30.冒険者の必需品。それは神魔石とお弁当。
【神魔石】という石がある。
迷宮内にある神力を、その石に一部吸収する事が出来る石で、神力が濃ければ濃いほど倒した魔物が強ければ強いほど吸収する神力は多くなり、真っ白なその石は 黄色 緑 青 赤 紫 黒と神力を溜めるに連れて変色していく。
そしてこの石に溜めた神力に応じて、ギルドから報酬が支払われると同時に、各階層の入り口の魔道具に神魔石をつけると到達階層が更新され、次回から到達階層のいずれかに迷宮入り口から行けるようになる便利な石だ。
だからこそ必ず冒険者達は、この石を常に肌身離さず持ち歩き、迷宮に潜っている。
「さすがに色は変わらないね」
2層への階段を降りながら、首に下げたその神魔石のネックレスをよくよく観察しても、全く色が変わる気配はない。1層でしかもゴブリンや大牙鼠では、そこまで溜まらないという事なのだろうか。
実はこれも、残念美神ことネルが、効率よく神力を吸収する為に作った魔道具だと、説明していた。
彼等神達は、神力確保の為に自分が管理する様々な世界を作りだした。
その中で、最も効率的だと言われているのが迷宮を作る事とされているが、迷宮内の大気中の神力は実は非常に神が吸収するのに変換効率が悪く、そのほとんどを魔物の創生や、迷宮の維持に使われていた。
同様に、魔物を討伐した際はRPGゲームの経験値のように、決まった量が討伐者のパーティに頭割りされ吸収され、大半を新たな魔物の創生や迷宮の維持に使われ、一部は神が神力として、残りは拡散してしまっている。
そこでネルは、それら拡散している神力を含め、冒険者達に意図的に吸収させようと考え、この神魔石を創り出した。
私は、神界では意外と優秀で高い評価を受けている。
byネル
要は自称なんだが。まぁ話を聞けば非常に重要な発明なのだろう。あの時はふ〜ん へ〜としか思えなっかたけど。
そして、冒険者達は日々の迷宮攻略のついでの資金調達として、ギルドはこの溜められた神力を吸収し、量を測定する魔道具自体が、そのまま神力を減らす事なく、同じ量がギルド内のその他の魔道具のエネルギー供給源となっており回収を急いでいる。
そして本来吸収効率が悪く、なかなか自分のところへ吸収出来ない中、石に溜められた神力はそのまま神の元へと送られる。
つまりは、3者WINーWINの関係がしっかりと出来ている。
本当に神力を吸収する為のシステムは、よく考えられてると感心しつつも、2層に降り魔物の気配を伺う。
すると1層の魔物の他に、ビッグアントという体調1m程のデカイ蟻が現れるようになった。
集団で襲ってくるならば少し怖いが、低層だからか上位種もおらず単体で襲ってくるので、瀕死になって仲間を呼ぶ前に倒す。
外殻は硬いが首の関節を狙って一気に倒せば、難易度的には対して変わないだろう。
1匹を相手にキハクと共に戦ってみたが、僕が石を投げ怯ませた瞬間にキハクが首を刈って絶命させていた。
「うん。大丈夫そうだね。僕一人だったら接近して、包丁使わなかったら危なかったかな」
足元のキハクの喉元を撫でつつ労うと、キハクは気持ち良さそうに眼を細め尻尾を振っていた。
『はい。主様〜。クルルル。気持ちいです〜。極楽です〜』
「じゃあ2層のビッグアントの確認も終わったし、今日は帰ろうか」
1日目で無理をするつもりもなく、今日は元々1層クリアを目指していた。予定通り、1つ先の部屋まで確認しお昼にと持ってきていた柔らかいパンに地鳴鳥のローストとトメット、そしてキャベルを挟んだサンドウィッチを2つ取り出す。
昨日の夜に準備して《どうぐ》に入れておいた昼食用のお弁当だ。
〜地鳴鳥のローストチキンのサンドウィッチ〜
使用包丁:玄亀【解体包丁】 陽炎【薄刃包丁】
材料(2人前)
地鳴鳥の腿部分 1対2本
キャベル 1/4
トメット 1/2個
ネルーツ 半欠け
パン 2本
塩・胡椒 適量
〜ローストチキン ネルーツ味〜
①まずは鳥肉の旨味を引き出すために、皮の裏にある余分な脂と腿肉の断面にあたる部分の脂を、ある程度包丁の先を使い取り除く。こちらの世界では豪快に焼くだけだ。この一手間がローストチキンを旨くする。
②脂を除いた後に容器に入れ、微塵切りにしてネルーツ半欠け分、塩を5回ほどつまみ入れ(小匙1くらい)、胡椒少々を入れてもみ、常温で1時間ほど味を染み込ませる。
③植物油を引いたフライパンを熱し、表面の水をしっかり揉み取り(キッチンペーパーがあれば包んでギュッで良かったがこちらでは清潔な布で代用)腿肉の皮部分をしっかりと焼く。
④本来なら予熱あり200℃のオーブンの中に入れるが、こちらでは鉄製のパットに置いた鉄網に置き、石釜を40〜50分熱した石釜にいれ強すぎない火力で1時間程じっくり熱を通した。途中途中で出てきた油や肉汁を皮にかけながら、全体に満遍なく火が通り、腿肉から透明な肉汁が出てきたところで、ローストチキンの完成。
あとはふっくらと焼き上げたコッペパンのような形のパンを半分に割りローストチキンと千切りキャベル、そしてトメットを挟み、上から鉄製パットに溜まった肉汁とこの前に作ったトメットソースを合わせて、煮詰めた特性ソースをかけて出来上がり。
元気になったキハクは、狼ではあるが正確には狼型の魔物なため、犬類が食べられない玉ねぎやカカオ、匂いや刺激のきつい食材ももちろんいける口だ。今もハグハグ言いながらガッついている。
『主様〜 おいひ〜です。あの時のオートミールもこの前食べた焼肉も美味ひかったですけど、今日のも格別です〜』
フワッとした食感に、新鮮なキャベルのシャッキリとした感触。そして塩味と鳥本来の旨味が上手く調和したローストチキンを口に含めば、鼻から抜けるネルーツの香りがなんとも食欲をそそる。そしてみずみずしいトメットの果汁が脂でコーティングされた口内をさっぱりとさせる。もちろん最後にかけたトメットソースも絶品だった。
「ここにレムがいれば、また女の子がしちゃいけない顔になるんだろうね」
あっという間に食べ終え、ベタベタになったキハクの真っ赤な口元を拭きながら「なんか普通に野生の動物を食べたあとみたいだ……」とアホな事を考えながら、2層入口の魔道具に近付く。
そして魔道具に神魔石を付け、出口へと意識を向ける。
フワッ
一瞬の浮遊感の後戻ってきて見た景色は、先程の受付をした兵士の姿だった。
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