特別な日ってどういう定義ですか?
甚だ疑問だ。荷物をまとめながら僕は考えていた。
つい先日、僕の異動が決まった。異動先は第07小隊だ。この隊は『恐ろしいほど強い人たち3人で構成されていて、その3人が皆女性』だと聞く。で、僕は見たことはないがその人たちは美人さんらしい、だからついた渾名が『戦場の女神群』。これだけ聞けばまだ印象は『強くて美しい女の人たち』で済んだかもしれない。
けど、この特殊機動攻撃部隊ではその小隊は(勿論な話だが)有名で、華々しい戦果と共に、少し暗い噂もある。曰く『入ったら皆辞めていく、ノイローゼになった奴もいる。戦場よりも地獄』だそうだ。
今の世に、戦争はない。だから僕は戦場がどんなのかは知らないが、厳しい訓練に耐えてきた先輩たちからこれを聞かされたのだから、おのずと警戒度は高まるというものだ。
「どうして僕なんだろう……」
それは最早、疑問ではなく諦めの言葉だった。そんな言葉と共にため息を吐く。
「まあそんな落ち込むな。寧ろ光栄じゃないか、女神様にお呼ばれされたんだ」
「他人事だと思って……」
こうやって話しかけてくるのは同期のイクラ・レイ。同じ国の出身ということで自然に仲良くなれた、僕の数少ない友人だ。
「しかし、羨ましいよ。向こう女ばっかなんだろ?ハーレムじゃん」
「そういうのは現実に存在しないの。出来たとしても一夫多妻制のある国か、倫理観が破綻してるか、アニメくらいだよ」
「漫画とラノベを忘れてるぜ」
「知らないよ」
こんな冗談のやりとりが出来るのも今日が最後なのか、そう思っても胸にくるものがまるでない。内容がどうでもいいことばかりだからだろうか。
「イクラはオタクだったんだな」
「そうでもないぜ。高校生になって周りと話合わせるためにちょっとかじったぐらいだ」
「そういうものか?」
「そういうもんだ」
イクラは高校時代は(自称)リア充の類だったらしく顔が広かったとのこと。なんでそんな奴が軍部に来てるのかは疑問だが、あまり詮索しないほうがいいのだろう。
「ま、それは置いといてだ」
僕の荷物がまとまったタイミングでイクラが話をリセットした。
「とりあえず死なない程度にがんばれ」
スゴイいい笑顔で言われた。その顔は「面白ければいいや」主義のイクラが良く反映されている。
つまり僕がどうなるかを高みの見物して愉しもうという魂胆だ。しかも、それを隠そうとしない。我が友ながら恐ろしい。
「死なない程度に頑張るよ」
僕は荷物の入った箱を持ってイクラにこう返す。
そして僕はその部屋を後にした。
▽
“第07小隊のお部屋だよ♡”と書かれたプレートがつけられたドアの前で僕は緊張していた。
“のお部屋だよ♡”の部分が明らかに手書きで、大分緊張を削がれたものだが。
こうしていざ部屋を前にすると怖気づいてしまう。あんな噂の立つような小隊なんだ、なにがあっても不思議ではない。覚悟を決めようとしても、なんだか胸に穴が空くような不安感がする。
まさかいきなり発砲されたりとか……、いやいやナイナイ。いくらなんでもそれは軍としておかしい。
そう!多分噂は誇張されてて、本当は優しい人たちだ、といいな。
なんて自己暗示をかけてみるものの、別の自己がそれを砕いていく。もう僕の脳は一人会話が得意なんだな、と。
違う違う!挨拶、そう挨拶しないと!だから部屋の前にいるんじゃないか、僕!
荷物を置いて両頬を叩く。結構強くやったから痛いけど、気合は入った。さあ、行くぞ!
荷物を再び抱え、コンコンとノックをして、「はいれー」と中から声をかけられた。からドアを開けて部屋に入る。
「今日から特殊機動攻撃部隊第07小隊に配属させていただきます。クムラ・ユキオです。よろしくお願いします」
と一礼。なんだか焦って最後のほうは声が裏返ったりしたが……、あまり思い出さないようにしよう。
顔を上げるとそれぞれ違う髪色の女の人が3人。長さも髪型もバラバラだ。そして噂通り皆綺麗な人で……。
つまり他の噂もおのずと信憑性が上がるわけで……。
「アッハハハ!最後裏返ってやんの」
赤髪をポニーテールにした人に忘れようとしたことをすぐに言われて、顔が熱くなっていくのがわかる。
「その上顔を赤くして、これは思った以上に面白くなりそうですね」
毛先にゆるくウェーブがかかった白髪の女の人は追い打ちをかけてくるし、この人たちはエスパーか?なぜこうまで考えることを指摘されるのだ?
「二人とも、そんなんだから新人が辞めていくんですよ。少しは自重しなさい」
と、短めの黒髪の人が流れを切ってくれる。多分この人が一番マトモだろう。そうに違いない!
「おやおや、アンナちゃんはこの新人がお気に入りのようだ」
「あら、すみません気づけなくて。なら邪魔者は退散ですか?」
「なんでそうなるんですっ!そういうのじゃありません」
だめだ……。黒髪の人は一番マトモなのかもしれないけど、多分この隊の中じゃ一番言い合い弱い。今だってニヤニヤニコニコされながらイジられてるもの。
「よし!新人がこの隊のヒエラルキーを理解したところでアタシらも自己紹介だー」
だからなんで心読んでから話すんですか!
・
・
・
「えー、アタシが一応この隊で隊長やってるリカだ。面白いことには寛容だが逆らったら容赦しないからよろしく」
赤い髪の人はリカさん。なんだか活発な人って印象だ。まあ、さっきのやりとりでイジるのが好きってのはわかったけど。
「リーシェ・ミネールです。私も面白いことには寛容です。貴方も面白いの部類ですので、そのつもりで」
ニコニコの笑顔でトンデモなことを言っているのがリーシェさん。その綺麗な白髪とは裏腹に黒い人なんだなぁ、って印象だ。た
「……アンナです。この人たちの言うことは8割方嘘っぱちですので、あまり本気にしないでください」
眼鏡の奥の双眸がジトっとしてるアンナさん。これは僕に向けられているものじゃないと信じたい。
「自己紹介終わりっ!さっそく歓迎会始めるぞー!」
「え?なんかやるんです?」
「そりゃ新人が来たら歓迎会だろー。ってのは建前で、騒ぐ口実がありゃ騒ぐ、これウチの隊のポリシーな」
リカさん自慢げに話してくれてるけど、アンナさんは苦い顔をしている。もしかしたら普通の歓迎会じゃないのだろうか?
「安心してください。勤務中ですからお酒はナシです。酒乱は召喚されません」
「てことはいるんですか?酒乱」
僕の怪訝そうな顔を読みとったのか、リーシェさんが話しかけてくる。僕の質問にはただ笑顔のみで返されたから心の底からは安心できなかったけど。
「って、リカさん思いっきり飲んでるじゃないですか⁉︎」
「ノンアルコール‼︎」
気づいたらリカさんが銀色の缶を傾けていた、それに自分でもビックリな声がでた。そして返された言葉、絶対嘘だ。
「ちょっ、リーシェさん?飲まないんじゃないんですか?」
「リカはほら、リカですから」
「説明になってませんよ。バレたら処罰モンですよ!」
「バレなきゃ犯罪じゃねーんだよ」
「おい軍隊!」
▽
この光景を見ながらアンナは思った。「仕事が減る。いい新人が入った」と。
細かい設定は追い追い本文で書いていきたいです。






