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12.依頼と報酬


「まぁその細腕でどの位運べるか分からんが、折角受けたんだ少しでもやってくれればええ。ただこの依頼の報酬は搬入した鉱石の重さに比例するからの。大した金額にはならんと思うぞ」


うーん。益々分からない。やっぱり顔合わせだけが目的なのかな。


でもこの依頼、鉱石の重さに比例するんなら、相当稼げないか?


「あの。グランファさん。そういう事ならお役に立てると思うんですが、どのくらい鉱石って必要なんですか?」


「んー?なんじゃよく分からんが偉い自信じゃの。そろそろ鉱石が底をつきそうなんじゃ。3日後にでも総出でインゴットで10t分程搬入するつもりだったがの。それ以上はこちらに入らん」


そう言って、丸一日作業は止まるは、人足は雇って金はかかるは、大損害じゃわい。

とどこか遠い目をしてながら、ぶつぶつと髭を弄りながら、めんどくさいと言った表情を浮かべている。


当日は一切の作業を止め、他の鍛冶屋の新弟子をそれなりの給金で貸して貰い、作業をする予定だと言う。


どこの鍛冶屋でも、肉体労働としての弟子の貸し借りは頻繁に行われているものの、相場よりも色をつけて給金を渡さねばならず、大きな損失をうむ行事となっているとのことだった。


「あー。たぶんなんとかなります。これがありますんで」


そう言って意味有りげに背負っていた鞄を指差す。

《どうぐ》のスキルのことは表に出せないので、これでなんとか誤魔化されてくれることを願うばかりだ。


「ん?まさか拡張鞄持ちか!それならば納得だ。おいっ! 案内はこの弟子に任せるユウよ頼んだぞ」


うん。


勝手に勘違いしてくれたみたいだ。

上機嫌で頭にボスボスと手を置き工房に戻って行った。


そう。

僕が使うのは《どうぐ》のスキル。うまく誤魔化せたみたいだ。


その後は、弟子の人に倉庫に案内してもらい、インゴットで10t分だという山を1山収納してみせた。


流石に鉱石10tではなくインゴット10t分の鉱石だ。


量が半端ない。


それでも一気に収納した。その場にいたドワーフの皆さんが絶句してたけどまぁ気にしないことにしよう。


この世界の拡張鞄は持ち主しか使えないしね。


奪って使おうとしても無駄だから狙われる心配もないし。


「ただ今戻りましたー」

「………」


大声で工房に声を掛けてみる。

案内役の弟子の人は、収納後から全く生気が無い…。大丈夫かなこの人。


「おう!なんじゃもう帰って来たのか。ん?なんじゃニギルそんな顔しおって。変なやつじゃ。それよりほれそこの倉庫に搬入してまた行ってくるがいい。1回でどの位運べるか分からんがまぁ何回か往復すればよい」


案内された倉庫には、ほとんど鉱石が無く、残りカスのような鉱石がまばらに点在していた。


ほんとギリギリだったんだな。


「分かりました。それじゃあ。はい。」


入れるのも出すのも一瞬。便利機能だ。


うんうん。我ながら良い仕事をしたもんだ。

「………」

「………」


あれ?弟子のニギルさん?と同じ顔したグランファさんがいる。


「もしもーし。グランファさん?」


顔の前で手を振っても、まるで反応がない。気絶してる?


「なっなっな なー⁈ 10tだと?一回で10分t? いやいやいや。ないぞそんな拡張鞄聞いたこともない。小僧!」


おぉ復活したと思ったら倉庫の重量計をみて搬入量を把握したみたいだ。


坊主から小僧に変わったけど昇格?降格?それとも同格?


「はい!」


「よう運んだ!助かったぞ!だがな!」


グランファさんは弟子に聞こえないように耳打ちしてくれた。


そんな拡張鞄は存在しないと。


スキルはうまく隠すようにと。あぁこの人はいい人だ。


「とりあえず報酬はギルドに支払う!後で受け取ってくれ!そしてユウ。お前さんは武器と防具どちらが欲しい?」


唐突な質問に、まったく考えてもいなかった為、一瞬動きが止まる。


「えっ?えーと防具が今は欲しいです。動きを阻害しない感じの…。」


武器なんてもらっても、どうせスキルがなく持て余してしまうだろう。


それよりも、この旅人Aみたいな服のままでは、迷宮なんて潜れないだろう。


今最優先すべきは、軽装備だろう。


「よし!儂が作ろう。最近の若い奴は何かと言っちゃー強い武器をよこせと言うが気に入った!まぁ楽しみにしてるんじゃな」


ガハハと豪快に笑い、受注書にサインをして工房に戻るグランファさんを見送り、僕の初めての依頼が終わった。


「シルネさん 依頼の1つ目終わりました。処理をお願いします」


ギルドに戻ると、受注書をシルネさんに持っていたが、シルネさんの笑顔が生暖かい気がする。


「あらユウさんお帰りなさい。うふふ。何kg運べましたか?グランファさんはいかがでしたか?」


あーそう言うことか。


もともとそんなに運べる事を期待してなかったかこの人。


本当に、ただの顔合わせだけのつもりだったのか。


でも依頼を対して、受けれない方がマイナス印象なような気がするんだけど⁈


「はい。すごい豪快でいい人でした!防具も作ってくれるって言われました!紹介して頂いて有難うございます」


「そう。防具をね。えっ?グランファさんが自ら?弟子の人じゃなくて⁈えっ10t?えっ?えっ?えっ?」


混乱しているシルネさんを、どうにか落ち着かせる。


周りの冒険者の目がどんどん厳しくなってるし、勘弁して欲しいよ。


「申し訳ございません。大変取り乱しました。依頼達成確かに確認しました。報酬もカードへ振り込ませていただきます」


落ち着きを取り戻した?感じではないようだけど、こちらを見ることなく淡々と業務をこなしカードを返してくれた。


「ユウさん」


シルネさんのもとを去ろうとしたら、登録作業をしてくれたミリネさんから声を掛けられた。


「少々お時間宜しいですか?」


理由も分からずにミリネさんに無言でついて行き、そのまま2階の個室に案内されたところで、正面のミリネさんが頭を深々と下げた。


「まずはシルネの件申し訳御座いません。あの様に取り乱しユウさんにはご迷惑をお掛けしました」


「いえ。大丈夫ですよ。まぁ正直あまり目立ちたく無いので焦りましたけどね。だから頭をあげて下さい。」


「はい。ありがとうございます。そもそも、あのような態度を見せる事自体が、こちらの落ち度なんです。


実はあの依頼は慎重に準備を整える気概のある新人冒険者の為に用意されている依頼でして、依頼を受けて50kgも運べば相応の報酬と、グランファさんの所の若手のお弟子さんの武器か防具を貰えるという依頼なんです。


それを達成しただけでなく、グランファさん自ら槌を振るうなんて事は有り得ないことでして……」


「あぁ。そう言う依頼だったんですね。おかしいと思いました。こんなマイナス印象しか与えない依頼をなんで紹介したんだろうって。でも依頼は達成できたので良かったです。お金もいっぱい貰えましたし」


カードを見ると残高が500,000Nとなっていた。


どうやらインゴット100Kg分で5銀貨だったらしく、銀貨500枚分が報酬として支払われていた。


「はぁ。どうやって達成したかは探らないのが規則ですからね。今回の依頼の説明をシルネができそうも無いので私がさせて頂きました。本当に申し訳ありません」


まぁ周りの冒険者もシルネさんが取り乱したから、こちらに興味を持っただけだからね。


「大丈夫ですよ本当に。じゃあ僕は他の依頼もあるので失礼しますね」


うん。

今日は精神的に疲れたな。残り2つは明日以降頑張ろう。


「ただいま〜」


ギルドから帰ってくると時間はすでに夕食時。


宿の居酒屋兼食堂は大勢の客で賑わっていた。


冒険者達は、エールを片手にステーキや串焼き、茹でた芋などをほうばりながら、今日の迷宮での出来事を肴に大騒ぎしていた。


「あらお帰り。食事にするかい?もうちょっと待ってくれれば落ち着くんだけどね」


調理場から顔を出したサラムさんが、肉を焼きながら辺りを見渡した。


食堂では、レムさんが慌ただしく客から注文を受け、調理場のボードに貼り付けていた。


「あっお帰りなさいユウさん。ちょっと待ってて下さいね空いたらご案内しますんで」


おそらくいつも通りの忙しさなんだろが、さすがに2人では大変そうだ。


「手伝いましょうか?」


そう言って腕を捲り、僕は久しぶりの戦場ちゅうぼうに足を踏み入れた。


読んで頂きありがとうございます。

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