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25.相棒への感謝とキハクへの思い

すっかりと日が落ち、暗くなった街並みを窓から確認し、かなりの時間寝てしまった事に気付く。

ドアを開けるとすでに、食堂は冒険者達で溢れ賑わいを見せていた。


このままキハクを下の食堂に連れて行くのも憚られる。もう一度、今度は豚肉ではなく、牛肉でキハクにオートミールを作り食べさせる。

すっかり毛艶も良くなりモコモコとした白い毛は薄っすら輝き、尻尾はリズムよく揺れる。真っ白なアルビノのような毛を頭から尻尾の先までゆっくりと撫で、その感触を楽しむ。


『美味しいです。あるじ様〜。なんだか魔力も戻ってきて力も湧いて来ます〜』


ハグハグと勢いよく食べる姿に、ついつい頬が緩む。


「魔力ポーションで作った消化に良い食べ物だからね。暫くはこの食事が続くかな」


一気に食べ終え、大きく速く振られる尻尾に安堵し、優しく頭を撫で続ける。

キハクは満腹からくる眠気に負けたようで、スースーとすぐに寝息を立て寝始めた。


規則正しい呼吸を繰り返し丸くなって眠るキハクを、ベッドに寝かせたまま静かになった食堂へと降りる。


「あらユウ。やっと起きたのかい」


「はい。レムから聞いたと思いますが、子狼の事有難うございます。お陰で今は回復して眠ってます」


白狼であった事に、少し驚いていたがサラムさんも無事ならいいと、それ以上深くは聞いてはこなかった。

少し疲れたように椅子に座るサラムさんの前には、既に夕食を食べた跡があり、聞けばレムも自分の部屋に戻り寝てしまったとのことだった。

さっきのお礼は明日にしようと決め、夕食後の休憩中のサラムさんを尻目に、厨房へ行き自分の夕食の準備にかかる。


食在庫から大量に保存されているゴロポイト、つまみ用に仕入れてあるチーズと牛乳などを取り出す。

「あまりキハクを1人にできないし、簡単に作れてお腹にたまるものがいいね」


〜ゴロポイトのチーズグラタン〜

使用包丁:陽炎【薄刃庖丁】

材料(1人前)

ラビエ豚のベーコン 2cm

ゴロポイト 大1個

オニオル 1個

チーズ 1掴み

塩 少々


ホワイトソース

牛乳 100cc

バター 10g

小麦粉 10g

塩 少々


①フライパンを軽く熱してバターを入れ、焦げ付かないようゆっくりと溶かす。

②小麦粉が固まらないよう、目の細かいザルで小麦粉をふるい入れ、手早く混ぜ合わせる。

③4〜5回に分けて少しずつ牛乳を加え、ダマができないように弱火で熱しながら良く混ぜ合わせる。

④ダマがなくなりトロトロになってきたら塩を振り、混ぜ合わせたらホワイトソースの完成

⑤オニオルを薄切り、茹でたゴロポイト、食感が残る程度に細かく切ったベーコンを用意する。

⑥フライパンを熱し、オニオルとベーコン、塩を入れ炒める。

⑦その間に茹でたゴロポイトは3mm程の厚さで輪切りにしておく。

⑧炒めた具材に、切ったゴロポイトと、ホワイトソースを入れ軽く混ぜ合わせたら窯焼き用の深めの皿にいれる

⑨上からチーズをかけ窯へ入れ、両面から熱する。チーズが溶け、焦げ目がついたら完成!


今回使った包丁は陽炎【薄刃庖丁】のみ。オニオルの薄切りなど野菜を切るに最も適した包丁だけに非常に扱いやすい。

以前に切ったキャロやキャベルなど野菜全般に使えるところがいい。


ホワイトソースも小麦粉を溶かすだけだし、余計な手間がかからないから意外に簡単だ。それにゴロポイトはお腹にたまるしね。そう言えばゴロポイトの芽はこちらでも非常に強い毒性があるらしい。これはどの世界でも共通なんだろうか?


出来上がったグラタンと、店に用意してある少し硬めのパンを《どうぐ》にしまい厨房を出たが、何も手に持っていなかった僕に食べてしまったのか……と落胆するサラムさん。

それでも諦めきれず、目を輝かせて新しい料理に胸を膨らませ、迫るサラムさんに腕を抱かれ、慌てながらも今度作る事を約束し部屋に戻った。

部屋に戻ると先程までサラムさんが抱きついていた腕をさする。男を惑わすそのマシュマロ的な感触がまだ残っている。ありがとうございます!


《どうぐ》からグラタンとパンを取り出したところで、一瞬キハクが目を薄っすらと開けたが自分のではないと分かるとすぐに寝戻った。その場の状況や本能に任せない行動を見ると、本当に聡い子だと思う。


食事を終え、先程使った包丁を取り出す。

薄っすらと濡れるように光る刃紋を布でなぞり、錦【十徳包丁】の状態から今まで使った包丁に変えて行く。



虎徹【牛刀】

陽炎【薄刃庖丁】

玄亀【解体庖丁】

血桜【断ち切り包丁】


刃の長さも、重さも勿論用途もバラバラな包丁たち。しかしどれも使い慣れた包丁のように手に吸い付き僕の技量を最大限、いやそれ以上に引き出してくれる。頼もしい相棒だ。


一つ一つ姿を変えながら、手入れの必要のないその包丁達を1本ずつ丁寧に布で乾拭きをする。

元の世界の“俺”は、毎日仕事終わりに修行時代から使っていた元相棒を研いでいた。

少し寂しい気もするがこうして布で磨くだけでも何か寂しさが紛れるような気がした。


この15年研ぎ石も持つことがなかったが、研ぎ石をイメージすればその石の感触、どう刃をあて磨けば良いか自分にしっかりと残っているのが分かった。


ーーー他の刃物の事もある。今度グランファさんにお願いして研ぎ石を譲ってもらおう。


しっかりと丁寧に磨いた包丁をケースに納め、ベッドで寝ているキハクを見つめる。何故この子があの連中に捕まったのか、どうしてグレーパックウルフとしてあの場に居たのかを考えてみる。


そしてこの子の両親はどうしたのかと……


従魔にしてしまった今。既に遅いかもしれないが、あまりにも独り立ちするには早い。

従魔の一番の育成は魔物を狩り神力を吸収していく事だと、広場でキハクを買い取った男は言っていた。


「どちらにしても、迷宮に挑む必要はあるんだ。明日キハクに確認しないと」


自分の料理で取り敢えず無事に救えた事に安堵し、重くなる瞼に抵抗する事なく僕は眼を閉じた。





読んで頂き有難うございます。またブックマーク有難うございます。

よろしければ感想や↓の評価を押して頂けると嬉しいです。


誤字脱字があれば教えてくだい。すぐ訂正いたします。

よろしくお願いします。

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