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Vo.26

今回は葵視点です!

"彼女"の放つ輝きに僕は目がくらんだ。


"彼女"が着ている白くて高そうなドレスは本人なんかには足元にも及ばず、いい引き立て役だ。


周りの人は男女問わず口をポカーンと開けてこの広い部屋を明るくしている光の根源を見つめている。当の本人は落ち着かないみたいだけど。


...というか有理沙の手繋いでる男なんだよ?手繋ぐなよ。離せ、離せよ。早くっ!


男は有理沙を引っ張りながら壇上へ上がる。有理沙は視線がいろんなものに移動していた。特に食べ物。


「皆さん、本日は私の誕生パーティーにお越し下さりありがとうございます。」


ああ。こいつの誕生日なんだ。知らなかった。僕はただ隣でベタベタくっついてくるメスヒョウについて来ただけだから。


でも...あんなキレイな有理沙見れたなら良しとしよう。男が邪魔だけどね。


「この美しいお嬢さんは...」


言っとくけど、見つけたの僕が先だからね?


と思わず口走りそうになり、一瞬すました顔をキープするのに苦労した。


「今人気急上昇中のモデル、美咲さんです。」


会場に拍手が沸き起こり、おそらくカルボナーラに見惚れてた有理沙はびくりと体を震わす。かわいい。


パチパチと長いまつげで瞬きしてる有理沙を見つめてるのは僕だけじゃないことに気がつく。


隣にいる奴も熱っぽい目で有理沙を見ていた。小動物を見守るような顔だ。


...もしかして、あいつは有理沙のことが...


そう思うと急に腹立たしくなった。激怒と言ったほうが正しいかもしれない。心臓がドクドクと血管を通して皮膚に振動を伝え、頭に集中的に熱が上がってくる。


...あれ?なんでこんな気分になるんだ?なんなんだこれは...?


「それでは乾杯といたしましょう。」


「葵?ねえ?聞こえてる?」


ウザい声で目が覚めた。


「...ああ。」


胸元を強調したヒョウ柄のドレスを着てるメスヒョウは暑苦しい。ベタベタくっついて着てもいるし。


「それでは...乾杯~!」


僕の予想通り、乾杯と同時に隣の男を置いてカルボナーラへ一直線に走って行く有理沙がいた。

話しかけようかな...仕事仲間として。絶対嫌な顔するだろうけど。


さりげなくカルボナーラの皿に寄っていて良かった。有理沙の行動パターンは分かりやすいから絶対最初にカルボナーラに飛びつくと思ってたんだよね。


メスヒョウは嬉しいことにどこか消えてくれたので周辺の人間を気にしつつ、有理沙に近づく。



「...美咲さん?」


大盛りにカルボナーラをよそってた有理沙の手がぴたりと止まり、僕に背を向けたまま石のように固まった。


首だけゆっくりと動かしてこっちを向いた有理沙は顔は笑ってはいるものの、目は"なんでこんなところにいるんだ?ああ?"と言っている。


それでもすごく美人なのが不思議だ。


「覚えていらっしゃいますか?...PVで共演した植草です。」


「ああ!忘れるわけがないじゃないですか~

!」


キスしたからね。だってあまりにも可愛かったからキスしてみたくなったんだよ。君は分からないだろうけど。


「今日はいつもに増してキレイですね。」


「お世辞はいいですから。」


穏やかに言ったつもりなんだろうけど、頬の筋肉がヒクヒクとしている。


冷たいな。予想してたけど。


「すいません、カルボナーラが冷める前に食べさせて頂きますね。」


下手くそな言い訳。だって有理沙はいつも"カルボナーラって最高の食べ物だと思う!あったかくても冷たくても美味しいもんっ!"って言ってたからじゃんか。


「わかりました。どうぞ、お食べ下さい。」


僕は目が死んでる有理沙にニコリと笑い、大盛りのカルボナーラのバランスを取りつつもスタスタと早歩きで逃走する有理沙を見送った。


やっぱり有理沙だ。良かった。


そう思った時...


有理沙に人影が近づいて、肩を叩いた。


そいつの顔を見た時に唖然として、危うくシャンパンのグラスを落とすところだった。

頭にレンガが落とされたような衝撃が全身に走る。


なんで...?!なんでいるんだ...?なんでお前が...


あいつは有理沙と話し始める。有理沙は不思議そうに聞いていた。


なにを話してるんだ...?


突然あいつは有理沙から去っていった。何事も無かったように他の人と談話を始めるが、有理沙は話を理解していないようであいつをぼんやりと見つめていた。



なるべくあいつから離れよう。あいつの視界に入らないようにしなくては。


気がつけば有理沙は人に囲まれていた。おそらく有理沙をブランドに起用したい会社の連中だろう。おどおどしながらも対応してる有理沙を見て、さっき考えていたことを忘れてしまいそうだった。


なんであんなにキレイなんだろう。


うっとりと女神みたいな人を眺めてしまった。


「見惚れてるのね。元カノに。」


トゲ付きのドリルが僕の耳にグリグリと侵入してきた。


「...なんで...」


僕よりも圧倒的に身長が低いにも関わらず、こいつは人を威圧させる力を持っている。


「仕事よ。仕事。それにしても呆れたわ。元カノを目に穴があくほど見てるなんて...」


「...なんでそれを知ってるんだ?」


こいつに少し詰め寄るとこいつはふふっと鼻で笑う。


腹立つな...


「あら、私の目は節穴じゃないわよ。あなたたちが高校生の時から分かってたわよ。...まあ今は違うみたいね。お互いに違う人生を...」


「黙れ。」


僕はギロリと睨みつけたが、こいつは一切ひるまない。


「そんな口をきいて関係者にバラされたら大変よ。最近だって隠し子騒動があったばっかりで...」


「やめろ。」


僕はこいつから離れ、早足であいつから離れる。



ふざけるな!なんで有理沙と僕の関係を知ってるんだ?!あいつになんて話してないぞ。話す気もない。まさかあの人が...?いや、それはないだろう。

それに隠し子騒動?!真相を1番知ってるのはお前だろ?!そもそもなんであいつがここにいるんだ?!



ざわついた場内で無意識に有理沙を探していた。

1年前までなら...1年前なら、どんなに辛いことも苦しいことも...有理沙という存在が癒してくれた。他の誰よりも優しくてこんな僕を理解してくれる有理沙が。毎日温かく玄関で待っててくれて、2人で千里の寝顔を見て僕は一緒に寝てしまった有理沙を見て...


有理沙...すごく恋しい。今すぐに僕を癒してほしい...


でも...僕は有理沙を傷つけてしまった。わかってる。ひどく有理沙を傷つけたくせに自分が傷ついたら有理沙にすがるなんてどうかしてる。




いた。


有理沙は会場の目立たないところにある裏口につながるドアへと吸い込まれている。


思わずそこに向かってしまう。こんな馬鹿な僕を有理沙はもう受け入れないことはわかってるのに...



有理沙...




誰にも気づかれないようにスルリとドアに入り込んだ。


薄暗くて広いトンネルみたいな場所に有理沙のヒールの音が響いている。それを頼りに僕は足音を立てずに追いかけた。




「わっ!」

「美咲ちゃんみっけ。」


少し遠くで有理沙と憎たらしい男の声が響く。


はっ、と足を止めて耳をすました。


「美咲ちゃんは楽しんでくれた?今日のパーティー。」


「楽しかったですけど...松田さん主催者だったんですね。」


有理沙も知らなかったのか...


「そうだよ。」


「ふぅーん。カルボナーラが美味しかったです。」


男が声を上げて笑った。薄暗い場所に反響してガンガンと響く。


「君は...本当におもしろいね。」


「よく言われます。」


「それに...美人だ。全てにおいて。」


「...やめてくださいよ。そんなこと...」


有理沙の言葉がいきなり切れた。僕が不思議に思ったのはつかの間、リップ音が鳴る。



え....




「...え?...ちょっ...」


有理沙をよそにリップ音は鳴り止まず、むしろだんだん激しくなっていった。


体が硬直して動かない。今すぐにキスを中断させたいのに体が脳の指示をきかない。


有理沙の声は聞こえなくなる。男は自分が満足するまで楽しんだ。


「...ダメだよ?自分に素直にならなきゃ。」


さんざん有理沙で遊んだあとに男は言う。


「...」


有理沙はあまりにも衝撃が強かったらしい。


「俺のこと好きなんでしょ?...俺も好きだ...愛してるよ美咲ちゃん。」


「...」


「返事は?」


「...はい。」


「いい子だ。」


2人がキスをするごとにガラスの破片がいくつも胸に突き刺さり続けた。





...1年前に有理沙が感じた痛みが今僕に来たのだ。


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