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デスマッチ  作者:
12/18

◇12

「あります」


 即答できた。正直不安だったんだ、あんな連中たちと一緒に、果たして自分が肩を並べて戦えるのかと…。

 でも、即答できた。


 できたよ、矢藤御さん。



「あんな苦い空気の中に入れてもうて、悪かったな」

 笹目が、ばつの悪そうな顔をする。

「どうってことない。俺、ああいう空気には慣れてるから」

 慣れているって言うのも、何だかおかしな話だ。

「随分、苦労して育ったんやな」

 その言葉に、ただ黙って頷く恭平。笹目も、それ以上は聞かなかった。

「じゃ、行くで!」

「え?どこに?!」

「決まっとるやないか!」

 頭をど突かれた。

「恭平の力を、開花させるんや!」



永久部屋とわのくうかん”=ここに入る者は、心を無にし、全てを受け入れるべし。


「ここは…」

「まぁ、修業部屋ってとこや」

 笹目に背中を押され、半ば無理矢理部屋に押し込まれる。

「おぉ!ちびっ子共、やって来たなぁ」

 広い畳の部屋に座っていたのは、百歳はゆうに超えてそうな、よぼよぼの老人だった。髭が長すぎて、畳についてしまっている。

「岸本から話しは聞いておる。そこに座れ」

 言われるがままに、二人は正座する。

「さぁて…何から始めようかのう…そうだ、自己紹介じゃな。そっちの坊主、名前は?」

「お、小倉恭平です」

 間髪入れず答えた。

「そうか…わしはたみ。ここにいる中では最年長じゃ」

 言われなくても分かる。

「民じい、こいつの力を開花させてやって!」

「黙ってろ、笹目の坊主。お前に発言権はやっとらん」

 口を閉ざす笹目。

 民の目つきが変わった。

「次はルール説明といこう…ルールは至って簡単じゃ。戦闘中以外、わしが指を指した時以外の発言は厳禁。それと…」

 この部屋の空気の冷たさに、背筋が凍りついた。


「ここでの修業には、命を賭けること…」


 言葉を失った。

 冗談だと思えなかったのは、民の目つきの鋭さを見てしまったからだ。

「さて、修業を始めよう。これもルールは簡単じゃよ」

 ニッコリと微笑む民。

「わしに殺されんことじゃ」 





 何時間、経っただろう…。

 そして、いつまで続くのだろう…。

 それから…


 一体自分は、いつまでこうして立っていられるのだろう…。


「ぐわぁ!!」

 血まみれで倒れる笹目。もはや、立ち上がっているのが奇跡だ。

「笹目の坊主、ちとは成長しとるのう…わしゃ、嬉しい限りじゃ」

「ど…どう…も…」

 笑顔が引きつっている。

 彼がこんなにぼろぼろなのに、民はどうだ?


 傷一つなければ、汗一滴かいていない。


「だ、大丈夫、笹目!」

「心配いらん…お前は、見とけ。まずは俺からや」

「でも…」

 無力な自分が、こんなにも情けないとは思わなかった。

「民じいの身体に傷をつけられて、初めて…一人前の退治屋として認められるんや」

 滴り落ちる血にも臆することなく、彼の目は鋭さを失わない。

 楓と同じ瞳だ。

「行くで、じじぃ!!」

 再び民の元に飛び込む笹目。それはあまりにも無防備で、気性が荒い。けれども、彼の気迫に圧倒される自分がいた。

「まだまだ…」

 しかし、民は笹目の身体を、まるで蠅を手で払うかのように片手で飛ばした。

「気性が荒いことはいいことじゃ。じゃが、戦場ではそれが命取り。笹目…そなたにはここが足りん」

 民が、人差し指で頭を指す。


 ここに入る者は

 心を無にして

 全てを受け入れるべし


「舐めんな…俺かて、考えとらんわけやない…」

 笹目が薄らと笑う。

「何…?!」

 民の頭上から、無数の針が降ってきた。それは余りにも突然で、恭平には何が起こったのか理解できなかった。

「俺の考え出した技…百十の札、針千雨はりせんぼんや!」

 あんな針が降ってきたら、ひとたまりも無いだろう。

 傷の一つや二つ…。

「面白い技やのう…。さすが、柔軟性を帯びておる」

 やっぱり、無傷だった。何かに守られていたかのように、服の乱れすらない。

 恭平が、腰を抜かした。

「さて、反撃といこう。技を出してくれたんだ、わしも見せないといけんのう…」 

 地面が揺れだす。いや、これは軋んでいるのだろうか…。民から流れ出す力に、この部屋が耐え切れていない。

「四の札…毒多美どくだみ、解禁っ」

 畳の間間から出てきたのは、無数の蔓。蔓は笹目を捉え、彼の身体を軽々と持ち上げた。

「わぁ!!」

「苦しいか?どうにかして脱してみろぉ…早くせんと…」

 民がにんまりと微笑んだ。



「死ぬ」 

  

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