《こころ》
正姫が連れ戻された次の日、カイルもグボルグもいつも通り彼等の責務に専念していた。
あの記憶を取り戻した脱獄事件が嘘だったのではないかと思わせるような振る舞いを見せていた・・・
これも正姫の必要の無い記憶をカイルが消してしまったからだ・・・
そのため、二人が不自然な行動をとれば、勘の鋭く頭のよい彼にバレルてしまう・・・
彼等は黒都の実験を続けるため、できるだけいつも通り正姫に接していたと言う。
そして、脱獄に失敗し、連れ戻された次の日・・・1997年の春、3月28日・・・正姫は五歳になった。
だが・・・記憶を消された彼はいつ1997年になったのか、いつ3月になったのかなど何も覚えてはいなかった・・・彼はそれを解くには気にせず・・・過去がつまらなく覚えていないのだろうと言う事にした。
無理もない・・・彼には辛い実験の思い出しかないのだから・・・
それと、もう一つ変わったのが、正姫に恭祐の記憶はあるのだが・・・黒都から恭祐が消えた事が。
そう、恭祐は行方を暗まし、黒尽くめの男の事はいまだ謎・・・それを彼はノートに残していた・・・
「よし、書けた!僕も、今日から五歳です!」
そんなノートを書く正姫の背後には・・・
「ほ~何を書いているのですか?」
「ん?え、何でもない、んで、どうしたの?グボルグさん」
「『んで?』『どうしたの?』ですって?・・・口を慎めええええええEx2!」
「(あ、やべ)あ、す、すいません。それで、今日は何の用ですか?」
「そっ、敬語・・・それで良いのです・・・そうですねー、実はだね~六年後にホムンクルス『藤森』が
完成予定なのです」
「六年後・・・藤森・・・」
「そう、今の研究は中々の物です。その研究の成果、今は無理ですけど近い将来に計画が実行されます。
最高の力、究極の鬼人、悪魔を殺すための実験体」
「悪魔を殺す・・・」
「それで?」
「君にはそれと戦って殺してもらいます!」
「え?殺す?」
「なんですかその返事は?また甚振られ訓練をされたいですか?厳しく痛い悲しく苦痛」
「いえ(・・・此処では、感情は持ってはいけない)・・・解りました・・・」
その時の答えは、冷たく闇を感じたと言う・・・礼儀作法や格差関係を重視され教えられてきた正姫は、
心に黒都の恐怖を植え付けられ、何時しか逆らう事の無い操り人形と化してしまっていた・・・
「それで良いのです。カイル様も・・・お喜びになる」
「でも、悪魔を殺すって・・・」
「そうですけど」
「僕は用無しなのですか?・・・」
「違う違い、君には勝ってもらうと言うのが実験なのです」
「え?・・・」
「それで、本題ですけど・・・実は六年後に完成する予定のホムンクルスは最高に強い予定なのですよ、
つまり、今のEx2ではただ死ぬだけだのような物です。研究者として実験体をただただ殺すなど・・・
辛い辛い・・実験は君に『勝ってもらう』と言う物です!・・・それが小学校卒業試験なのです」
「(卒業?結局Drは何が言いたいのか?・・・)」
「とのかく君には明日から小学校に行ってもらいます」
「学校に?」
「そうです。他のEx達と学校に行ってもらいます」
「他のExって?」
※Exとはエクスペリメントの略・・・つまり実験体と言う意味である。
正姫はEx2二番目、恭祐がEx1、他にも何人か居るるらしい・・・
「でも、どうしてですか、僕勉強できます」
「勉強していない物です。君の知っている知識は中学から高校までのです。だから君には小学校の勉強を
皆でしてもらいます」
「どうして?」
「質問が多いいですね・・・まー一言で言うなら集団行動です。私等研究者は集団行動の中で勉強する君らの
脳の働きに興味があるのです。勉強においても、運動においても、競い合う相手が居て初めて上を目指そうと思う・・・だからEx2、君は私等の研究の実験体なのだ。つまり集団行動をすれば君はもっと強くなれるかもしれないと言う事だ」
「そう言う事ですか」
「そう、そうすれば六年後、君は強くなっている筈!」
「・・・解りました」
「うん、だから君はもう寝ろ!」
こうして彼の一人の五歳の誕生日が終わり・・・
「(五歳の誕生日おめでとう・・・自分・・・)」
その夜彼はグボルグに言われた通り寝た。