Vo.3
今回は有理沙の仕事メインです!
追記
たくさんの人にこのお話を見て頂いて本当に嬉しいです‼ありがとうございます‼
私は電話の前でしゃがみ込む。
最近引っ越してきたマンションからは東京の景色が見える。本当に宝石が散りばめられたみたい。
無意識に電話番号を打つ。何も考えなくても、指がその番号を覚えてる。
「...もしもし?」
出た。あの人を安心させるゆったりとした声。
「あっ...あの、鈴恵さんですか?」
「...有理沙ちゃん?」
「はいっ!」
「あらー!やっだー!お久しぶりねー!なによ、出世しちゃって!」
「いえいえ...」
「あなたが出て行ったときどうなるかと心配してたけど、さすがよね!根性あるわー!」
しばらく鈴恵さんと、たわいのない話をする。東京の宝石がいっそう美しく感じる。
「千里ちゃんね、あなたが恋しくてたまらないみたいよ!時間があるときに会ってちょうだいよ!」
「ホントですか?」
「ん?何が?」
「千里、私のこと嫌ってませんか?...置いていって。」
「まーさーか!毎日あなたのことしゃべってるわよ!」
良かった...目の前の宝石がにじむ。
「ちょっと、有理沙ちゃん?泣いてる?」
「...だって.....千里....を....置いていったから....」
「もー!一年前にあなたに言ったけどね、あの子があなたを嫌うことなんてないわよ!それにあの時のあなたはボロボロだったのよ?」
まだ涙が止まらない。
「ありがとう...明日、午後は仕事が無いのよ.....」
「こっちも特に予定はないわよ!....どこかのカフェとかで会う?」
「いつもの?」
「そうね、いつものカフェでね。」
電話を切った。明日の一時半にいつものカフェ。
千里はあいつの異父兄妹だ。いろんな事情で同棲する際に一緒に生活するようになった。千里とはまるで姉妹のようで、仲が良すぎてあいつがヤキモチを焼いたほどだった。
子どもか。あいつは。
鈴恵さんは千里のベビーシッターで家族同然だ。
元々あいつのベビーシッターでもあったらしいけど。
私は入念に化粧を落としてシャワーを浴び、ベットに飛び込んだ。
一年前だったら週に2、3回くらいは通い詰めてたカフェだ。懐かしい。
でも、ほろ苦い。あいつと一緒に行ったカフェでもあるから。
「スキニーにブラウス...ハットとバングル。」
先輩はゆっくり上から下に視線を落とす。
「シンプルだけど、ステキね!」
「ありがとうございます。」
私の私服だ。少し恥ずかしいな。撮影で着る服とはけっこう違うから。
「ほらー!やっぱり売れるよ、写真集!」
山下さんが後ろからいろいろ持ってきた。多分差し入れ。しかも口になんかついてるんですけど。
「なに?写真集作るの?」
「まだ話してる段階なんですけど....」
「売れるわよ絶対!さっすが山ちゃん、いい眼してるわね!」
山下さんはガッツポーズをした。先輩も返す。
「先輩は、ボヘミアンですか?」
「そーなの!今年流行りのマキシでね!」
先輩は黄色を基調としたマキシワンピにバレエシューズ、栗色の髪をお団子でひとつにしてた。私じゃ真似できない。先輩のファッションはいつも尊敬してしまう。
「それじゃあ、美咲さん、千夏さん入りまーす!」
今日は“真夏の本気私服コーデ特集“の撮影だ。
「まず千夏さん1人で!」
私なんだかんだいってモデル始めて一年たってない。それに比べて先輩は5年以上のベテランだ。ポーズをする度に、服がまるで生命を帯びたように生き生きとしだす。
....ちょっと言い方かっこつけすぎ?
まあいいや。でも、私があんな服着たら服に自分が負けちゃうな。
あれはあの先輩だからこそ着れるんだ。
「はーい、次は美咲さん!」
さあ絶対時間かかるぞ。
「お疲れ様!」
先輩が私にオレンジジュースを渡す。私はコーヒーとか飲めないから先輩が気遣ってくれたんだ。
「ありがとうございます。」
私は少しへこんでる。案の定、私は圧倒的に撮影時間がかかった。しかも、先輩のように服が生き生きしないのだ。
「まあ、経験よ。頑張りな。」
先輩はそれだけ言って何事も無かったように去って行く。
オレンジジュースは酸味が効いてて、でも甘かった。