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狩る者狩られる者

「はあ……はあ……」


青々と深い木々の森を駆けていく白い影。だいたい170cmくらいのそれは真っ白な毛に覆われている。

白い影は焦っていた。行けども行けども変わらぬ景色、逃げども逃げども離れない距離に。

ダンッ、と音がしてその影を一筋の軌跡がかすめる。白い影はその軌跡がわざと自分をかすめるように放たれたモノだとすぐに気づきまた走り出した。


「どうしてこうなった……」


白い毛に覆われたうさぎの着ぐるみを着たクムラ・ユキオは走りながら諦めるように呟いた。






▽30分前

「今日は狩りをしまーす」


それなりの広さの部屋、白板の前。いつものように第一声を発するリカさん。


「出来ませんよ」

「出来ませんね」


そして僕が否定してアンナさんも否定する。


「なんでだよー、やろーよやろーぜ」


そう言ってわざとらしく頬を膨らませるリカさんを見るとちょっと嫌な予感がする。


「やるにしてもここは基地であって狩場じゃありませんから、獲物がいなくて終わりですよ」

「もう獲物は準備してる」

「やる気満々ですね……」

「おうよ!」


主張を通そうとしているのが勢いよく出てきた言葉からにじみでている。


「はあ……、どうせ嫌って言ってもやるんですよね?」

「当たり前だ」


もともと人の話を聞かないであろう彼女には、もはや何を言っても無駄だということをクムラたちは理解した。


「わかりました。やればいいんですね」

「お、やる気あんじゃん」

「上官だけど、怒りますよ?」

「へいへい」


僕は呆れたように言ったけれど、リカさんはめんどくさそうに返してくる。


「アタシとアンナとリーシェは先に外に出てるけど、クムラはこれに着替えてからな。じゃ」


と、リカさんは少し小さめの段ボール箱を渡してからドアを開けてさっさと部屋から出て行く。


「……頑張りましょう」

「ご愁傷様」


それに続いて2人も出て行く。1人残された僕は渡された段ボール箱の中を見て、


「嫌な予感しかしない……」


それしか言えなかった。





「アハハハハハハハハハハッ」

「クッ……」


言われた通りに、指定されたモノに着替えてから集合場所に来たのに思いっきり笑われている。


「似合……似合ってるよ、アハハッ」

「なんて言うんでしたっけ?ジャパンの……『草食系男子』でしたっけ?まさしくそれですね、フフッ……」


リカさんとリーシェさんは僕の格好見て笑う。そりゃ成人近い男がこんなウサギの着ぐるみ着てりゃ笑うよな。


「ええ、もういっそ笑ってください」


と言ったらさらに声を上げて笑われる。

今僕は白い毛色のウサギの着ぐるみを着ている。全身がモフモフしていて胴の部分から腰あたりまでがダボっとしている着ぐるみだ。そしてなぜか顔の被り物はなくウサギ耳のヘアバンドを着けるという日本だと職質モノの恰好なのだから当たり前と言えばそうなのだが。


「本当大変でしたよ、背後のチャックとか」

「でも着たんですね」

「着なくても無理矢理やらされてたでしょうし」

「よく分かってるじゃねーか」


目に涙を溜めながら言われる。


「せめて顔は隠したかったんですけど」

「視界悪いと困るのはお前だぞ?」

「やっぱりですか……」


ここまでやってしまえば予想は容易い。獲物とはつまり『僕』のことだ。


「安心しろ、ちゃんとペイント弾だから」

「当たり前ですよ」


リカさんが手に持つ銃の引き金をカチャカチャと弄る。それにアンナさんは呆れたような物言いだ。

呆れているのは僕も同じだからその気持ちがよくわかる。


「というか僕は3人に追われるんですか?逃げるの僕1人だけですか?」

「大丈夫です。クムラさんは粘り強く逃げ回ると信じてますよ。それはもう嫌になるくらいに」


リーシェさん、今はそんな信頼欲しくなかった。


「じゃあクムラが森に入って10分後に攻撃ってことで」

「え?これ始まるんですか?」

「そうだ。行ってこーい」


ドンと背中を押されて若干よろめきながら森の入り口付近に立たされる。戦慄するしかない状況の中肩を叩かれ振り向くとアンナさんがいた。


「どうかご無事で」


……本当に嫌な予感しかしない。

誰得

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