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29.キハクの能力

体育館ほどの部屋には、森や岩場とは違い遮蔽物もなく部屋の隅々まで視認することができた。

入り口から右を覗くと3体のゴブリンが棍棒を地面に置き、寝転んだり、はしゃいだりしている姿が確認できた。


森付近にいるゴブリンとは違い、油断とアホっぽさが目立つ気がする。


「キハクは石が当たって弱ったのを中心に狙ってね。複数を相手にしないように」

お座りの状態で、尻尾をゆるりゆるりと揺らすキハクの頭を撫でながら、今回の作戦を伝える。

先の戦闘で、子狼らしからぬ動きを見せたキハクだがゴブリンと言っても対複数では傷付く可能性も大いにある。


『はい。あるじ様』


再び石袋から石を取り出し、右手に握りしめる。

先程より距離があり、遠投の要領で大きくモーションを取り、石を投げる。


“カンっ”


投擲の補正の掛かったはずの投げられた石はゴブリン達のすぐ横に着弾する。

その瞬間、襲撃に気付いた1体が寝ていたゴブリンを蹴り起こし、棍棒を担ぎこちらに向かって走り出した。


「態々起こすって事は、仲間意識があるって事だね……。そこらへんは外のゴブと一緒か」


『はい。ゴブは少し潜ると短剣とか鎧を装備しているのもいるです。前いたとこ大人の狼に乗ってるのもいたです』


キハクが、なにやら今後の2人での攻略に危機感を抱かせる一言を言った気がするが、今の段階で気にしてもしょうがない。そういえば、この子は15層迄攻略済みだったっけ。2体でボスも攻略したって事か?

まぁ潜れば難易度が上がる事は百も承知だ。


子供(人族的には成人だけど)と子狼の姿を確認し、はっきりと見下している顔付きだとわかるゴブは、こちらに走りながらも余裕を伺わせる。

ぎゃっ ぎゃっと3体で会話をしながら近づくその姿は、まるで誰がどの部分を貰うか相談しているようだった。


「せー のっ!」


体重を乗せ、勢いをつけた石がゴブリンの胸部を目指して飛んでいく。

続けざまに2つ目、3つ目の石をそれぞれの胴体を狙って放たれる。


「ギョフー」


「ゴォウ」


「ガッ」



一撃必殺よりも、行動阻害を狙ったその石は、それぞれの心臓付近、脇腹、そして左肩に命中し膝をつかせる。

頭は基本奇襲以外では最も避けられやすい。だからこそ今回は避けづらい腹部から胸部に向けて投石した。

幸運な事に最初の1体は、当たりどころが良くどうやら気絶、もしくは死んだようだった。


「ギャー」


左肩へ直撃し、一番ダメージの少ないはずのゴブリンが首元を抑え倒れ込む。

先程まで横にいたキハクがいつの間にかゴブリンの近くまで接近し、すれ違いざまに爪で首を切り裂き、頸動脈を断ち切っていた。

今まで左肩を抑えていた右手で首を抑えるも、留めきれなかった血が頸動脈から流れだし、再度崩れるように両膝をつき地面に倒れた。


「ナイス!キハク」


キハクを労う言葉と同時に、腹部に一撃を貰い腹をおさえ倒れ込んでいるゴブリンに、トドメの投石を襲いかかって来ることができない、ギリギリの距離から投げ込む。

近距離からの投石は外れる事なく、真っ直ぐにゴブリンの頭蓋骨を砕き、3体のゴブリンはこちらに近づく事も出来ずに息絶えた。


「ふ〜。なんとかなったね」


ゴブ達から魔晶を取り出しながら、今回の戦いについて振り返る。

3体のゴブ達は仲間意識はあったものの、連携する事もタンカーやアタッカーのように役割分担をするのでも無く油断しながら真っ直ぐ突っ込んできた。キハクの言う通り潜っていけば装備が良くなったり明らかなチームプレーをしだすようになるのは、それだけ熟練しているからなのだろう。

まぁ1層のゴブなんてすぐに倒されるから、そんなに熟練度も上がってないのだろうし、まだ余裕はあるかな。


まずは投石を防がれるような階層までは、投石1本で行く。血桜という名刀はあるが、戦闘スキルという面では投擲が最も熟練度が高く、これからも育てていきたいスキルだ。


そして何度も足元から消えるようにゴブリンを切り裂くキハクだが、本人に聞いたスキルが大いに関係している。

名前:キハク

種族:白狼種 《不明》

年齢:1

性別:雄

スキル:超嗅覚 狼化 聖術


キハクから聞いた限りでは、よく分かっていないが、この3つは所持しているらしい。それこそ母親に聞いたらしく、本人は正確に鑑定したものではない為、呼び名もスキルの数も正しいのかはわからないらしい。


※超嗅覚:通常の狼族より優れた嗅覚。個体識別から強さの他、熟練度次第では様々なことが臭いで分かるらしい。

※狼化:体の一部を食した事のある他の狼族に変化でき、そのスキルも含めて特殊能力も使用可能。狼化の熟練度が上がるほど変化元の能力に近付き、変身しなくても使えるようになる。

※聖術:光属性の魔法を体術?に組み合わせて使える。


この光属性の魔法というのが、キハクの消える一番の理由となっている。光の屈折をいじる事で認識をずらし、姿を消して近付いているらしい。子狼なので熟練度が足りず、一瞬しか効力はないが相手の気が逸れたタイミングで使えと教えられたらしく、なかなか使いこなしていた。



「あ〜〜疲れた。」


朝の7時過ぎに迷宮入りし、ぶっ通しでゴブ狩りをし早6時間。

あれから、20体以上のゴブ、そして同じく1階層に湧くカピパラほどの大きさを持つ、大牙鼠オオキバネズミを狩り魔晶を取り出した。

神力の充満している迷宮は、その神力で次々と魔物を生み出し1層ではあるが外に比べ魔物の産生が早い。

キハクの嗅覚で、次々に魔物が生まれた部屋を巡り、投石とキハクの1撃で討伐していった。


投石だけで、1階の魔物を駆逐する勢いで討伐して回ったが、実際今やっている攻撃方法と、土魔法スキル持ちの【ストーンバレッド】とどちらが上かと言うと、正直わからない。威力は向こうが上だと思うが、土魔法スキルだけでソロで行けるかというと、連射性や発動までの時間、MPの関係で難しいだろう。それらにに依存しない投石は、何が起こるかわからない迷宮では、非常に大きなアドバンテージのような気がする。

実際1階層はキハクがいないソロでも多分何とかなると思うし。


しかし現状、魔法スキル持ちは非常に重宝され各パーティに1人は欲しいと言われている。

レベルや熟練度が低い間はどうしても魔法の威力や撃てる数は少ないが、迷宮に幾度と潜り自力をつければ、一撃必殺ももっと手数を増やした攻撃も可能。正にパーティの行く末を場合によってはひっくり返すことの出来るスキル。それが魔法のスキルである。


キハクの光魔法の強さに、改めていつか自分でも使ってみたいと憧れの魔法に思いを馳せて、僕は2層に続く階段の正面に立つ。


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