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デスマッチ  作者:
2/18

◇2

「あなた、近いうちに死ぬわ」


 へぇ…俺って近いうちに死ぬんだ…。


「ってえぇ?!!!何情報それ!」

 恭平の声が、教室中に響く。

「おい小倉、外出るか?授業の邪魔すんな」

 数学の鮫島が、殺気を帯びた目で恭平を睨みつける。

「す、すみません」

 鮫島の舌打ちが聞こえた。教師のくせに舌打ちする方が、どうかと思う。

 恭平にとって、数学で必要なのはたち算引き算、掛け算割り算。つまり、小学生にしてそれを取得した彼にとって、この授業は無意味以外のなにものでもない。この時間をいかに有効に使うか、毎回考えているだけだ。

「何、もしかして矢藤御さんって…占いとかやってる人?」

 その容姿を見ると、そう言われても不思議ではない。

「いいえ」

 黒板を見つめたまま、楓は静かに否定する。

「じゃ…ブラックジョーク?最近の流行?」

「そうじゃなくて…」

 動かしていたシャーペンを、机に立てる。それからゆっくりと指を離すと、彼女のシャーペンは恭平の方へ倒れた。

「…は?」

 思わず言ってしまった言葉。

「このシャーペンが倒れる方には、必ずいるの」

 楓の鋭い視線が、恭平を見つめる。


「死神」

 

 

 小さい頃から、恭平の人生は我慢の連続だった。

 弟が熱を出したから、遊園地は延期。

 お兄ちゃんだから、あまったおやつはいつも弟に譲る。

 母親に迎えに来てほしかったピアノ教室も、弟のスイミングの方に行ってしまい、雨の中一人で家に帰った。

 見て欲しかった運動会、仕事人間の父親は一度も来てくれなかった。

 それでも、恭平は文句一つ言わない。争いごとや喧嘩を、無意識に避けているのだ。自分さえ何も言わなければ、この人生は何となく平和に過ぎていく。そう信じていた。


 それなのに…

 小六の秋、両親と弟が乗った車が事故に遭った。

 平和な人生が、がらりと変わった。


「死神って、どういうこと?!何?悪い冗談ならやめてよ!俺、そういうホラー的話し弱いんだから!!」

 休み時間になって、恭平の不安が爆発した。

「ねぇ、どういうこと!!」

「どういうことと言われても、そういうこととしか言いようがなくて」

 平然とした表情のままの楓が、憎たらしくなってくる。

「だから、何なの?!」

「死神が憑くのはそう珍しいことじゃありません。それに神が決めたことだから、運命に逆らおうと思わず、受け入れれば楽になります」

 どんなセラピーだ!

「意味わかんね。頭おかしいんじゃねぇの?!」

 不思議だ。今の今まで胸をときめかせていたのに、そんなことを言われてからは恐ろしいとしか思えない。

「あの、次の化学ってどの教室に行けばいいんですか?」

「知らねぇ。死神とやらに聞いてみれば?」

 何でも聞いてね。と言っておきながら、勝手な人間だと思った。



 化学の授業をサボったのは、楓と向かい合って座りたくなかったからだ。

 編入してきて半日も過ぎていないのに、喧嘩したカップルかよ。屋上にいる烏たちに、そう笑われている気がした。

 ただ、本当に向き合いたくなかったんだ。何だかあの神秘的な目に見られると、自分の弱さや汚い部分全てを、見透かされているように思えてきて、恐ろしくなる。


 何でも知ってますよ。


 彼女がそう言っているように思えて仕方なかった。

「あぁ…不気味な女」

「私もそう思うわぁ!!」

 呟いた独り言に返事が返ってきたので、恭介は飛び起きた。

「あの女の不気味さって言ったら、もう悪魔たちが尻尾巻いて逃げるくらいよ」

 現れたのは、小学生くらいの少女だ。長い金色の髪の毛を、二本の三つ編みにしている。

 それにしても、どこから現れたのだ?

「だからこそ…あの女が苦しむ顔が見てみたってもの…」

 薄らと笑みを浮かべた少女の口元から、吸血鬼のような鋭い歯が光った。

「君…誰?」

 目を点にしたままの恭平が、やっと喋った。

「初めまして。私、來亜らいあと申します」

 跪いた少女がにっこりと恭平を見上げた。


「死神使いです」

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