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13.厨房と言う名の戦場で


「おーい。ステーキ3枚追加!」


「うめー。なんかうめーぞいつもより!」


「なんだこの柔らかさ。いやしっかり歯ごたえは残っていやがる」


「こっちはこの芋料理を頼む!」


「エールだエールのお代わりを!」


「いくらでも酒が呑めるぞ!」


夕食の時間帯となり、冒険者達が押し寄せる中、次々と入る注文。


迷宮から帰宅し、素材を売却し暖かくなった懐と、空かせた腹に、食べ物と酒を流し込む為にやってくる冒険者達。


だが求めているものは、食材を食べれられる形にしたものであり、料理を求めているわけではない。


そんな冒険者達が、いつもとは全く違う“料理”に舌鼓を打ち、ナイフとフォークで大きくカットした肉を、次々と口の中に入れていく。


絶え間なく続く注文に、絶え間なく動く体。


真っ白な前掛けを、汚れた色が取れなくなった古着の上に掛け、淀みなく包丁とフライパンを動かす。


結局、料理を出し始めてから僕は調理に専念し、サラムさんとレムさんは所謂ウェイトレスに回ってもらい、注文と配膳をこなしてもらっている。


久しぶりに厨房に立つこの感覚。


ランチタイムやディナータイム時は、怒号が飛び交い、脳が焼き切れ、手足が千切れると錯覚する。


まさに、戦場の様子の厨房内。

それ程の感覚とまでは、いかないが近い感覚が、そして記憶が戻ってくる。


頭の中で、淀みなく流れる提供迄の最短手順。


常に先の工程を把握し、同時進行で行われる下準備と調理。

この場に立つ為に選んだ装備が装備3。

調理の為の姿だ。


装備3

胴体 布の服

武器 和包丁 虎徹【牛刀】

右手

左手

帯 前掛け

足 布の靴

その他1

その他2


一瞬で装備2から装備3へと換装される。


この装備3は料理をする際の姿だ。

本当は、コックコートか作務衣があればよかったが、まだ売っているのを見たことがない。


本来ならば、全身清潔な姿で立つべきではあるが、これが現状最も清潔な姿だ。


そして、和包丁 虎徹。


これこそが転生時から持っていた。僕が唯一、前の世界から持ち込んだもの。あの時の和包丁セットだ。



でも、ただの和包丁セットではなかった。

生まれてすぐに《どうぐ》の中を確認したところ、この和包丁が1つだけ保管されていた。


10本あった様々な用途の和包丁が、1本しかなくなっていた事に、赤ん坊の立場を利用して声を出して泣いてしまった。


それはもう、大泣きだった。


一緒に持っていけると言われ、自分の心の支柱となった包丁。


この相棒が一緒なら、転生の事実も耐えられると思った。


今はもう会えない、最も尊敬する師匠が自分の為に、刀匠に依頼し打ってもらった10本の日本刀仕立ての包丁。


それがなくなってしまった。


絶望を感じ諦めた。

この1本の包丁でやっていこうと決心した。


しかし、4歳になる頃。


家の裏の、人目につかない場所で包丁を取り出すと、この和包丁が、まさしく神の加護を与えられた。

師匠から頂いたあの相棒である事が、わかった。


今回の姿こそ、その和包丁の姿の一つ。


虎徹【牛刀】


所謂、三徳包丁としても使われることの多い、包丁ではあるが、三徳包丁とは違い刃が長く30cm程あり、刃の幅が狭く切っ先が鋭い。

筋などの切りにくいものを切るのにも、優れている。

肉を切り分ける為に、生まれた包丁の姿だ。


師匠から貰った新しい相棒は、その用途に合わせ姿を変える刃渡り20cmの十徳包丁【錦】となっていた。


この十徳包丁【錦】自体には、包丁としての特徴はない。


この姿から、特徴的な名のある包丁に変化する事が、この包丁の能力であり、特徴なのだ。


虎徹【牛刀】に変化させた包丁を使い、大きな牛肉の塊から豪快に肉を切り分ける。


このラビエ牛は。ラビエーニの街の近くの草原地帯で育てられている赤身の多い牛で、ステーキに使われる定番の肉だ。


和牛の特徴である霜降りはほとんどなく、美しい程の身の引き締まった赤身肉は、しっかりとした切りごたえを包丁から腕に伝える。


切るたびに、牧草で育てられた牛の独特の匂いが、鼻孔を刺激し野性味を感じさせる。


この肉と調味料を見たとき、すぐにメニューは決まった。


調味料がないこの厨房で、いかに美味いステーキを提供するか。


提供時間の短縮も考え、出したのがこれだ。


〜ラビエ牛のステーキ〜

使用庖丁:虎徹【牛刀】

材料(1人前)

ラビエ肉の肩ロース 300g 1枚

ネルーツ 2枚

塩 少々


①まずはステーキ肉に網目状の切れ込みを入れる。

※歯ごたえは残したいが、焼き時間短縮を優先!


②そして片面に塩を振りよく馴染ませる。


③ その間にフライパンを高温で熱し、ブロック肉から削ぎ落とした牛脂を引き、ネルーツと呼ばれているユリ根のよう球根から1枚ずつを薄い実を剥がしステーキとともに入れる。


④焼き色がついたら火を弱め少し待つ。高音で一気表面に焼きを入れる事で旨味を閉じ込め。中にしっかり熱を通す。


⑤表面に血のようなものが浮いてきた。そのタイミングを見極め、ひっくり返して20秒

※この街はウェルダンが主流だが、僕はミディアム派なのでこれで提供。多分好みでウェルダンにしているわけじゃないと思うしね。


本当はソースとか作りたいが、ニンニク風の香りがついた肉汁と共に皿に盛り付け出来上がり!


その完成に満足しつつ、同時進行で作り上げるもう一品の仕上げに取り掛かった。


やっと初料理を披露できました。

この物語は、数少ない調味料と食材を現実でも調理できる事を前提に考えています。


これからの冒険で調味料やら食材が増えてくれないと、そのうち手詰まりになりますのでユウには頑張ってもらいたいです。


ラビエ牛=牛肉 赤身肉

ネルーツ=ニンニク


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