33.有益な情報と重要な秘密
「さて。改めて挨拶をしておこう。迷宮都市ギルド長ミネリア=アルバンズだ」
3階のギルド長室の扉をノックし、入るとそこには先程のギルド長が扉の近くに立ち、手を伸ばしてきた。
「G級冒険者のユウです。先程は騒動を収めて頂き有難うございました」
名乗りを上げ、差し出された手を握る。少しひんやりとしたそして硬いと思われた手の平は柔らかく、圧倒的に小さな僕の手を包み込んだ。初めての苗字持ち。貴族か何かだろうか。
そしてこちらを不思議な瞳で見つめてくる。その全てを見透かす様な瞳で
「さて、ユウの疑問に答える前にやるべき事をやておこうか」
ソファーに誘導され腰を落とすと、ニヤリと口角を持ち上げたギルド長がそこにはいた。
「なっ何でしょうか?」
「ん。シルネをお前さんの奴隷とする!」
「はぁ?」
高らかに宣言されたが、全くもって理解できない。
この人は何を考えているんだ?シルネさんはさっき犯罪奴隷になるって。
「だからな、ユウに迷惑を掛けて奴隷になるんだ。そのままお前さんが所有者になればいいって話だ。それとも何か?シルネがどこぞの気持ち悪い狸オヤジに飼われて、好き勝手に弄り回されてもいいっていうのか?ん?」
ああぁ。そういう事か。そう言う事ですか。この人最初から僕にシルネを押し付ける予定だったな。この状況下で僕に断れるはずがないと。
「ちょっと待ってください。僕も知り合いの女性がそんな事になるなんて嫌ですよ。でも僕はまだ迷宮の1層にやっと潜った新人冒険者です!そんな余裕はありませんよ!」
奴隷の衣食住は通常契約主が全て負担する。それこそ宿代から食費まで倍かかるようになってしまう。戦闘奴隷ならともかく、無計画に奴隷は増やせるものではない。
否定する僕をよそに、相変わらずニヤニヤと、何か含んだような笑みを浮かべるギルド長。全てを見透かされているような瞳に少し恐ろしさすら感じられた。
「言いたい事はそれだけか?なら良し!ユウに有益な情報を与えてやろう」
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・ゴクリ。
飲み込んだツバの音が大きく感じる。
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「シルネは胸がない」
「知っとるわ!」
ドンっ!!!
?つい、ツッコミを入れてしまった瞬間。非常に覚えのある殺気が入口とは違う、もう一つの扉の先から扉の衝撃と衝撃音ともに、漏れ始めた。
「あれ?あの〜。なんか非常に覚えがある気配がするんんですけど」
僕の《気配察知》がきっちりと殺意を感じ取る。今のところ敵対生物の気配しか感じ取れないし、本当はさっきからいたんだろうな……。シルネさん。
「あはははは。君は面白いな本当に。はぁ〜笑わせてもらったよ。もういいだろうシルネ!入りなさい」
ギルド長が名前を読んだタイミングで、奥の扉がゆっくりと開いた。先程までの殺気は薄れ、青白い顔をしたシルネさんが不安げな顔のままゆっくりとギルド長室へ入ってきた。
「ユウさん。この度は、ご迷惑をお掛けし大変申し訳ございませんでした。この様な結果になりましたが、ユウさんが所有権を放棄されても何も文句は言えません。なので、この場を借り謝罪をさせて下さい」
震える体で深々と頭を下げるシルネさん。その頭に手を置き、ギルド長が再び口を開いた。
「さて。有益な情報とは勿論シルネの胸のサイズではない。見れば分かるからな」
瞬間頭を下げたままの、シルネさんの気配から一瞬殺気が漏れる。余程胸の事は言われたくないらしい。気をつけよう。
「ここからは真面目な話だ。シルネをもらってくれと言うのは、勿論ユウのこれからに非常に関わってくる。そしてシルネの契約者になる事は今後大いにユウにプラスになるはずだ。そしてここからは他言無用だ」
「*******」
コトリと机の上に拳大の石が置かれる。そこにギルド長が何やら呪文の様なものを唱えると、周囲が何かに包まれる。
「結界。ですか?」
「あぁ正解だ。この石は周囲3mに範囲に結界が張られる。外からは中の様子が探られない様にし、もちろん見る事も聞くこともできなくなるって事だ。さて、その上で本題に入ろう。シルネはエルフだ」
真剣な表情のギルド長が、シルネさんの秘密を語ったと同時に、シルネさんの周囲から魔力が溢れ姿が変化していった。
ショートカットが似合うスレンダーな体型だったシルネさんが、薄いライトブルーの髪が肩まで伸び、耳の先が尖る。顔はそこまで変化なく綺麗というより北欧的な妖精の様な可愛さが際だっている。そしてスレンダーだった体の方にも魔力が纏い、変化がほぼ終わった。
そして、最後に胸のあたりに渦巻く魔力が消え去ると………
そこには全く変わることのないまな板が! …イヤっスレンダーな体があった。まぁエルフだもんね。そうだよね。ファンタジー小説よろしく巨◯エルフなんて上手い事ならないよね。
「どういう事ですか?」
目の前で起きた事のはずなのに、全く理解出来ない。そもそもこの街にエルフはいたか?いやドワーフや獣人などファンタジー種族は見たが、エルフはいなかった。
ーーーそれなのに今目の前にエルフがいる。
「あぁ。説明しようか。この街に実はエルフは、獣人くらいの人数存在している。我等が龍人族が遥かに少ないくらいだ。しかし、エルフは我等龍人族と違い肉体的な強さはなく、更に特徴的な容姿の所為でまず奴隷狩りに狙われる。そこで里から迷宮都市に来るエルフは、変化の魔道具で姿を変えてこの都市に来るんだ。」
説明をするギルド長の横で、シルネさんが頷く。
「でだ。シルネはエルフの冒険者夫婦の一人娘でな。こやつが小さい時に迷宮の中で命を落とし、帰って来なかった。そこで私が引き取り、面倒を見てきたんだ。こいつはどこか抜けててな、いつか何かしでかすと思ったがまさか禁忌を侵すとは……」
深い溜息の後、更に言葉が続く。
「まぁそう言う事で、こやつはエルフだ。だから魔法が使える。全く外での戦闘経験はないがな!私とは定期的に試合っているから熟練度はそれなりだ。ちなみにエルフの特有魔法の一つである樹木魔法と水魔法を使える。どうだ優秀だろう?」
再びニヤリとするギルド長をよそに、シルネさんの魔法に正直非常に惹かれてる自分がいた。
《樹木魔法》&《水魔法》
ーーーー農業が出来るんじゃないか⁈
本日2話目の更新です。
引き続きまずは文字数10万を、その後は20万 30万目指して…と言うよりも今のプロットで書くとそうなるんですが…。
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