34.2つの条件と美しく咲いた花
「はっ?なんて言ったんだユウ」
「いや。だから 《樹木魔法》に 《水魔法》ですよね。2つ組み合わせれば、いや最悪 《樹木魔法》だけでも農業やら果樹園やらが出来るんないかと思うんですよ僕は」
まくし立てるように話し始める僕に、何故かキョトンとしている2人に対し、考えを再度説明するも2人は理解できないようだ。
「だからですね。樹木魔法ってイメージではグワァーっとこう木を操ったり生み出したりする感じですよね?それって一瞬で木を成長させてたりするんじゃないですか?もしくは魔力で生み出してるとか」
改めてゆっくりと身振り手振りをつけそう言うと、ちらりとギルド長がシルネさんに視線を飛ばした。
「えっと。はい。既存の木を【グロウアップ】の魔法で成長させることも、熟練度の低いうちは出来ませんが魔力で植物を召喚して出すことも可能です…」
「やっぱり!」
「う〜ん。そうすると」
「で、ただ問題は…」
「おい!ユウ!どうしたんださっきから変だぞ。それでどうなんだシルネを貰うのか?売るのか?売るとすれば一瞬でもユウが主人になるんだ。売却益はお前さんの受け取りになる」
「え?売る?すみません少し考え事を……。売るってどう言う事ですか⁈」
考え事に集中しすぎていて、売却益うんぬんの所しか聞こえていなかった。なんて言ってたんだ?
「そうだな…………ざっと金貨900枚ってところか。戦闘奴隷として優秀だし容姿も申し分ない。異種族との子も出来ないから性奴としてもやりたい放題。ただ犯罪奴隷は定期的に現状を報告する義務があるから、それが面倒で少し安くなるのと戦闘経験0で売り出すため、どうしてもマイナス査定となるから、こんなもんだ」
「はぁ」
「で?どうするよ。ちなみに奴隷にすれば分かる事だから言っておくと、シルネのステータスはこんな感じだ」
【神在板】から出てきた用紙が机の上に置かれると、そこにはシルネさんのステータスが記載されていた。
名前:シルフィーネ
年齢:17
性別:女
スキル:魔法【樹木・水】短剣術 木工
ーーーあれ?強くね?エルフと言ったら弓術ってイメージだけどそこは無いんだな。それにシルフィーネか。これが本当の名前なんだな。
「どうだ。優秀だろ? ただな、エルフのような非力な種族は、短剣のスキルなんて持っていてもほとんど役に立たん。だから戦闘スキルであってもカウントされん。まぁ木工と相性抜群だけどな」
あっははは。
と高笑いをして膝を叩くギルド長は何故か楽しそうに見える。この状況で何を楽しんでいるだ?この人は。
「そうですね。予想外です。勝手なイメージですけど、エルフは弓矢が得意っていうわけでは無いんですね」
そういうと、ビクリとシルネさんが肩を震わせた。
相変わらず不安そうな表情のままギルド長の横に座っている。
「ほぉ。よく知ってるな。たしかにエルフという種族の殆どに弓術のスキルが発現している。それはもう種族特性では無いかと思う程にな。だがシルネには無い木工で弓矢は作れるが、自分には弓矢を武器として使うスキルがない。まだ魔力も少ない。育てるのに時間がかかる。まぁエルフ界のハズレだな」
シルネさんはエルフのなかではハズレと言われるスキル構成なのだという。
これまでのシルネさんの行動を、ふと思い出す。
「だから。だからですか?僕を気にかけてくれていたのは」
思えば、ここに来て登録をし戦闘訓練を受けるようになってから、やけにシルネさんの視線を感じるようになった。そしてミリネさんへの視線チェックも激しくなった。そこは許して欲しいのに。
問いかけるとシルネさんは、一度だけコクリと頷き顔を伏せた。
「分かりました。条件を2つほど付けて良いのなら、ギルド長からの申し出を受けさせて頂きます」
「ほう。私相手に交渉をするか。いいだろう言ってみるがいい」
ギョロリと一瞬、人族の目ではないドラゴンの瞳に変わる。
圧倒的な威圧感の中、大きく深呼吸をし話し始める。
「はい。まず1つ目ですがシルネさんを迷宮攻略に参加させるつもりはありません。ただそうすると、魔法や短剣術の熟練度が上がりにくいので、定期的にギルド長の娘として訓練してください」
「ほぅ?2つ目はなんだ?」
「2つ目ですが、家を探したいと思います。出来れば広い農地が付随しているものを紹介してくれるように、どこか信用できる不動産屋を紹介してください。もちろんギルド長からの紹介状付きで、以上2点です。どうでしょうか?」
「クククっ。面白い。面白いぞユウ。本当にお前さんは15のガキか?まぁ人族では成人しているのだろうがそうは思えんよ。さっきのケリーとの一件にしたってそうだ。肝が座りすぎている。ククク。まぁいいだろう。ユウからの条件たしかに引き受けた!こちらもシルネを頼む身だからな。大切な娘をよろしく頼むよ。ユウ殿」
そういうと、ギルド長は立ち上がり頭を深々と下げた。
その姿は一介のギルド長の姿ではなく、一人の娘を想う母親の姿だった。
「お義母… おかあさん! おかぁさん! ごめん ごめんなさい。私 私なんて事を 本当にごめんないさい。あぁ〜〜」
シルネさんを抱き寄せるギルド長に、いつまでも謝り許しを乞うシルネさんは、しばらく大声を上げ泣き叫けんだ。
2つの条件を引き受けて貰えることになった。ならば言うことは一つだろう。
「シルネさんさえ良ければ僕と契約して下さい」
真っ赤に腫らした目をこすり、花が咲いたような笑顔でシルネさんは返事をくれた。
「はい。喜んで」
キハクに続き異世界での仲間がまた一人、増えた瞬間だった。
やっと2人目の仲間ができました。
この後は閑話が2話ありますので、明日の午前と午後で1日で更新させていただく予定です。
感想ありがとうございます。
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