24.キミの名は
後ろを振り返り、レムの手元を見るとそこには真っ黒に染まったタライに、泡だらけの姿でレムの手にもたれ掛かる真っ白な子狼の姿があった。
「あ…あのユウさん?この子は…この子はグレーパックウルフの子どもじゃないんですけど……」
熟練度の高い《清掃》スキルによって、泥や埃などの汚れでグレーに染まった毛は、すっかり汚れが落とされ、真っ白な毛色に戻っている。
清掃のスキルは汚れを落とす一点において非常に優秀なスキルであり、元の毛を全く傷めることなく子狼の汚れを落としきっていた。
「えぇ。その子は白狼種。本当の種族名は分かりませんがかなり高位の魔物だと思います。今は閉じてますが目が白目にスカイブルーの目玉でしたから間違いないと思います」
固まったままレムに、改めて種族名を伝えると白狼を抱えた手は細かく震え、先程よりも慎重に水を掛け泡を落とし始めた。
「ユウ…さん?知ってたんですか?この子の事?いいえ。知っていたから母さんに特殊だと言ったんですね」
震える手で慎重に泡を流し、水気をタオルで拭き取るとゆっくりと手にした子狼をこちらに差し出す。
「はい。知っていました。あっほんと綺麗になったね。真っ白だ。でもやっぱり毛並みは少し悪いかな。この子は見た目がグレーだったんで間違えて扱われてた様です。廃棄処分になりそうなところを買い取って来ました」
子狼を撫でると、薄っすらと目を開け鼻をヒクヒクとさせ、器の方へと体重をかける。
「おっオートミールに気付いたかな。レムちょっと待ってね。先に食事を与えたいんだ」
器に入ったオートミールを小さな匙で掬い、子狼の口元に運ぶ。
薄っすらとと開けた目でオートミールを確認し、何度も匂いを確認するが口は開けない。
「大丈夫だ。お前を苦しめていた所とは違うよ。僕はキミと仲良くしたいんだ。だから一口でいいからまずは食べてくれないかな。キミのために考えて作った料理なんだ」
ゆっくり、ゆっくりと撫でながら、囁く様に声を掛ける。決して慌てないし無理強いはしない。この子は人間不信になってもおかしくない環境にいた。今は気力も体力もなくてグッタリしているけど、本当なら警戒して牙を剥いてもおかしくはないだろう。
「クルルルル」
喉を鳴らし、前足で軽く僕の手の甲を掻く仕草をする。
そのまま再度匙を口元にゆっくりと運ぶと、小さく口を開けペロリと表面をなぞる様に舐める。
「クルルルル クルルル」
何度か喉を鳴らしたと同時に、口を開き匙のオートミールを全て口に運んだ。
何度も何度も、匙を口元に持って行くたびにオートミールは消え、あっという間に器は空になった。
「クー クー スー 」
「眠っちゃいましたね」
しっかりとオートミールを食べきった子狼は、寝息を立ててタオルで作った簡易ベットに横たわっている。
ただその横たわる姿は、先程迄の姿とは大きく異なり、心なしか薄っすらと白く光り、緩んだ表情で寝息を立てている。
「あぁ。やっと安心できたんだろうね」
2人で顔を寄せ、寝息を立てる子狼を見つめる。やっと安心してくれた事に安堵し、そのまま右を向き数cm先にいる。レムに笑い掛ける。
その瞬間。
バッと一歩後ろに勢いよく引き退る。一瞬にして正座になり、真っ赤に染まる顔を手でわざとらしく煽ぎながらレムがさっきの続きを話し始めた。
「あ…あ…あの良かったですね元気になって。それ それよりも高位の魔物なんてだ だ 大丈夫ですか?起きたら暴れたりとかは……」
真っ赤な顔を誤魔化すレムも可愛いな。今度一緒に買い物でも行きたいなんて言ったら、受けてくれるかな?
「今は弱ってるし、従魔の首輪も着けているから大丈夫だと思うよ」
実際この子狼からは、まったく警戒の気配を感じない。もし敵対するつもりなら僕の《気配察知》のスキルでわかると思うし起きたらもう一回オートミールをあげて様子みようかな。
「ユウさん。それじゃあ私は戻りますね。今日はこの子を看病するんですよね。何かあれば言ってくださいね」
「ありがとう。助かったよレム」
「はっ… いえこれくらいのこと!それじゃあ」
パタンとドアを閉めて、足早に部屋から離れて行く。
そして、子狼の寝ているタオルごと抱きかかえ、寝ているベッドに運び、そのまま横になる。
「起きたら少しはよくなってるはずだよ」
そう言って頭を撫で、その温もりにいつのまにか意識は沈んでいった。
ぺふっ
ぺふっ
ぺふっ
柔らかい感触に目を開けると、子狼が前足の肉球でおでこを叩いていた。なんという愛らしさだ。
そのまま少し、狸寝入りを続けていると怒ったのか体ごと顔の上に覆いかぶさって来た。
「うぷ」
「やぁ。悪かったよ。今起きた。キミも起きたのかい?少しは動けるようになったんだね」
そう言って顔の上の子狼を抱き上げ顔の前に持ってくる。そのしっかり開いた目は最初に見た時と同じように白眼にスカイブルーの眼球が宝石のように輝いていた。
そして、先ほどとはまるで違う毛並みはフワフワとした手触りで、毛の中に手を埋めさせた。
『キミ。ボク名前?』
急に頭に響くソプラノのような高い声。弱々しくもはっきりと聞こえるその声は、間違えなく子狼のものだとわかった。
「念話?かな。すごいね。まさか意志の疎通が出来るなんて思わなかったよ。違うよキミは名前じゃないよ。名前はあるの?」
『魔力ない。声出せなかった。名前ない。付けて欲しい。ボク従う。名付け大事』
「そうか。キミが良いなら喜んでつけよう。ん〜……」
そういえば昔から名付けは壊滅的にセンスがなかったな。ここは慎重に考えないと。ん〜どうしようか…。
「よし。輝くような白い毛並みだから。キハク。キミの名前はキハクだ」
『キハク。嬉しい。ご主人様ボクを助けてくれた。ご飯美味しい。人間嫌いだった。ご主人様とレム〜?は好き』
「ははは。レムね。僕はユウ。ご主人様は柄じゃないかな」
『はい!主様!』
やっとキハクを出せました。実は間違えて公表している粗筋に書いてしまっていたのに気付いて消していたんですが、やっと物語が追いつきました。
これからキハクをよろしくお願いします。ふわふわのもこもこです。
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