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デスマッチ  作者:
8/18

◇8

 追いかけても、追いかけても、追いつけない背中があった。

 父と、母と、二人に連れられて歩く弟。自分は後ろから必死に走ってついて行こうとするが、三人はどんどん前に行ってしまう。

「待って、待ってよ」

 どれだけ叫んでも、振り返ってくれない。その内、石につまずきさらに置いていかれてしまう。



 いつもここで目が覚めるんだ。




「おはよう、恭平君。顔色が悪いわね」

 スミレさんが苦笑する。

「どうぞ、ハーブティー。美味しいわよ」

 いい香りだ。気分が落ち着く。

 恭平は倒れ込むように椅子に座り、ハーブティーを口にした。こんなに落ち着いてお茶を飲むのは、何年ぶりだろう。家族がいた時も、いなくなった後も、こんなにゆっくりした朝を迎えたことはなかった。

「矢藤御さんは?」

「まだ寝てる。昨日、お仕事あったみたいだから」

 お仕事。

 あの現実に、少しずつ慣れている自分が分かる。

「あ、そう言えば昨日、矢藤御さんの師匠に会いましたよ」

 ハーブティーを入れていたスミレの手が止まる。

「え?」

 表情が変わったのは、明らかだ。

「えっと…浪岡烈さんって名前の…」

 空気が変わったことに、恭平もすぐ気がついた。

「浪岡が、どうしたって?」

 キッチンに突然現れた楓。彼女の気配に、全く気づけなかった。

「お、おはよう楓ちゃん」

 スミレさんも動揺している。

「恭平君、浪岡に会ったの?」

「う、うん…でも、話しただけだよ。だって、師匠なんでしょ?君のこと、心配してたよ」

「何て言ってた?」

 恭平はすぐに答える。

「元気なら、いいんだって…」

 その言葉に、楓は鼻で笑う。

「元気なら…つまり、生きていればってことだわね」

 笑っているのは、楓だけだ。

「し、師匠じゃないの?師弟関係なんでしょ?」

「そんなところだけど、そんな簡単な関係じゃないです。恭平君、今度浪岡が会いに来たら…」

 寒気がした。

「すぐに逃げてくださいね」



 死神たちが騒ぎだす時間は、午前零時を回ってから。闇に乗じて、人間を襲い、魂を喰らう。だから楓が家を出るのは、零時五分前。死神たちが騒ぎ出す前に、構えておく。

「ギャア!!」

 人間の叫び声が聞こえたら、いつでも飛べるように。

「低レベルの死神だな、札を使うまでもない」

 酔っ払いの首をつかんでいた死神は、不完全体なのだろうか、妙な色の液体がドロドロと流れ出ている。

「とっととあの世に還れ」

 楓が鎌を振り落とすと、死神は音も立てず消えた。

「十万ってところです。支払いよろしくお願いします」

 腰を抜かしている酔っ払いに請求書を渡す。

 今日はこの辺にしておくか…。

「あら?帰ってしまうわけ?」

 楓の真後ろに、気配がする。

「…そんなに私が好きですか?來亜…」

「ばっかじゃないのぉ!」

 膨れっ面の來亜が、少しずつ楓に近づいていく。

「こんな簡単な仕事じゃ、物足りないでしょ?どう?たまには本気で…」

 にんまりと笑う來亜。

「貴方はいつだって、本気でしょ?というより、必死でしょ?」

 楓も、鼻で笑った。

「その笑い方、本当に嫌いっ!」

 地面を蹴った來亜。

 來亜の刀と楓の鎌がぶつかり合う。


 火花が散った。


 二人の殺気に強さに、鳥達は飛び去り、闇に潜んでいた獣達は姿を消す。酔っ払いも、失神してしまった。

「強くなったわね…」

 後ろに飛び退いた楓から、笑いが消える。

「あんたを殺すことだけを考えていたらね、どんどん強くなれるのあたし!あんたの余裕ぶった表情を、この手で消してやるって思うとね…」

 水と油。一生、分かり合えない関係。

「でも、約束しちゃったからなぁ…」

 來亜が刀をしまう。

「れっちゃんとの約束破ると、本当に恐いから…仕方ないからあたしは手を引くわ」

 來亜がそう言った瞬間、楓の背後にもう一人の気配がした。

「約束は守るわよ…れっちゃん」

 楓が振り返ろうとした時は、すでに遅かった。誰かの拳が、彼女の鳩尾に直撃する。

「くっ!!」

 楓の意識が飛んだ。

「ありがとう、來亜…」

 倒れた楓を支えたのは、浪岡だった。

「感謝してよっ!」

 頬を膨らました來亜を見た浪岡が、にっこりと微笑む。



「美味しいパフェを、おごりますよ」 

   

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