。


私の未来は、もう終わったのだ。


そんな考えが頭を横切った時、義母さんからの一言で、私はまだ望みがあるのではないかと思ってしまった。


「言いたい事はそれだけか?なら良し!ユウに有益な情報を与えてやろう」


有益な情報。そう私がエルフである事。それならばまだ望みがあるかもしれない。

お義母さんは言って良いのか悩んでいるのだろうか。ごめんねお義母さん。こんな役目を押し付けて。

(言って!私は全てを知られても良い。)

「シルネは胸がない」





「知っとるわ!」

ドンっ!!!


あっ……。やってしまった。あまりにも。あまりにも馬鹿らしいお義母さんの言葉にも、それに対するユウのツッコミに対しても。


様々な感情を置き去りにして、私の中からドス黒い感情が出てくる。


「あはははは。君は面白いな本当に。はぁ〜笑わせてもらったよ。もういいだろうシルネ!入りなさい」


お義母さんが私の名前を読んだタイミングで、扉をゆっくりと開いた。先程までのドス黒い感情をなんとか落ち着かせ、私はギルド長室へと足を踏み入れた。


そして私は、ユウの目をしっかりと見て口を開いた。


「ユウさん。この度はご迷惑をお掛けし、大変申し訳ございませんでした。この様な結果になりましたが、ユウさんが所有権を放棄されても何も文句は言えません。なのでこの場を借り謝罪をさせて下さい」


震える体をなんとか耐え、しっかりと頭を下げた。


これでもう思い残す事はない。私はちゃんと謝罪を伝えられた。

今後ハズレ冒険者として活動しなくてはならないユウは、許してくれないだろうけど、それはお義母さんに頼み込んで何とかして貰おう。


私は無力だ。


そんな私の頭にお義母さんが手を置き、ユウに話しかけた。お義母さんの手は柔らかくて大きくて気持ちいい。

少し心が救われた気がする。



「シルネはエルフだ」

お義母さんが、私の頭に手を置いた後。

また私の中からドス黒い感情が吹き出した瞬間もあったが、結界石を机に置いた瞬間からお義母さんの雰囲気が変わった。


お義母さんが、わたしの秘密をユウに話したのをキッカケに、変化の魔道具の効果をオフにする。


普段は家の中でしかならない本当の私の姿。周囲から魔力が溢れ、私本来の姿に戻っていく。


髪の色が、水属性の魔力を帯びたライトブルーに染まり、ショートにして誤魔化していた髪も肩まで伸びる。


そしてエルフ最大の特徴である耳も元通りなった。


何故か最後は胸からお腹あたりにかけ、魔力が纏いユウが凄い期待感を持った表情で食い入るように見ていた。


が、“そもそも私はそこに変化をかけていない”


胸のあたりに渦巻く魔力が消えた瞬間。


ユウの表情に非常に苛つきを覚えたが、ユウもそれに気づいたかのように表情が変わった。


その後キョトンとするユウに、お義母さんが私達エルフの現状を説明してくれた。

私もその説明に合わせ頷くが、話がお父さんやお母さんの話になると、目頭が熱くなるのを感じた。


が、その後の義母さんの溜息交じりの言葉で、すぐに現実へと引き戻された。


「まさか禁忌を侵すとは……」


ーーーそうだ私は犯罪奴隷なんだ


そして、最後にお義母さんが私の魔法の話しを始めると、分かりやすいくらいにユウの表情が輝きだした。


ーーーそうか、やっぱり私は迷宮で魔物相手に死ぬんだ

ーーーでも私は魔法以外。いや魔法ですら


「農業出来るんじゃないですか?」


自分の結末を想像していた私の耳に、予期せぬ言葉が飛び込んでくる。『農業?』


何をこの人は言っているのだろうか。この迷宮都市で魔法と言ったら、いかに敵を屠れるかという価値観でしかない。


えっ樹木魔法の使い方?木々を成長させる事?えぇ出来ますよ。植物を召喚する?えぇ出来ます。


よく分からないうちに、ユウの中でどんどん話がまとまっているように感じる。


「売るのか?」


お義母さんがユウに問う。

私の心はまた張り裂けそうになる。金貨900枚。奴隷としては高い査定だがエルフの年頃の女性の値段としてはかなり安い。


お義母さんがユウに私のスキルを見せる。


名前:シルフィーネ

年齢:17

性別:女

スキル:魔法【樹木・水】短剣術 木工


自分のスキルの紙を見て、私は心苦しくなる。


ーーー私はハズレエルフだ


お義母さんが冗談を言って、私の駄目駄目なスキルを誤魔化してくれている。


「そうですね。予想外です。勝手なイメージですけどエルフは弓矢が得意っていうわけでは無いんですね」


あぁやっぱり。やっぱりユウもそう感じたんだ。


ーーー弓術スキルのないエルフ。役立たずなエルフ。そしてやっぱりユウは迷宮に潜れる仲間を求めてるんだ。


だからお義母さんも私をエルフ界のハズレだとユウに説明する。


「だから。だからですか?僕を気にかけてくれていたのは」


あぁバレてしまった。この人も同じだと。私と同じ苦しみを持っていると勝手に勘違いしていた事が。ユウにバレてしまった。


問いかけてくるユウに、一度だけ頷く。


恥じる私の真っ赤な顔を見せる事ができずに、顔を上げることは出来なかった。


「分かりました。条件を2つほどつけて良いのなら、ギルド長からの申し出を受けさせて頂きます」


ーーー光が!光が見えた気がした。迷宮に潜るとしてもユウとなら。でも……


「ほう。私相手に交渉をするか。いいだろう言ってみるがいい」


この義母さんに新人の冒険者が交渉する?無謀だ。

もしかしたらお義母さんの怒りを買うかもしれない。


いや、あの目は義母さんが気持ちが高ぶった時になる龍の目だ。


逆鱗


お義母さんの只でさえこの威圧の中で、逆鱗に触れたらユウは……


ユウは大きく深呼吸を一度し、義母さんの目を見て交渉を始めた。


ーーーなんて勇気なんだろうか。

トクンッ

私の心臓が大きくはねる。


私はユウの交渉に耳を傾けた。


「はい。まず1つ目ですがシルネさんを迷宮攻略に参加させるつもりはありません。ただそうすると魔法や短剣術の熟練度が上がりにくいので、定期的にギルド長の娘として訓練してください」


えっ?私を迷宮攻略に参加させない?


私は迷宮が恐ろしい。魔物との戦いが怖くてしょうがない。ユウと違って勇気が出ない。


だからお義母さんに頼み込んで、必死に勉強してギルドの職員になった。


でも失敗した。犯罪奴隷になると言われた。


ーーー私は全てを諦めた


ーーーでも!


そして2つ目の条件は、家の紹介だった。

無理な条件じゃないよね?


「クククっ。面白い。面白いぞユウ。本当にお前さんは15のガキか?まぁ人族では成人しているのだろうがそうは思えんよ。さっきのケリーとの一件にしたってそうだ。肝が座りすぎている。ククク。まぁいいだろうお主からの条件たしかに引き受けた!こちらもシルネを頼む身だからな。大切な娘をよろしく頼むよ。ユウ殿」


そういうと、お義母さんは立ち上がり、頭を深々とユウに下げた。


私を真剣にを想ってくれる母親の姿だった。あぁこの人が母親となってくれて本当に良かった。


「お義母さん… おかあさん! おかぁさん! ごめん ごめんなさい。私 私なんて事を 本当にごめんないさい。あぁ〜〜」


私は大声を上げ泣き叫けんだ。


そして感謝と同時に後悔した。

お義母さんは私の事を第一に見てくれていた。

この瞬間のために全力で思考を巡らし、ユウを信用しこの結果を掴み取ったのだ。


「シルネさんさえ良ければ僕と契約して下さい」


どこかはにかむように、そして少し顔を赤くしてユウは。いやユウ様は私のご主人様に名乗りを上げてくれた。


「はい。喜んで」


私は心底、この状況を嬉しく思った。この人に出会えて良かったと。この人に捨てられぬよう全力で期待に応えようと。


ーーー私の心も体も全てをこの人に。


いかがだったでしょうか。


シルネのドス黒い感情は、これまで何度か、登場させてますが、やっとここまで繋げることができました。


面白ければ、是非ブックマークなどお願いします。

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