20.伝えたい言葉広めたい心
「は〜いご苦労様〜」
間延びした話し方で、張り詰めた緊張の糸が少し解れた。
迷宮都市のギルドの受付嬢は、所謂花形職業だ。その為受付嬢は美系が多く、有能な冒険者や迷宮に入る為に冒険者登録をしている貴族と結婚したりしている。
「ありがとうございます。ケリアさん」
報酬討伐報酬 3体で36銅貨、魔晶の買取値段 3体で9銅貨 合計45銅貨を受け取る。
このケリアさんも、話し方は間延びして特徴的だが、ゆるふわパーマのブラウンの髪の毛に少し垂れ目、そして何よりも獣人族特有の獣耳が特徴の犬族の可愛い職員さんだ。
勿論スタイルもよくミリネさん程ではないが、しっかりと有難い膨らみをお持ちだ。このギルドで残念なのはシル…。
おぉ凄い冷たい視線が飛んできたよ…。考えるのはやめておこう。
「は〜い〜。そろそろ迷宮〜ね。準備は出来ましたか〜」
「はい。バッチリです。まぁ僕は元々接近戦より遠くからチマチマ攻撃するタイプなので、危なくなったら逃げますよ!」
ギルドにスキルは教えてないが、折角心配してもらってるし少しは安心してもらおう。ゴブリンだと頭が砕かれる投擲をチマチマと言うのかは疑問だけど…。
「それでも、油断しちゃダメですよ。ユウさん!あなたは結局ソロなんですからね」
後ろから聞き覚えのある声が聞こえる。振り返るとご立派なム…。あれ?おかしいなまたシルネさんがいる窓口から冷たい風が…。
「ミリネさん。こんにちは。ご心配有難うございます。この何日かギルドの講習の他にフォルスさんからも迷宮の心得について色々教わったので、ソロでも3階層迄ならなんとかなると思います。なのでまずは1階層を慣れてから3階層を目指そうと思います」
「そうね。じゃあ明日からかしら。出る前に寄っていってね」
2人とついでにシルネさんに頭を下げ、陽が落ち街灯が照らす迷宮都市の石畳みの道を宿に向かって歩く。
この時間になると、一般的な商店は店を閉め屋台の周りが賑わい。酒を煽り、串肉をほうばる人々の笑い声や喧嘩をする声が聞こえてくる。
「ただいまー」
「レムちゃん!エールおかわり!」
「こっちにはステーキ2枚ね!」
「すみませーん」
「こっちも注文!」
居酒屋と化している食堂で、声が飛び交う。あのステーキとゴロイモのカルトッフェルプッファーをメニューに増やしてから大盛況だ。
ただただ日々の食事を、栄養補給と空腹の腹を満たす為と謳っていた冒険者や街の人達。その中でも多少割高であっても、美味い料理に価値を見出した人々が連夜集まり、注文を飛ばしていた。
レムちゃんに右手を上げ軽く挨拶をし、少しでも助けるために厨房へ入る。入る前に《そうび》で着替えも済ませ厨房内の様子を伺う。そこには必死の形相で調理を仕上げていくサラムさんの姿があった。
「さて料理を始めようか!」
サラムさんと交代し、目の前の食材に相対する。
戦場のような慌ただしさの中、大量の酒と料理が飛び交い、あっという間に閉店時間を迎えた。
「終わったー」
怒涛の注文ラッシュを捌き切り、レムちゃんが2匹のスライムのように広がる豊かな胸を、机に乗せ突っ伏している。
レムちゃんが項垂れ動くたびに、スライム達も生きているのかプルプルと反応する。
「終わったねぇ」
しみじみと答えるサラムさんも同じように机に突っ伏している。本当に疲労困憊と言った感じだ。
厨房に立ち2人の疲労を回復するべく、思案する。
「よし!これでいこう」
〜地鳴鳥のネルーツコンソメスープ〜
材料(3人前)
地鳴鳥の身の残ったガラ 一羽分
今までに使った野菜クズ
レモネ 1/4個
塩・胡椒 赤ぺパル 適量
酒 少々
ラビエ豚のベーコン 2cm位
ゴロポイト(大) 1個
キャロ 2本
ネルーツ 1枚
クルトン 少々
水
コンソメスープ作り
①大きめの鍋で地鳴鳥のガラを茹で、茹で終わったらガラを全て取り出し、身を骨からほぐし取っておく。
②茹でた茹で汁に布地に、布に包んだ今まで使って保存しておいた野菜クズを入れ、さらに20〜30分。途中灰汁を取りながら出来る限り透き通った液体になるよう丁寧に作業する。
③しっかりとコンソメスープのような黄金色に近い色になったら火を止める。
④野菜クズを取り出し、スープを目の細かい布で濾し、不純物を濾しとったら再度火にかける。
⑤煮立つ前に塩・胡椒・ほんの少しお酒を加え、味を整えたらレモネを一絞りし完成。
仕上げ
①ネルーツを1枚剥がし微塵切りに。ベーコンは食感が残る程度に細かくカットし、ゴロポイトは水でさらして食べやすく味が染み込みやすいよう8等分し、面取りしておく。面取りする事で煮崩れする事なく綺麗に仕上がる。同様の理由でキャロも4cm程の長さに切ったものを6等分しシャトー切りにしていき、ラグビーボールのような形に整えていく。
②鍋に油をひいて、ネルーツを入れ火をつける。香りが良くなったところで厚切りベーコンを入れ両面に軽く焼き目を付け、油にしっかりベーコンの風味ををつける。
③面取りしたゴロポイトとキャロを入れ火が通る程度に炒める。
④先に作ったコンソメスープに身をほぐした地鳴鳥の肉と炒めた具材をいれ、ゴロポイトとキャロが柔らかくなるまでじっくりと火を通す。そして一度完全に熱が冷めるまで置き、その後に再度温め直す。こうする事で味がしっかり具材に染み込む。
⑤器に注ぎ、最後に硬パンで作ったクルトンと赤ぺパルの粉を一つまみ浮かせたら完成!
少し手間と時間が掛かるが、実はこの工程には10分程しか掛かっていない。
何故ならばその秘密は、《どうぐ》にある。
前までの《どうぐ》機能は停止と倍速。つまり停止の機能を使えば、物体を入れ時間を停止させて入れれば、絶対に劣化しない。ただ同時に劣化だけではなく熟成等良い変化も停止してしまう。
そこで、今回使った機能が新しく熟練度が上がって使えるようになった機能。保温と4倍速だ。この機能を使って時間のある時に作ったコンソメスープを保管してあったのだ。そして仕上げの具材を投入し《どうぐ》内を90℃以上の状態を保温したまま4倍速で時間を送り、食材に火を通し保温を解除し、室温から少し涼しい環境で鍋のスープを一旦4倍速で冷まし、味をゴロポイトに染み込ませた後再び外で加熱し完成させた。
この保温調理鍋のような機能が出来たことで、僕の料理ライフは一層便利になった。あとは調味料と食材の仕入れだよね…。
切実!
「ユウさん!それは。それはなんですか!立ち上る湯気が食欲を刺激します!疲れ切った体がその琥珀色のスープを求めてます!」
食堂にスープを運ぶと、サラムさんもレムちゃんも体を垂直に起こし目を見開いていた。鼻孔を限界まで広げ香りを堪能している。
「こらこら。レムちゃん女の子がする顔じゃなくなってるよ」
「いいんです。今は女の子じゃなくていいです!いただきます!」
最近この2人は食事をする前に「いただきます」と言うようになった。それも、僕が食事を食べる際に言っていた「いただきす」の理由を聞かれた時に、よくある「いただきます」と「ご馳走さま」の意味を教えて上げたのがきっかけだ。
2人はその理由に感銘を受けたらしく、その後の食事時には「いただきます」「ご馳走さま」を言うようになった。
この風習はやっぱり日本の誇る伝えたい風習だよね。
料理に関わる全ての人や食材に感謝して「頂きます」
読んで頂き有難うございます。またブックマーク有難うございます。
よろしければ感想や↓の評価を押して頂けると嬉しいです。
よろしくお願いします。




