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デスマッチ  作者:
16/18

◆−3

 足の震えが止まらない。凪津にとって、こんな戦場は初めてだ。今までの戦いは、江利意の後を追いながら、江利意の素早い戦闘を見て憧れているだけだった。

 なのに、この状況…。


「本当、つまらないなぁ…もっと面白くしてよ、江利意殿!」

 まるで玩具のように扱われ、殴り飛ばされている江利意。

 面白がっている晒之。

 何もできない凪津。

「凪…津…」

「え、江利意!!」

 倒れそうな江利意を支える手さえも、震えが止まらずにいた。

「僕の戦いはどうだい?お嬢ちゃん」

 自分の存在なんて、晒之の眼中にも入れていない。

「凪津、俺を置いて逃げろ。お前じゃ、歯が立たない」

 そんなことは分かっている。退治屋の中でも上位クラスの力を持っている江利意が、こんなにもぼろぼろになっているのだ。自分なんか、この男にとってみれば子ども同然。戦う価値もないだろう。

「江利意、どうしたんだい?いつものお前だったら、こんな攻撃じゃ倒れないだろう?どうした?年か?」

 高笑いする晒之を、睨みつける凪津。

「江利意、応援を呼ぶから!」

 凪津が投げた小さな玉は、夜空で小さく爆発した。

 退治屋の必需品、救弾きゅうだんだ。

「応援?そんなもの必要ないさ。彼等が到着するころには、江利意とお嬢ちゃんは…」

 晒之が手を広げる。

「死んでるんだから」

 稲光が、二人に襲い掛かる。

 地面が割れた。

「凪津、俺を棄てて逃げろ!」

「嫌!」

 凪津が飛び上がるのが一瞬でも遅かったら、今頃丸焦げだ。

「これは命令だ!俺を棄てろ!」

「嫌だっ!!」

 駄目だ。また、涙が溢れてきた。

「江利意、初めて貴方の命令に背く!!」

 江利意の顔に、彼女の大粒の涙が降ってくる。

「私は、江利意を棄てない。だって…」

 だって…

「江利意は、何があっても私を棄てなかったじゃない!」

 今度は私の番だ。

 今まで、どんなことがあっても護ってもらっていた、今度は私の番。

 

 私が、江利意を護る。


「おやおや?エネルギーが変わったねぇ、お嬢ちゃん」

 晒之の目に映る凪津の目に、涙はもうない。

「応援が来るまで、江利意には指一本触れさせない…いや…」

 さぁ、力を解放しよう凪津。

「私がお前を倒す!!」

 泣き虫は、もうやめだ。



 江利意翠えりいすい。退治屋本部に彼が入って来た時、彼が放つエネルギーに、誰もが目つきを変えた。

 こいつは、強い。

 彼は立っているだけで、周りに自分の強さを知らしめたのだ。凪津にとって彼の登場は、自分の世界を一変させた。

「どうか、どうか私を、部下にしてください」

 弱虫で、笑い者の凪津が、本気で頭を下げたのは、後にも先にもこの時だけ。

 彼について行けば、何かが変わる。そう思った。

「俺は部下などいらない。ついて来たいのなら、勝手にしろ」

 とても冷たい言葉だった。けれど、来るなとは言わなかったことが、凪津にとって救いだった。

 江利意はとてつもなく強い。死神使いを倒した数も、群を抜いて多い。ただしその冷徹さも、本部一。彼の戦いは、華麗さまでも感じさせた。そんな彼について行くだけで、凪津は息が上がってしまった。

 

 近づきたい。一歩でも、一センチでも、一ミリでも、彼に近づきたい。

 いつしかそれが凪津の目標になり、生きる糧になっていった。

 

 

  

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