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7. タカヤは旅立つ

 気がつくとタカヤは村の集会小屋の中にいた。


「目が覚めたっ! 良かったーっ!!」


 甲高いカカセの声が耳障りだ。

 体を起こそうとしたら、膝がずきりと痛んだ。

 集会所では、大人たちが火を囲んで酒を飲み、わいわいと騒いで居た。


「起きたかタカヤ。おまえはミジャクジ様の事何か知らないか?」


 酒を飲んで顔が赤い長脛彦がタカヤに聞いた。

 タカヤは体を起こして、小屋の中を見渡した。ウーが居ない。


「父さん、ウーは? ウーはどこ?」

「まだ帰ってない、母さんも心配している」


 帰ってない。

 タカヤはポロポロと涙をこぼした。


「どうしたの、タカヤ、どこか痛いの?」


 気遣うカカセの手を、タカヤはうるさそうに払った。


「な、なによお」


 傷ついたような目でカカセはタカヤを見た。


「おまえがタカヤかい、ふん、約束を破って戦を見に行くような悪い子供の顔だね」


 小屋の奥から老婆がやってきてそう言った。

 タカヤはうつむいた。返す言葉もない。

 彼女は長脛の巫女衆を束ねる、大婆さまだ。

 胸につけた沢山の貝の首飾りがカチャリカチャリと鳴る。


「何があったんだい、マレの子はどうしたんだい、お話し」


 ぽつりぽつりとタカヤは大婆さまに自分とウーに起こった事を話した。

 婆様はタカヤの側に座り、手を取って、真剣に聞いていた。


「ミジャクジさまを神下ろししたってえのかい、それはとんでもないね」

「婆様っ、それじゃあ何かい、そのマレを使えば何時でもミジャクジさまを呼べるって、そういう訳かい?」


 長脛彦は嬉しそうに大声を上げた。


「まあ、そういう事だね。だが、そのためにはマレを探さないと」

「ミジャクジさまを何時でも使えるなら、この国どころか、大陸まで攻めて行けるぞっ」


 タカヤは胸がつぶれそうだった、ウーをそんな風に使わないで欲しい、そう、思った。

 大婆様は、そんなタカヤを見て、優しそうな目をして、クシャクシャと頭をなでた。

 そして、静かに目を閉じ、婆様は呪を歌う。

 うなりのような、獣の鳴き声のような、外つ国の歌のような呪が、集会小屋に流れ、みな、しんと黙って御託宣を待つ。


「そうか。うん」


 大婆さまは深く頷いた。


「お聞き、長い長い旅になるよ。一年も二年も掛かるよ。でも、タカヤ、お前はウーを探しに行かなくてはいけない」

「いきます。俺がウーを探します」

「若い衆を二人つけよう、ヤセ、カナギ、二人で旅についていきな」

「おう」

「わかった」

「ヤセは猟が得意だ、カナギは道を読む事ができる、きっとお前の旅の役に立ってくれる」

「わしも、そろそろ石を交換に行かねばならん、イセまで旅を教えながら行こう」


 オンジがそう言ったのでタカヤは嬉しくなった。


「行ってくれるかい、たすかるよ、オンジ」


 大婆さまが柔らかく笑って、そう、言った。


「タカヤも若い衆も旅は初めてじゃろう、道々色々覚えなくてはな」

「タカヤ、絶対マレを探し出して連れ戻るんだぞっ」


 長脛彦は笑ってそういった。


 出発は明日となった。

 タカヤは家に帰った。

 ウーの居ない寝床はなんだか寂しくて冷たい感じがした。

 父と母は、釣り針や縄や毛皮の肩掛け等を出してくれた。

 鬱々と眠れない夜が明け、タカヤは家から送り出された。荷物は父が作ってくれた。母がそこに食料を入れてくれた。

 広場には旅支度の若衆二人とオンジが居た。

 タカヤが来ると、三人は笑って肩を叩いた。

 村の門を出ようとしたタカヤの前をカカセが手を開いて立ちふさがった。


「いっちゃだめっ」

「……」

「いっちゃだめだよっ!」


 カカセは泣いていた。


「夢を見たの、タカヤが帰ってこない夢っ! 行かないで、ここに居て」

「帰ってくるよ」

「嘘っ!!」

「帰ってくる、ウーと一緒に」

「あんな子、あきらめれば良いっ! あたしと一緒に居てよっ!!」


 タカヤは黙ってカカセの肩を軽く押した。

 彼女はころりと転がり、茂みの中で、天を向いて、わあと泣いた。


「帰ってくるから」


 カカセに、そう言って、タカヤは歩き出した。


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