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浪花の初秋

沖縄の島 から おばあ伊良部よし子(いらぶよし子)が 大阪にやって来る


大阪珍道中 開始!

9月の半ば 暦の上では 秋なのだが まだまだ 暑い

大阪 伊丹空港で 平良祐(たいらゆう)は おばあ伊良部よし子(いらぶよしこ) を待っていた

空港の待合所に「ただ今 ●○便 那覇空港から 到着いたしました」とアナウンスがあった

20分ほどして よし子が ゲートから出てきた

「おばあ よく(よー)来たね」と祐は 迎えた すると

「これ あんたの忘れ物さ」と言って よし子は 手提げ袋から島ぞうりを出してきた

「ありがとう」と言って 祐はコンビニエンスストアー で貰った袋に 島ぞうりを入れた よし子が

「皆 元気かね?」と聞いてきた 祐は

「皆 元気やで お兄は 全然帰って来うへんけど げんき違う(ちゃう)かな?」と言った

祐には 5歳離れた兄が居るが 東京で仕事をしており もう 何年も会っていない

そして 

「おばあ 大阪に来るん 何年ぶり?」と 祐はよし子に尋ねた よし子は

「30年ぶりぐらいかね? 有紀江の結婚式の時以来さ」と答えた

祐はビックリしながら

「私が 生まれる前やん」と言うと よし子は

「なかなか 来られなかったさ おじいが元気な時は 仕事も忙しかったからね」と言った

「その おじいも亡くなってから10年経つもんね」と祐が言うと よし子は

「15年になるさ」と言い 「おじいと 大阪に来た時は 忙しくてゆっくり出来なかったさ」と言った「ほんなら 前に来た時 あんまり観光とか してなかったんやね」と祐が言うと

「結婚式に出て すぐ帰ったから どこも行ってないさ」とよし子は言った 祐はよし子に

「おばあ 何処か(どっか)行きたい所ある?」と聞くと よし子は

「そうさね 道頓堀川 あれ見てみたいね」と言った 祐は 道頓堀川?何で?? と思いながらも

良いよ(えーよ) そやけど あの辺 若者が多いよ」と言った よし子は

「行ってみたいさ」と言った

祐とよし子は バスと電車を乗り継いで 道頓堀川の戎橋 通称 引っ掛け橋に やってきた

すると よし子は

「テレビで見るのと 変わりないさ」と言って喜び「ここで 皆 川に飛び込むね」と言って 橋の欄干に 登ろうとした 祐は 驚きながらも

「おばあ やめて 誰も飛びこんでへんから」と よし子を 羽交い絞めにした

「おばあ 飛び込むの上手さ」とよし子が 胸を張って 言ったので 

「ここで 飛び込むの 禁止や(あかん)から それに この川汚いから」と祐が言った

「本当さね 色々なものが浮いてるね」とよし子は 川を見つめていた 祐も川を見ながら

「この川も 沖縄の海みたいに綺麗かったら どんだけ幸せやろ」と言った 祐は

「おばあ 他に行きたい(とこ) 有る?」と聞くと よし子は

「ちょっと待っててね」と 手提げ袋から 1枚の紙を取り出して

「・ぐりこ? の大きな看板が有る ・くいだおれ人形が いらっしゃーい と言っている」と読み始めた 祐は

「ちょっとその紙見せて」と言って よし子から その紙を見せてもらった

その紙には 上手とは言えない 子供の文字で

~大阪 ガイド~   と初めに書かれており

・道頓堀川に行って 飛び込む

・グリコの大きな看板がある

・くいだおれ人形が ’いらっしゃーい’と言ってくれる

・かに が 上手におどっている

・ふぐ が とんでいる

と書かれている 

祐は

「これ 誰 書いたん?」と 聞いてしまった

「陽太が書いたさ」とよし子は答えた 祐は(陽太 あんたの知識は どこか間違っている)と思いながらも

「せっかく 陽太が 書いてくれたんやから 書いてる(とこ)順番に 行こか」と言った

「嬉しいね」とよし子は 大喜びである

そして 祐は 

くいだおれ人形 太郎君は’いらっしゃーい’とは 言わないこと かに道楽の’かに’は 動いてはいるけど 踊ってはないこと ふぐの看板は つるされてはいるけど 飛んでないことを 説明しながら順番に案内した

そして 祐が

「お腹 すいたね 何食べる?」と質問をすると

「お好み焼き!」と 即答でよし子が答えた

「お好み焼きか・・・ おばあ 家の近くの店が めっちゃ美味いわ」と 言いながら 祐は おばあを案内した

地下鉄で 数駅移動をして 駅に近いお好み焼き店に入った 店の名前は’まる’と言う

「いらっしゃい 祐ちゃん こんばんは」と ’まる’のおばちゃん 藤田信子(ふじたのぶこ)が お水とお絞りを持ってきた 祐は「おばちゃん おばあ今日沖縄から来てん」と紹介をした 信子は

「いらっしゃい ゆきちゃんのお母さんやね わざわざ来ていただいて ありがとうございます ゆきちゃんには お世話になっております」と 挨拶をした よし子は

「こんにちは 有紀江が それほどお世話してるとは思えないさ たぶん 有紀江の方がお世話になってるさ」と言った すると お店のおばちゃんは

「ゆきちゃん 今 この近くの内科で 働いてるから 家族中 世話になっております」と言った

祐の母 有紀江も ナースである 5年ほど前から 近所の内科で働いている

ちなみに その前は 国立病院で働いていた

「あっ そうや 注文や」と祐が言い「おばあ (なん)にする?」聞いた よし子は

「何が 良いかね?」と言いながら 迷っていた 祐が

「ほんなら ここの お店の美味しいの 言うで」と「スジねぎ と ブタたま それとビール」と注文した おばちゃんはビールと サービスの突き出しを 出して 店の奥で準備を始めた よし子は

「楽しみだね」と嬉しそうである

店の 入り口が開き 賑やかに2人のおばちゃんが入ってきた

「いやー 祐ちゃん元気?」と言いながら 隣のテーブルに おばちゃん2人が座った そして 勝手に鉄板に 火をつけ 油も引いた そして 自分で お水お絞りを勝手に取りに行き

「信ちゃん ビール勝手に取ってくでー」と言って 冷蔵庫から瓶ビールを取り出し グラスも勝手に持っていった ついでに つき出しも 冷蔵庫から取っている

そして 椅子に座り

「祐ちゃん 乾杯」と言って 乾杯をしてきた 何がめでたい訳でもないけど 祐とよし子も「乾杯」と言った

すると そのうちの一人が

「今日 お母ちゃんと 一緒ちゃうの?」と言った 祐は

「今日は おばあと一緒! お母ちゃんのお母ちゃんやねん」と 紹介したすると

「ゆきちゃんの お母ちゃん!会えて嬉しいわ!」と歓喜の声を上げ

「私 中村 武千代(なかむらたけちよ)と申します ゆきちゃんに お世話になってます」と挨拶し「皆から ’たけっち’って呼ばれてますねん」と付け加えた そしてもう一人が

「私 佐藤 松恵(さとうまつえ)と申します 私もゆきちゃんに お世話になってます」と挨拶をして「私も皆から ’まっちゃん’って呼ばれてます」と言った よし子も

「私は 有紀江の母 伊良部よし子(いらぶよしこ)と申します 有紀江が 皆と仲良くしてて 嬉しいさ」と言ったそして「’たけっち’さんと’まっちゃん’さん 覚えやすいさ これからも仲良くして下さいね よろしくね」と頭を下げた すると

「’たけっちさん’まっちゃんさん’って さん要らんから」と笑いながら たけっちが言った するとよし子も

「私も おばあ で良いさ」と 何だかすっかり打ち解けている

そして お好み焼きが出来あがって来た 信子が

「はい ブタたま ね それで これが スジねぎ」と 持ってきた

そして 信子は ’たけっち’と’まっちゃん’に

「今日は2人だけ?」と聞きながら 「これ いつものやから」と お好み焼きの材料が 入った ボウルを2人に渡した 2人は慣れた手つきで お好み焼きを焼きながら たけっちが

「今日は 2人だけやねん」と言い「あのな ’うめちゃん’な ぎっくり腰になってしもてん」と言った

この常連のおばちゃん達は いつもは3人で行動している もう一人は西本梅子(にしもとうめこ) と言おばちゃんで いつも一緒である 周りの人たちは 3人まとめて 松竹梅3人トリオと呼んでいる

信子が

「そらえらいとやん コケたん?」と聞いた すると まっちゃん が

違う(ちゃう)ねん あの子の(とこ)の一番下の子 あんちゃん 先週子供生んだんやけどな」と言った すると 信子が

「アンちゃん言うたら 4月に結婚した子やろ」と言うと

「そうそう」と たけっち が答えた お好み焼きは 綺麗に焼けて ビールも美味しく飲んでいた

祐は(4月に結婚で 9月に出産?計算合わへんで!)と思ったが そんなことは関係なしに 話は進んでいる  たけっちが

「それでな アンちゃんが 分娩室で頑張ってる時にな うめちゃん 自分も分娩室の前で 『頑張れ!頑張れ』言うて 綱引きみたいなスタイルで 気張ってはったんやて そんで アンちゃんは無事出産したんやけどな うめちゃんがな ぎっくり腰に なってしもうてん」と説明した

皆 大笑いしながら

「それで うめちゃんと アンちゃん どうなったん?」と信子が聞いた すると

「アンちゃん さすが若いで 18歳やもんな 子供生んで2日で 退院したわ そやけど うめちゃん 歳考えんと 綱引きスタイルで 気張っとったんやからな 腰も悪うするわ そやから まだ入院してんねん」と まっちゃん が言った

皆 動作付き説明 で 大笑いしてると 突然 たけっちが

「そやけどな 困ってることが あるねん」と言ってきた 祐が

「どないしたん?」と 聞くと まっちゃんが

「明日 甲子園のチケットが 有るんやけど うめちゃんの分が 余ってるねん もったいないやろ」と言った 祐は

「私は 明日って 試合開始2時からやろ 仕事やから 行かれへんわ」と言うと 信子も

「私も お店あるしな」と言った すると 突然 たけっちが 

「おばあ 行こ!!」と言った まっちゃんも

「そや! せっかく 大阪来たんやから 行こ!」と 大乗り気である よし子も

「何か楽しそうさ 行こうかね」と乗り気である 

祐は おばあが 甲子園に行けることを 羨ましく思っていた


次の日 朝起きると 有紀江と父秀樹(ひでき)とよし子は すでに朝ごはんを食べていた 祐も一緒に朝ごはんを食べるために 食卓に座った

おばあは

「楽しみだね」と 言っていた 有紀江は

「おばあ良かったね 甲子園のチケットなかなか手に入らへんのよ」と言った よし子は

「そうなのかね ありがたいね」と手を合わせていた

祐は 朝食を済ませ 仕事に行った

夕方家に帰ってくると 有紀江が

「今から ’まる’に行くわ」と言ったので 祐も付いて行った

店に入ると たけっち まっちゃんと共に おばあも居た

たけっちと まっちゃんが

「ここ」と私達を手招きした 有紀江は たけっちと まっちゃんに

「今日は おばあを甲子園に連れて行ってくれて ありがとう」と御礼をした

すると たけっちが

「お礼なんかええんよ」と手を振って「盛り上がった 盛り上がった 楽しかった 勝った 勝ったー!!」ともう テンションMAXである まっちゃんも 

「やったー 嫌いな巨人に勝った 勝ったー!!そーれ行け 行け!」と大喜びである おばあも

「凄いさ 凄いさー 踊ったさー」と 大喜びである 祐は

「おばあ 良かったね 踊ったって?」と聞くと よし子は

「カチャーシー 踊ったね」と答えた たけっちも まっちゃんも

「楽しかった あの踊り めっちゃええね!」と言って 2人同時に カチャーシーを踊り始めた 祐も

「お盆に やったやつやね」と言い 一緒に踊った

お好み焼きを 食べながら 手拍子をし おばあは指笛を鳴らし 歌い お店の中は リトル沖縄のお祭りである 有紀江も初めは ためらっていたが 体が反応するのか 自然に踊っていた

家に帰ると 流石に疲れた その日は 早く寝た


次の日も 祐は仕事であった その日は 有紀江がよし子の案内を行うことに なっていた

祐が 仕事から帰ると デパートの袋が置かれていた 祐が

「めっちゃぎょさん 買い物(かいもん)したんやね」と言うと よし子が

「おばあは こんなに沢山いらないさ と言ったのにね」と言った 有紀江が

「たまにしか デパートで買い物出来ないんやから 買っても良い(ええ)でしょ」と言い「それと きみちゃん と 陽太 の分 渡しといてね」と付け加えた よし子は

「きみちゃん 喜ぶさ 色々有ったからね」と言った 有紀江も

「健二さん あんな事故で死ぬなんて ほんま かわいそうやわ」と少し悲しげに言った よし子は

「健二さんはあんたの 初恋の人だからね」と有紀江に言った 祐は

「健二おじさんって お母ちゃんの初恋の人やったん!!」と 驚くと 有紀江は

「嫌やわ 初恋の人って」と恥ずかしそうに 顔の前で手を振った よし子が

「事実さ 恥ずかしがら無くてもいいさ」と言った 有紀江は

「もう 大昔の事 言わんでも・・」とさらに 恥ずかしがった 祐は

「聞かせて どんなんやったん?」と興味深々である 有紀江が 

「健二さんは 優しい人でね 島にいる 犬や猫にも ご飯をあげたりして 皆に優しくしてた」と言った よし子が

「お祭りの日 皆で 港に飛び込むことになったさ この子も 当然飛び込みに走ったさ」と よし子は有紀江を 指差した 有紀江は

「昔は よく飛び込んでたさー」としみじみと言った 

「でも そのお祭りの日は この子 港の岸壁の直前で転んだね そして そのまま 港に落ちたさ」とよし子が 語った 有紀江は 

「そうだった 思い出したさ」としみじみしていた 

「それで この子は 足に大怪我をしたさ 健二さんは 怪我した この子を 背負って港の上がり口まで泳いで さらに 家まで おんぶして連れて帰ったわけさ」と よし子が語った 有紀江も

「そうだった」と言い「これ その時の傷」と足にある 大きな傷を 祐に見せた

祐は

「そうやったんや そやから お母ちゃん 健二おじさんのこと 好きになったんやね」と言うと 有紀江は

「それだけや 無いけど とにかく優しい人やった」と言い「他人を助けて 自分が死ぬって あの人らしいかもしれないさ」と しみじみ語った

祐は 

「でも お母ちゃん 健二おじさんとは 結婚しなかったんやね お父ちゃんと 結婚してんから」と 言った 有紀江は

「好きやった 言うても 中学生までやからね」と言い「あの島は 高校が無いから 中学卒業したら 色んな所の高校に行くでしょ そやから 高校からは あの人と離れてしまったからね」と言った よし子が

「この子は 那覇の高校に行ったさ 健二さんは 浦添の高校に行ったさ それで 高校を卒業したら 健二さんは 島に帰ってきたね」と言った 祐が

「お母ちゃんは なんで 島に帰らへんかったん?」と 聞いた 有紀江は

「島に 帰るん 嫌でなかったけど あの島仕事無い(あらへん)し 健二さんの家みたいに 家業があったら良い(ええ)けど」と言った よし子は

「あの家は 代々建築業をやってるからね 兄さん達は 家業継ぐの嫌がって 出て行ったから 健二さんが 継ぐことになったさ」と言った 有紀江は

「うちの お父さん あんたのおじいは お役所に勤めてたから 家業は無い(あらへん)し」と祐に説明をした「そやから 何か手に職をつけなあかんって思ったんよ」と祐に言った

「それで 看護学校行ったんやね」と祐が言った 有紀江は

「そう それで 出来るだけ学費が安くて 暮らすところがある所って探したら 大阪にあったんよ 寮付きで学費が安い学校が 最初見つけた時 ここしかないって思ったわ」と言った 祐は

「それで お父さんと出会ったんやね」と言うと 有紀江は

「それは もっと後になってから」と言った

そんな話を していると 父も帰ってきた

夕食は 今日 デパートで買ってきた 美味しいものが ならんだ

祐は 母が何故 父と結婚したのか 聞きたくてしょうがなかった 


翌日 よし子は帰る支度をしていた 祐が

「おばあ もうちょっとゆっくりしたら良い(ええ)のに」と言った よし子が

「今 おばあは 何にもしてないけど あんた達は お仕事が有るね おばあがいると 邪魔になるね それに おばあが帰らなければ 島の皆も心配するね」と 荷物をまとめていた

お昼前になり 祐が

「空港まで 送るわ」とよし子と一緒に家を出た

電車 バスを乗り継いで 大阪 伊丹空港に着いた よし子は

「本当に楽しかったさ たけっちと まっちゃん それに信子さんに よろしく言っといてね 秀樹さんにも ありがとうって言ってね 有紀江には 仕事で無理しない様に 言っといてね」と言った 祐は

「解った 皆に言っとくからね」と答えた よし子は

「それに あんた くれぐれも体に気をつけてね」と 手を握ってきた

祐は その暖かい手を 離せずに

「おばあ 解った 解ったで」と 答えた よし子は

「もう 行かなくちゃね」と言い 出発ゲートをくぐって行った

祐は 姿が見えなくなるまで 手を振り続けた

       

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