◇4
「死神退治屋です」
へぇ…そんな職業あるんだ!
と、笑って納得できる状況でないことは、まだ腰が抜けている恭平にも分かる。
「…何なんだよ!全然答えになってないし!!分かるように説明しろよなっ」
「世の中、知らない方がいいことも沢山あります。巻き込まれたくなければ、黙って三十万払った方がいいですよ」
大げさに首を振る恭平。
「ちゃんと納得できるまで、払わねぇよ!」
仕方ないですね。楓のため息が、そう言っている。
「どうなっても知りませんよ。私は、他人の面倒は見ない主義ですので」
そう言った彼女は、持っていた鎌に息を吹きかける。その瞬間、鎌は砂のごとく姿を消した。どんなマジシャンでもやったことのない、マジックだ。
「人は、死ぬと無の世界に連れて行かれます。そこには何もなく、暗闇が永遠と続く世界…誰もがそこに行き着くのです。それは神が決めたこと、誰にも変えられない運命」
寒気がする。
「その無の世界に死者を連れて行くのが、死神の役目です。けれど、ここ数年…その死神たちが暴れ始めた」
楓の長い髪が、風に舞う。
「死者を連れて行くはずが、生きた人間を連れて行くようになってしまった。先ほど、貴方が襲われたように」
あの感覚が甦る。どろっとした黒い影が身体にまとわり憑き、その冷たさに瞬きさえできなくなった。
死ぬ。という感覚を味わったことがないが、近いものなのだろうと思った。
「死神に人格はありません。つまり、彼等が故意に生きた人間を連れて行こうとすることは、あり得ないのです。彼等を操っている連中…それが、來亜のような人種です」
「あの、女の子?」
楓が頷く。
「死神使い。彼女のような連中を、私たちはそう呼んでいます。死神は本来、神しか操れないもの…それを根本から変えた連中」
風が、やけに冷たく感じる。誰かが、故意にそうしているかのように。
「この世に、終焉をもたらそうとしているんです」
終焉。
「まぁ、本当に連中が何を企んでるかは不明なんですが…死神を操るなんて行為をするくらいです、この世を平和にしようと考えてるわけはありません」
これが現実なのか、それとも夢なのか、今の恭平にそれを確かめようとする気力はない。ただ、自分が襲われたあの時間を、どうやって受け入れればいいのか、そればかり考えていた。
「君は、いい者なの?」
「…」
意味深な、沈黙。
「だって、あの子をやっつけてくれたじゃん!俺を、助けてくれたってことは、いい者?!」
「貴方がそう思いたいのなら、そう思ってくれて構いません。ただ、私自身、そう聞かれても答えることはできません」
何でだよ?目で訴える恭平。
「私も、分からない」
風が、やんだ。
楓が中学生の時だった。酷いイジメに遭い、自分が生きているこの世界を憎んでいた。こんな世界は、間違っている。ちょっと人と違う雰囲気を出しただけで「気持ち悪い」「死ね」「ゴミ」と罵られ、罵声を浴びる。
こんな世界は、間違っている。
けれども、自分にこの世界を変えられるだけの力などなく。せめて、あいつらに多大な罪悪感を植え付けてやろうと、歩道橋の上に立っていた。明日の新聞記事を見て、あいつはきっと後悔する。
「私たちは、何て酷いことをしてしまったのだろう」
そう言って、葬式で泣き崩れるだろう。それが、せめてもの仕返しだ。
「お嬢さん、お嬢さん」
覚悟を決め、歩道橋に手をかけた楓の肩を、誰かが叩いた。
後ろに立っていたのは、真っ黒な服を着た男性。その瞳も、恐ろしいくらい漆黒だった。
「何ですか?」
道でも聞かれるのかと思ったが、彼はにっこりと笑って言った。
「死なんかよりも、もっといい方法がありますよ」
その漆黒の瞳は、楓が考えていることを全て見抜いていた。
「私と一緒に、この世界を終わらせませんか?」