35.閑話シルネの想い①
ーちょっとユウ。あなた今日がはじめての迷宮よね⁈あなたには戦闘スキルも補助スキルもないって聞いたんだけど、どういう事よこれ。ー
なんであんな事を言ってしまったのだろうか。
私はエルフ。エルフ族の父エヒートディエルと母シルフェスネスの子、シルフィーネ。他の人からはシルネと呼ばれている。
私は8歳の時にこの迷宮都市へ来た。
お父さんとお母さんが、エルフの村で弓術が使えずハズレだと蔑まれていた私を。
木工のスキルがあるせいで、朝から晩まで弓矢を作らされていた私を。
そして常に塞ぎ込んでいた私を見兼ね。
村の強者として有名だったはずなのに、冒険者になるという理由で村を出た。
私は戦うのが怖い。迷宮が怖い。あんなにも強かった父さんと母さんの命を奪った魔物も、私を蔑む他のエルフも怖い。
迷宮都市では、変化が解けエルフとバレれば奴隷狩りに会うと言われ、更に迷宮都市が怖くなった。
だから注目した。
戦闘訓練を受けても受けても、補正が掛からず苦戦するユウを。
戦闘スキルも補助スキルもない私と同じハズレスキルだと。本当は聞いたのではない。ルールを破り探ったのだ。
そんな彼が、迷宮に潜る事を私は心配でしょうがなかった。だから街中クエストをこなす彼を見て安心した。
ーーー迷宮に潜らないなら安心だと思った。
そんな彼が、討伐依頼の精算をしに私の元へと来た。つい憎まれ口を叩いてしまったけど、ゴブリンの1体や2体なら彼でも大丈夫だと思った。
ゴブリン25体 大牙鼠18匹
これが彼が半日足らずで達成した成果だった。
足元にはグレーのウルフの魔物の子供。
こんなお荷物にしかならない使い魔をお供にして、出せる成果なんかじゃない。
だから。
だからつい口から出てしまった。
「ちょっとユウ。あなた今日がはじめての迷宮よね⁈あなたには戦闘スキルも補助スキルもないって聞いたんだけど、どういう事よこれ」と
小声であったが、並んでいる周囲の人にはハッキリと聞こえてしまった事が分かった。
周囲の人がざわめき出し、どうすれば良いか分からなくなった。
そして、すぐに私を引き取り育ててくれたお義母さんの元へと助けを求めに走った。
もう冷静な判断なんて出来なくなっていた。
「お義母さん!」
青い顔をしてギルド長室へ駆け込んだ私をみて、ギルド長であるお義母さんが立ち上がる。
「あ あの あのわ わた 私」
言葉が上手く出ない。
そんな私の肩を掴み、義母さんは私の瞳に自分の瞳を合わせる。
※龍眼【見】
龍人の中でも僅かな者に発現する固有能力。
相手の瞳と自分の瞳を合わせる事で数時間前の出来事から数秒先のアクションを見る事が出来る魔眼の一種。
その龍眼で私の瞳で過去を見た義母さんは、手で顔を覆い大きな溜息をついた。
「はぁ〜。なんて事を。まぁこれならまだなんとか対処出来ない事もない。行くぞ」
大急ぎで、1階におり受付に近づくと、受付の周囲が喧騒としていた。
そして騒いでいる張本人達が、自らスキルを話してしまったユウと、いつも私を執拗に食事に誘うケリーさんだということがわかった。
今思えばケリーさんがユウの後ろに並んでいた。
ーーー嫌な予感が心を締め付ける。
「ヒィーーー。やめ 辞めろ!俺は 俺は悪くない!おいっお前たちも聴いていただろ!シルネちゃんがこいつに戦闘スキルも補助スキルもないって言ったのを!」
ーーー終わった。
何があったのか分からないが、手首から両手が切り離されたケリーさんの一言。
その瞬間。
私の罪は、ここにいる全ての冒険者に知れ渡ってしまった。まさに留め。留めの一言。
その後も何かユウとケリーさんが言い合っていたが、最早耳に入って来ない。血の気が引く。震えが止まらない。
義母さんがユウの瞳を覗いて、事の経緯を見たようだ。
そして次に耳に入った言葉
「ーーーー犯罪奴隷落ちとする」義母さんが放った一言。
私はそれを聞いて意識を失った。
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