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Vo.28

うん...不釣り合い。


木漏れ日こぼれるオシャレなレストランだ。北欧にありそうなパステル調の家具といい、花のディスプレイといい、ホントキレイだな~。

撮影所近くにこんなオシャレな場所があるなんて...


でも...編集長のいる場所を中心として半径3メートルはそんなかわいい雰囲気を潰しトゲトゲしいオーラを充満させてた。


人が寄りつかない...



「さて...」


編集長はタバコをふかしつつ、鋭い目で私の視線を逃して離さない。





「あなたの"元"恋人植草葵とあなたの出会いは高校1年生、でも交際を始めたのは高校3年生...初めてキスをした場所は葵の部屋で...」


ちょ...ちょっと!!!


ストップストップストップストップストップっ!!!


「...なにか?」


「なんの前触れもなく人の悪夢を蘇らせないでくださいっ!!」


嫌な汗がじわりと出てきた...



「.........あなたさ.....ホント物覚えが悪いこと....」


編集長はタバコの煙を大きく吐いた。













「葵の母親。」


............................え?


「ほら、あなたたちがキスしてたタイミングに入ってきたじゃないの。...忘れてるなんて。」




......あ。




あ゛ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!








それは高校3年の夏の話だ。



「小林、荷物。」


植草は私のかばんを引っ張り、私の動きを止める。


「荷物?荷物がなに?」


「...持つ。」


少し顔をそらし、赤らめた顔の葵は言う。


なんか紳士的なことをしたかったんだろうけど...


「え~。いいよ。」


「持つ。」


「いい。」


「持つ。」


「いい。」


「持つ。」


「持つ。」


「いい。」


「よし、引っかかった!」


「おっ、おい!!卑怯だぞ?!」


私は笑いながら走り出すが、運動オンチな私に植草はあっという間に追いつき私の肩をつかんだ。


「お前、自分の運動神経の酷さ分かってんのか?」


「うっ、うるせー!!!」


ポカポカと葵を叩く私の後ろから数人やってきた。


「あのー、朝からいちゃつくのやめていただけます?」


今日は、植草の家に私と麻理、百華それと植草の友達が行くことになっていた。


「黙れ高橋っ!!」


植草が食らいつく。高橋はニタニタと笑ってる。高橋曰く、植草をいじることは至上の楽しみらしい。


「否定しないんだぁ?」


「うるせー!!!」


麻理と百華は植草のことをよく知らないから高橋、植草、あともう1人のやつ(名前忘れた)とふざけはじめるのをちょっと引き気味にみつつ、私に近づいてくる。


「...植草って...もっと暗いやつだと思ってたわ~。」


麻理のいうことは正しい。


「うん、信用してるやつにはあんな感じみたいよ~。」


さすがに2年も一緒にいたら分かる。なんだかんだで腐れ縁的な感じでずっと図書委員をしてるし、いろんな価値観も会うから。


植草は簡単に言えば6歳の男の子だ。

いいことも悪いこともあまりに正直に言いすぎるところとか、変なところで背伸びしようとするところとか。さっきの荷物持ちがいい例だ。最初は植草の行動が読めなかったけど、6歳の男の子だと思えば、なんとなく考えてることは分かった。

あっ、あといたずら好きかな。いっつもバックの中からなにか無くなってないか気にしてる....


「あ。」


「ん?有理沙どうした?」


「携帯が無い。」


「植草?」


「うん。あとででいいや。」



脇くすぐってやるからな覚悟しとけ。










「着いた。」


住宅地にでーんと4、5階くらいなアパートが建っていた。比較的新しい。


「あんたん家、何階?」


「1階と4階。」


「2つも借りてるんだ。」


「いや、親が大家だから借りてはないよ。」


ふぅ~ん。







「あんたさ...」


「ん?」


私は大理石ゆかに足を取られないように気をつけながら、しかめっ面を植草に向けた。植草はキョトンとしてる。


「あんたん家、アパートだけど..ワンフロア全部あんたん家なんて聞いてないんですけどぉぉぉぉぉ?!」


いかん、心の叫びが思わず表面に出てしまった。


でもおかしいって。


だってさ?アパートはアパートだけど、こいつの家壁を全てぶち抜いて一つの家にしちゃってるんだよ?!

床が大理石だし?中庭あるし?一つ一つの部屋がやたらデカイし?部屋がやたら多いし?


...こいつマジで何者?



「金持ち~!」


百華はボソリとつぶやいた。みんなは納得といったようにウンウンと頷く。

植草は聞いてないそぶりを見せてるけど、耳を真っ赤にしている。


ふん。子どもめ。


「今、お皿とコップとってくる。」


無愛想にみんなに背を向け、消えて行く植草の背中は"恥ずかしい"としっかり書いてある。


「植草、なんかウケる。」


麻理と百華はクスクスと笑う。


「あっ、そうだ。」


ん?高橋、一瞬私以外の人に目配せしなかった?


「俺、菓子買いに行ってくるわ~!」


「あっ、私たちも~!」


「俺も!」


皆様なぜに棒読みなんですか?


「私も...」


「有理沙はいいの!!みんないなくなったら植草可哀想でしょ?!」


え...。だってみんなここに来たばっかなのにさ...


みんなガヤガヤ騒いでポツリとしてる私を置いてみんな外へと出て行った。



私、置いてかれた...?



「...?あれ?みんなは?」


ちょうど植草が皿とコップを持って戻ってきたところだった。


「消えた。」


「今小林だけ?」


「うん。」


植草は今しがたみんなが出て行ったドアを見つめてニヤリとした。


「あいつら...」


黒い微笑み。


今の植草にピッタリの言葉だ。


「じゃあ、部屋行って待ってよっか。」


「....うん。」



皆様、一体何をお考えになられてらっしゃるの?







「やっぱ、部屋も広いね。」


「も、ってなんだよ。」


私は植草の部屋の物色を始めた。


「あれ...教科書は?」


「ん...?学校。」


「おいっ。せっかく私が勉強教えてんのに。」


「いいじゃん。小林が教えてくれて全部覚えてるから。」


全く。植草はいたずらに失敗したように笑う。

いたずらといえば...


「ケータイ返せや。」


「ん?」


「とぼけるなやっ。おらぁっ!!!」


植草の脇をくすぐった。植草はベットに倒れこむが私はひるまない。


「おっ、おいっ!!やっやめろぉぉっ!!」


「ケータイ返せやっ!!!」


「わっ...分かった!!分かったから~!!!」


植草はハァハァと息を荒げながらポケットから黄色いケータイを取り出す。


「ふん、最初から...!?」


一瞬の出来事だった。


植草は私を軸にぐるりと体を起こし、私はボサリとベットに押し倒された。

植草は笑いながら、今私がいた位置にいる。


「逆転。」


植草はクシャリと笑った。

笑いジワがたくさんできて、子どもみたいな植草の笑い方が私は好きだ。


間近で見ると、キラキラ輝いていて少しドキリとする。


なんなんだろう。


「ふん、子ども。」


照れ隠しに私は笑い返したけど、植草が急に真面目な顔をした。


「...小林?」


植草は子どもが悪事を告白するかのような顔だ。


「なに?」


植草が私を覗きこんで、じっと私を見つめる。


「キスしたい。」







「え?」


「キスしたい。口づけするってこと。」


いや、意味は分かるわ。


私が聞いてるのは...


「いい?」

「いや。」


思わず口から出ちゃった。あーあ。

てかさ、男の顔がここまで近くにあったの初めてなんだが。植草よ。もーちょい"気遣い"というものを考えよう。いつも言ってるよね?ね?

だからさ、離れよっ。ねっ?こんなデブの近くにいてもむさ苦しいだけだよ?

うーえーくーさ。



「ダメ?」

「ダメ。」


てかなんでこんな話になったの?なんかの罰ゲーム?それとも新手のイジメか?私なんかしたか?キスしたい?キスなんて海外雑誌に嫌というほど写真がベタベタ貼ってあるからどういうものかぐらい分かってるさ。でもさ、こんなBMI値23.5の私がキス?ありえんね。ふっ。


「ありえない。」


「えっ?」


「そんな顔してるよ。どうせ小林のことだからBMIがいくつの私なんかにキスしたいなんて、罰ゲームかからかってるんだとか思ってんだろ。」


う。ほぼ当たってるんだが。


「僕、女が嫌いなんだ。」


なんだいきなり。キスしたいとか言っておいて女が嫌いとかいう普通?


「ガキのころ、親父と母親が仲悪くて。原因はお互いのすれ違いだった。それだけならまだ良かったんだ。でもさ、その頃から母親が男を家に連れ込むようになった。しかも1人じゃないんだ。日替わりで男が違った。僕はガキだったから状況が分からなくて、親の怒鳴り声が聞こえるたびにテーブルの下に隠れたりとかしか出来なかった。」


植草の話し方は自虐的で、どこかさみしそう。それでも私の目からはそらそうとはせず嬉しそうに親指の腹で私のあごをなでた。

話とされてることのギャップが激しくて私はどうしたらいいか分からず、頬の筋肉がピクピクとしている。


「気がついたら親父まで女を連れ込むようになった。僕はそんな状況に混乱しつつも、いつかは元に戻れるだろうって思ってた。でも、」


植草は私に笑いかける。まるで、これから話すことは別に大したことではないと言わんばかりに。


「ある日、確か僕が母親に聞いたんだ。いつかはまた遊べるよねって。そしたら...あいつはこう言った。『私は女として生きたいの。妻でも母親でもなくね。だから葵、悪いけど私をもう母親と思わないでね。』って。」


...


唖然としてしまった。母親としての責任を放棄したの...?考えられない。

植草の母親の言葉は、私の考えられないくらいに植草を苦しめてるに違いない。


「だから、女が嫌いになった。どんなに愛してもいつか裏切られるって...」


そこで言葉を切ると植草は目をきゅっと細めた。


「でもさ小林は僕が...どんなに変でも、笑って受け入れてくれた。一時期は小林に意地悪なことを言ってみたりとかしてたんだ。きっと離れてくんだろうなとか思ってた。でも...離れなかったでしょ?すごく嬉しかった。で...気がついたら小林が好きになってた。だからキスさせて。」


.......いや...いやいやいやいやいやいや!!!

話ぶっ飛びすぎっ!!!話飛びすぎっ!!


「どうした?」


「待って...。整理しようよ。キスの前にさ、付き合おうとかあるでしょ?」


「ん?よく分からないや。」


「分かれやっ!」


「まあ、いいや。」


植草は私からどき、ベッドの端に座った。


「いいって...なにが?」


起き上がりながら私は聞く。


...ん?口の先っぽが笑ってないか?


「諦めた。」


「なにが?」


「キスの許可もらうの。...勝手にするから。」


「ウソでしょ?」


気がつき、避けようとしたが...




遅かった。柔らかくて温かいものが私の唇を包む。

押して離そうと手を伸ばしたけど、逆にその手を掴まれ指と指を絡ませられる。


体が熱い....!


植草があまりにも至近距離だから表情は読めないけど、体から嬉しいオーラを放出させてる...気がする。








ガチャ。






ガチャ?...........




あ゛ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!





スランプ脱出☆彡

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