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世界の中心を探す冒険

目を覚ますとそこは異世界だった。


僕は起き上がり大きく息を吸い込んだ。冷たい空気が肺を満たした。


僕の立つここは高い丘の上で、辺り一帯に連なる丘稜(きゅうりょう)地帯の一角みたいだった。見晴らしは良かった。


しかし丘の上、強く冷たい風が吹きすさぶ中、僕を包む衣服は薄着でこのままでは風邪を引きそうだった。


辺りを見回した。どこかに風雨をしのげる場所はないかと思ったから。


遠くの丘の上に塔が建っているのが見えた。小さくあかりも灯っている。たぶん歩いて行ける距離だ。


僕はとにかく丘を下り、塔の方角へ向かって歩き始めた。しかし内心は少し不安でもあった。


歩いているとき、寒くて頭が少しぼうっとなっていると、突然、頭の中に呪文が浮かんできた。


「>}%]€<*」僕はほとんど抵抗なく無意識にその呪文を唱えていた。


すると「ブワッ」っと音が鳴ったかと思うと、僕はいつの間にか暖かい旅人風の衣服に包まれていた。皮のリュックを背負い頭巾をかぶり、フェルト生地のマントになめし皮のブーツ。そして手袋をはめた手にはカシの木の杖が握られていた。顔に触るとなんと濃ゆい口髭まで生えてしまっていた。


自分がまるで別人になってしまったような気がしてまた少し不安になってしまった。不安を埋めるように僕は道を急いだ。


塔の建つ丘のふもとまでやってきた。近くから見ると石造りの古くて立派な塔だった。やはり窓からあかりを放っているので誰かがここを使っているみたいだった。


僕は塔を使っている人が、例えば山賊のような野蛮な連中ではないかと想像して恐れた。


しかしここでずっと立ち止まっているわけにもいかない。リュックには、毛布と少しの着替え、調理器具の他には何も入っていなかった。そろそろ日も落ちかけてきたし、お腹も空いた。なにか温かいものが食べたい。


意を決して僕は塔の建つ丘を登った。塔の入り口まで辿りつき、僕は扉を叩いた。「誰かいませんか」と言ってまた3度扉を叩いたけれど、反応はなし。丘の上はやはり風が強く、マントを煽られた。


迷ったあげく、塔を仰ぎ見た。二階の窓からは煌々とあかりが灯っている。空は赤く、すでに夕暮れ時だ。


風の音に混じって、近くで声のような音がしたような気がした。塔の入り口とは反対側まで歩いていった。


すると十字架の前に誰かが立っていた。僕は反射的に影に身を隠した。十字架はたぶん墓だ、と思った。


その人は墓の前でくずおれるよるようにしゃがんだ。墓の下の地面は新しく埋め立てられたようで、芝草がなかった。


僕はどうすることもできなくてその場に立ち尽くしていた。冷たい風が吹く中、夕焼けに包まれた丘陵地が凄絶な美しさをたたえていた。


しばらくしてその人は立ち上がり、こちらへ歩こうとしてようやく僕の存在に気付いた。とっさの反応として僕は緊張して固まった。


「誰?」と彼女は言った。あきらかに警戒している声色で。


「僕は・・・」そう言って先が続かなかった。どう言えば信用してもらえるのだろう?


「あなたは誰?」なおも彼女はそう問うた。懐から何かを取り出した。一瞬、銃かと思ったけれど、それは細くて短い棒のようなものだった。


僕は驚いて体勢を崩して地面にしりもちをついた。その急な動作に彼女は敏感に反応して「>~%]*€_」と呪文を唱えた。棒の先から強い光が出て、僕の方へ向かってきたけれど、それは幸運なことに向こうへ逸れた。


「変な動きをしないで!」彼女は怒鳴った。よく見ると小さな女の子なのだ。


「驚いただけだ!」僕も怒鳴りかえした。「それ何!?何したの今?」


「魔法よ!あなた魔法を知らないの?」


「知ってるけど今のは初めてだ・・・」


「わたしはあなたが襲ってくると思ったから、あなたをフロッグに変えようと思ったの」


「カエルに?冗談じゃない!僕はそんな悪い人間じゃないよ」


「あなたは旅人?どこから来たの?名前はなんていうのかしら?」


「質問は一度にひとつにしてくれよ・・・それが何も思い出せないんだ」


僕は丘の上で目が覚めてから、すっかり記憶を失っていた。自分の名前も、今までどこにいたのかも、これからどこへ行こうとしていたのかも。


ただ漠然とこういう認識があっただけだった。つまり、「ここは元いた世界とは違う、別の宇宙であり、別の星である」という認識だった。


ここは異世界であり、僕は内面的にも外面的にもほとんど丸裸といっていいような状態でこの地に突然置き去りにされたのだった。



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