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デスマッチ  作者:
5/18

◇5

 レンガ造りの家に、何だかわけの分からない植物のつるが、すがるように張り巡らされている。その不気味な雰囲気に、通り過ぎるのも躊躇してしまう。特に恭平は、小さい頃からお化け屋敷が大の苦手だったりする。

願わくば、視線を逸らして早足でこの場を去りたいものだ。

「小倉と申します…あの、矢藤御さんと同じクラスなんですが…」

 けれど、ここで素通りすれば、あの冷たい視線で殺されかねない。

「どちら様ぁ?」

 開いたドアから顔を出したのは、どう見ても男性の顔をしているが、化粧ばっちりの人間だ。

「あ、は、初めまして…俺、その…矢藤御さんのクラスメイトで…小倉と…」

 最後まで言う前に、恭平は腕を思い切り引っ張られ、部屋に引き込まれた。

 こ、殺される?!

「どうぞどうぞ!上がって頂戴なぁ!!狭い家で申し訳ないけどぉ!!」

 どこが。吹き抜けの広い家だ。

「嬉しいわぁ!!楓ちゃんのお友達がこの家に来てくれるなんてぇ!!それも、男の子!」

 男女は、恭平の身体に思い切り抱きつく。その力強さに、脳に酸素が送られなくなった。

「あ…あの…離して…」

「スミレさん」

 階段の上から聞こえた声が、救いの声に聞こえた。

「あら、楓ちゃん!お友達よ!」

 やっと解放された。

 スミレさんと呼ばれたその人は、恭平の頬に熱いキスをすると、鼻歌を歌いながらキッチンに消えていった。

 鳥肌もんだ。

「いらっしゃい」

「ど…どうも」

 それにしても、改めて見るとやっぱり広い家だ。もっとも、シャンデリアがある家なんか、初めて見た。

「どうかされましたか?」

「どうかって…ちゃんと説明してもらうために来たんだろう!勝手に帰ろうとするから、後つけるので必死だったんだ!!」

「まぁ!ストーカー君なの?!」

 キッチンからスミレが顔を出す。

「違います!!」

 思わず怒鳴ってしまった。

「説明って?退治屋については、一通り説明したと思うけど…」

 落ち着いている楓は、平然とソファーに腰掛ける。

「じゃ、俺、三十万なんて払えません!そんな金ねぇし!!」

「はぁ?」

 恭平のその言葉を聞いた瞬間、楓の目つきがガラリと変わった。

「払えない?何をほざいたことを…貴方」

 壁に恭平を追い詰めた楓が、低い声で言う。

「それが通ると思ってるの?これはビジネス。どうやってでも、払ってもらいます」

 こ、殺される。

「まぁ!いくら日が暮れたからって楓ちゃん!!そういうことは、私のいないところでやってちょうだい!!」

 キッチンから出てきたスミレが、持っていた紅茶を床に落とした。


「そんなことがねぇ…でも楓ちゃん、高校生に三十万は無理じゃない?」

「これでも譲歩したつもりです。金額を変えるつもりはないわ」

 スミレも、呆れ顔で楓を見る。

「ごめんなさいねぇ…楓ちゃんって、本当に頑固なの」

 こういうことに頑固になるなんて、たちが悪いとしか言いようが無い。

「こういう仕事って、いつからやってるの?」

 これを仕事と言うのか定かではないが…。

「中三」

 中三で、あんな変な連中と戦ってるのかと思うと、目の前にいる彼女を同い年と思うことはできなかった。

「でも仲良くしてあげてちょうだいね。私本当に嬉しいんだから、楓ちゃんにお友達ができて」

 お友達というか、取立てやと哀れな高校生という関係だ。

「仲良くできるかは、彼がちゃんと支払いをしてくれるかどうかにかかってるの、スミレさん」

 助けてくれ…。

「親にでも頼んでくださる?息子が死ぬかもしれなかったなんて聞いたら、それくらい払ってくださるでしょ?」

「それは、無理」

 真剣な顔をした恭平に、楓も冷たい目を変える。

「俺、両親いないから」

 静寂する。

「どっちも死んだ。俺が小六ん時…今は、親戚の家に居候の身」

 鼻で笑う恭平が付け加える。

「親戚っつっても、赤の他人みたいな連中だけど」

 あんな連中と、血のつながりがあるだなんて思ったことはない。両親の残した財産を使うだけ使って、自分は邪魔者扱い。

 あんな家、高校を卒業したら即出て行くつもりだ。

「そうだ!!」

 突然、体格のいいスミレが勢いよく立ち上がる。 

 紅茶が零れてしまった。

「じゃ、こうしたら?うちで働いてもらうの!!それと…楓ちゃんのお仕事の手伝いとかも!!」

「はぁ?!」楓と恭平が、ハモる。

「うちでは、主に私の手伝いとかしてもらってぇ…住み込みでも構わないわよ!ねぇ?楓ちゃん。部屋なんか腐るほど余ってるんだから」

 スミレがにっこりと微笑む。

「…私の仕事の手伝いって言われても」

 この家に、住み込みで働く。その言葉が、恭平の頭にこだまする。

 それはつまり…


 あの家を出られるということか?


「そ、それ!!それ、ダメっすか!!」

 恭平も立ち上がった。

「え?」

「俺、何でもします!!払えないんだから、働きます!!」

 突如敬語を使う恭平を、横目で見る楓。

「ね!決まり!!いいでしょ?!」

「…スミレさん…」

 ため息交じりの楓をよそに、恭平は笑顔で言った。



「よろしく、お願いします!!!」


     

 

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