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デスマッチ  作者:
6/18

◇6

「よろしくお願いします!」


 とは言ったものの、いざ住むとなると緊張するのは当たり前だ。両手にスポーツバックを握り、門の前で立ち尽くす恭平。自分の荷物なんて、バック二個分しかなかったのかと思うと、苦笑いしかできない。

「恭平くぅん!いらっしゃぁい!!」

 二階のバルコニーから、スミレが大手を振っている。

「早く入ってらっしゃいなぁ!!あなたの部屋、用意してあるからぁ!!」

 笑顔で自分を迎えてくれる人が、ここにいる。そう思うと、何故か震えた。

 これは、嬉しさからなのだろうか…。

「おはよう、借金少年」

 朝から嫌味な女だ。

「お、おはようございます」

 ぐっと堪えろ、自分!

「早くいらっしゃい恭平くん!こっちこっち」

 無理矢理二階に恭平を連れて行くスミレ。その強引さを、黙って見ている楓。

 本当にこの家で、やっていけるのだろうか。

「じゃーん!どう?!」

 部屋に案内された瞬間、その不安が一層大きくなった。

 星柄の壁紙、星柄のベッド、そのベッドの上には大きな熊のぬいぐるみ。小学生でも、今時こんな部屋には住まないだろう。

「男の子って言ったら、星かなぁ?って思って!本当はハートにしたかったのよねぇ…楓ちゃんの部屋をハートにしようとしたら、殺されかけたから…」

 目に見える。

「感想は?!」

「は…はい。ありがとうございます」

 どんな壁紙でも、ぬいぐるみがいても、自分の為に用意された部屋があると思うと、心臓の辺りが温かくなった。

 あの親戚の家に行った時は、こんなに笑顔で迎えてはくれなかった。


 厄介者が一人増えた。

 狭い家に、これ以上人なんか住めないのに…。

 面倒ごとが増えるわ。


 みんな冷たい目で自分を見ていた。あんなに冷たい世界がこの世の中にあるなんて、恭平は恐ろしくて泣き出しそうになった。

「恭平君、学校に行く時間だけど」

 楓が部屋を覗く。

「あ、そうだ!学校だ」

「いってらっしゃい、お二人さん!」

 いってらっしゃい。久しぶりに言われた言葉だ。

「本当にあの部屋でいいの?」

 哀れんだ目を向ける楓に、恭平も苦笑する。

「もう、住まわせてくれるのなら何でもいいです」




 女の子と二人で登校するなんて、もちろん初めてのこと。周りの視線も気になるが、恭平が一番気になったのは、奈緒子の視線だ。

 どう思ってるのだろう。

「あのさ、俺となんか並んで登校していいわけ?」

「はい?」

 周りの視線も全く気にならないのか、平然とした表情の楓。

「だってさ、ほら、俺みたいな地味な男と歩いたらさ…評判とかに関わるんじゃね?」

「評判って何ですか?私は、店の商品じゃないです」

 そういうことじゃなくて…。

 言おうとしたが、面倒臭くなってやめた。

「あのさ、死神使いってよく現れるの?」

 小声になる。

「それは分かりません。神出鬼没ですので」

「恐くねぇの?だって、死ぬことだってあるんだろ?」

 黙って頷く楓。

「死神使いと退治屋との間には、暗黙のルールがあります」

 暗黙の了解。

「それは、戦う時は絶対に、一対一のデスマッチでやることです。命を賭け、サシで戦うことが絶対条件なんです」

 アニメの世界に思えるけれど、これは現実なのだと言い聞かせる。

「けれど最近では、そのルールが破られつつあります。それが一番の問題です」

 楓の目つきが変わる。

「世界が歪みつつある…だから、私たちが必要なんです。命を賭けて、この世界の終焉を止めないとならない」

 楓の覚悟を、肌で感じる恭平。

 彼女の生きてきた世界は、自分の想像なんか越えるほど恐ろしい世界なのだろう。

「矢藤御さん、俺は…何をすればいいのかな?」

「何も。私に関しては何もしなくていいですよ。貴方が何かできるほど、この世界は甘くないですし」

 自分もそう思う。とてもじゃないが、楓と同じ世界には立てそうにない。

「スミレさんは、どう思ってるわけ?」

「スミレさんは何も言いません。私の生き方です、私が決めて進むだけですので」

 大人だと、素直に思った。それを了承しているスミレさんも、凄いと思う。きっと、信頼という絆で結ばれているのだろう。

 自分には、そんなものはないが。

「そういえば、スミレさんがパンを買ってきてくださいと言ってましたよ。お願いしますね」

 それでも、こうして頼まれごとなんかされると、自分とも少しだけ絆が生まれたのかと思える。

「はい」

 ずっと憧れていたものだ。



 パン屋に寄った帰り道、怪しげな曇り空に胸騒ぎを感じた。

「早く帰ろう」

 そう呟いて、走り出す。

「うわぁ!」

 角を曲がろうとした瞬間、飛び出してきた誰かと思い切りぶつかった。

「す、すみません」

 久々に、転んだ。

「いや、こちらこそすみません」

 見上げた恭平の目に映ったのは、長い白髪の男性だった。背が高く、細身の姿に、雑誌のモデルかと思った。

「大丈夫かい?」

 差し出された手に捕まり、立ち上がる恭平。

 ヒンヤリとした男性の手に、目が見開いてしまった。

「すみません…」

 逃げ出したくなったのは、何故だろう…。

「じゃ、急ぎますんで」

 目も合わせず、走り出そうとした恭平の手を、男性は離さなかった。

「もしかして君、矢藤御楓って子を知ってる?」

 心臓が飛び上がった。

「知っているんだね」

 男性が微笑む。その笑みに、鳥肌が立つ。

 この人、ヤバい。



「ちょっと話、聞かせてくれないかな?」    

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