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デスマッチ  作者:
13/18

◇13

「死ぬ」


 そう言われて、圧倒的な強さを見せられて、今にも死にそうな笹目を前にして…

 自分に何ができる?

 何もできないんだ。

「ん?どうした?恐ろしくて、息の仕方も忘れたか?」

 平然としている民。彼が言うように、恭平は呼吸困難な状態に陥っていた。

「お前さんには何もせんよ」

 民が座る。

「こうしているだけで、お前さんも死ぬからのう…」

「う…くぅ…」倒れ込む恭平。

「理解したか?毒多美から放出される毒煙。常人が気づくのは不可能じゃ」

 笹目…

 恭平…

 互いに目を合わせても、何もできない二人。

 無力だ。

「残念じゃのう…もうちと、楽しませてくれる若人だと思ったのに」

 死ぬんだ。こうして、何もできないまま。 

 助けるだって?

 自分は、なんて愚かなことを口にしていたんだろう…。助けるもなにも、今ここで死にそうだ。


 矢藤御さん…俺は…


 ここで死ぬんだ。




 力が欲しいか、小僧。

 誰だ?

 お前の中にある力は、未知数。再び問う…小僧。

 何だよ。

 力が欲しいか?

 


 あぁ、欲しいよ!!



「ん?」

 民の長い髭が、風に吹かれた。

「きょ、恭平…」

 苦しみの中、笹目の目に映ったのは、立ち上がった恭平。

「俺の、力…」

 そうだ、恭平。お前の力だ。笹目によって目覚め、天使によって審判され、そして…


 神によって定められた。

 お前の力だ。

 解放せよ。

 頭に思い浮かぶ言葉はそのまま口にすればいい。


「…俺の力、八の札!!」

 恭平がそう叫んだ瞬間、部屋の中に竜巻のような物凄い風が吹き荒れだした。

 恭平の手に現れたのは、長刀だ。

「八の札…じゃと…」民の額から、初めて汗が流れた。

「俺は、笹目と一緒に…矢藤御さんを助けに行かなくちゃいけないんだ!!」

 ここで、立ち止まってる暇も、死んでる暇もない!

 目の前に現れた札に、長刀を振り下ろした。

「森羅万象!!」

 吹き荒れる風が、笹目に巻きついた蔓を風化させ、部屋の空気を浄化させる。民の目に映るのは、光りに包まれた恭平だ。

「な、なんと…」

「貴方は、俺たちを殺すと言った。だったら、俺も貴方を殺す。目には目を…」

「歯には歯をか?小僧!」

 民が初めて、着物の懐から武器を取り出した。

 扇子。

「まさか、お前のような餓鬼にこれを使うとはなぁ…」

 扇子が開くと、恭平の風に対して別の風がぶつかり合う。

「その歳で八の札を解禁できるとは、末恐ろしい。未来が楽しみではあるが、不安要素でもある。わしが見定めてやろう!」

 民が吹き起こした風は、まるで生きているように彼が振る扇子の通りに動く。

「五の札。風竜ふうりゅう!」

 捕らえられたら、相当ヤバい。

「逃げてみろ。そんな余裕があればのう…」

 逃げる。そうだ、自分は逃げてばっかだった。どうにもできない環境から、背を向けて、逃げるしかなかった。

 今も、恐くて逃げ出したい。

 でも、変わらなければ。

 先へは進めない。

「逃げる余裕はない。でも、立ち向かう勇気ならある!」

 向かってる風に、恭平が長刀を振り落とした。

「唸れ、壱飛車いちびしゃ!!」


 風を切り、闇を引き裂き、そして光りを…。




「おはようさん」

 朝日の眩しさに起こされると、そこには包帯で身体をぐるぐる巻きにされた笹目が笑っていた。

「おはよう…だ、大丈夫?」

「平気や。あのじいさん、まぢで殺す気やったみたいやけど…」

 二人して苦笑した。

「これ、笹目が巻いてくれたの?」

 腕に巻かれた包帯を見せると、笹目は首を振る。

「いや、俺やない。多分、民じいや。これも…」

 あの恐そうな老人に、介抱されたと思うと…失礼ではあるが、ゾッとする。

「俺ら生きとる」

「うん」

 朝日が眩しい。今日は雲一つない、快晴の空だ。

「恭平、もっと強なろな。はよ強なって、矢藤御を取り戻す」

「うん」

 二人の胸に刻まれた覚悟は、揺るがないであろう。

 二人でいる限り。

「おーおー、青春しとるのう」

 何の気配もさせず、二人の背後に民が現れる。

「ひゃあ!!」

 怪我人にはよくない。

「飯にするぞ。今日からお前等はわしの孫じゃ。たっぷり修業してやるからのう」

 鳥肌もんだ。

「よ、よろしくお願いします!!」

 それでも、二人は進む。

 目的がある限り。

  

 

一部完

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