プロローグ
沖縄の島に暮らす おばあ そして 普通の人々
そして島から 出て大阪で暮らす おばあの娘 そして その島が好きな おばあの孫
楽しく 優しく 暮らせたら 幸せって 人それぞれ
「バンザーイ バンザーイ!!」
皆が 口々に 叫びながら 道頓堀川 にダイブする
この様子を テレビ局のカメラが映像に収め
レポーターが
「サッカー 日本の勝利を 祝って 若者達が次々と ここ道頓堀川に 飛び込んでいます 一方警察は 危険が有りますので 飛び込まないで下さい と 皆に注意を呼びかけています でも 今も ごらんの様に飛び込みは 続いています」と ニュースで報じられていた
レポーターの後ろでは まだ 「バンザーイ バンザーイ!!」の歓喜の声 そしてダイブする水音 と共に「こちら浪花警察です 川に飛び込むことは 大変危険ですのでお止め下さい」と言う 警告の声が響いていた
その様子は ニュースで全国放送されていた
その様子は 沖縄の島でも 見ることが出来た
すでに 夏の暑さで 満たされた この島の 普通の家の居間で
「いやー 豪快だね 」と 伊良部よし子はテレビを見ながら 一人で呟いていた
そこに 近所の主婦川満きみと 小学校6年生になる息子陽太が
「おばあ 明後日の49日法要に使う 食器借りに来たね」と 開けっ放しになってる玄関から 入ってきた
「そこに有るから 持って行ってね」とよし子は 居間で座ってテレビを見たまま返事をした
陽太は よし子の隣に座りながら
「この川 どこにあるさ?」と言った きみは おばあの近くに来て
「陽太 これは 大阪さ」と言った そして「大阪 って言ったら ゆきちゃんと ゆうちゃん 元気かね?」と聞いてきた よし子は
「2人とも 元気みたいさ ゆう の方は 夏休みに帰ってくるさね」と言った
ゆきと言うのは よし子の 娘である ゆうと言うのは ゆきの娘 つまりはよし子の孫である
そして よし子は再びテレビを見ながら
「皆 飛び込んでるね この島でも 良いことがあったら 港で飛び込むさー だから一緒だね」と言った 陽太は
「港で飛び込んだら 危ないって 学校で先生に言われたさ」と答えた
「上手に飛び込んだら 良いさね」とよし子は 答えた
きみは 台所で食器を袋に入れながら(上手に飛び込むから良い とかそういう問題じゃないと思うのだけど・・)と心の中で 呟いていた すると陽太が
「昔’カーネル・サンダース’も この川に 飛び込んだって先生が 言ってたさ」と言った よし子は
「かーねるさんだーす?? 何さそれ?」と言った 陽太は 胸を張って誇らしげに
「那覇にあるさー ケンタッキーフライドチキン 僕 行った事あるさー そこに カーネル・サンダースいてるさ」と 自慢げに語った よし子は
「その ふらいどチキン?って テレビでコマーシャルしてるあれかね!」と言った 陽太はもう一つ自慢げに
「そこの クリスピーサンド食べたさー」と語った よし子は
「その かーねる何かは 食べ物かね?」と言うと 陽太は
「人の名前さー そこのお店の前に立ってる人さー」と言った よし子は
「その 那覇のお店に居る人が 大阪のこの川にわざわざ行って 飛び込んだんだねー」と感心していた
きみは(陽太 あなたの情報は どこか少し間違っている)と思ったが 食器を袋に入れ終わったので
「陽太 この食器重たいから 持って帰るの手伝って 大切に扱うんだよ」と言った
よし子は
「足りたかね」と きみ に言った きみは
「上等なの 沢山貸してもらえて 大助かりさ ありがとうね」とお礼を言った よし子は
「それにしても 健二さん あんな事故で無くなるなんてね 順番では おばあが先に逝ってもいいのにね・・」としんみりと言った きみは よし子の前に行き
「おばあ もう仕方が無いことさね あの日あの天気では 漁師は誰も海に出なかったさ・・ 内地から来た人間は 自然の怖さを知らないから 無茶をするね その上時間に追われてるから 無理やりでも 海に行ったりしたがるさ 周りが止めるのも聞かずに 釣りの道具を持って行って その上 防波堤を乗り越えたんだから そりゃ波にもさらわれるさ」と きみは ため息を漏らした そして
「テトラポットにしがみついてた 内地の釣り客を助けに行った あの人だけが死ぬなんて 今でも 理不尽だと思うさ」と きみは 涙した
「そんなこと 今 言っても仕方ないね 陽太 あんた これは お父さんの49日法要に使う 大事な食器なんだよ 大切に運ぼうね」と きみは 何か吹っ切るように言った
陽太は
「おとう いつも『防波堤の外は危ない』って言ってたさ なんで行ったのさ」と 泣きながら言った
きみは
「陽太 おとう達は 向かい側の港から 誰かが波に さらわれそうになっているのを 見つけてしまったんだよ 他の人達は 海上保安庁や警察に連絡をしてたんだけどね おとうは その人が力尽きるのが心配で 自分から行ってしまったのさ それで 釣り客は助かったんだから あの人らしいね」と又 涙を浮かべながら しんみりと言った
よし子は 若くても 死ぬ時は死ぬ 家族や周囲の人たちは 悲しいのは当たり前だけど 一番下の子が まだ小学校6年生と言うのは 死んだ人がどれだけ心の残りかと思うと 辛いのであった せめて子共たちが 成人するのを 見せてあげたかった と思った
きみは
「今 泣いてても仕方がないね! おばあも 明後日の49日の日はお世話になるから お願いするね」と力強く言い 頭を下げた
「おばあも 協力するね」とよし子も 頭を下げた