Vo.23
その後の撮影は悲惨なものだった。みんなは肩に力を入れ過ぎて自然な写真は撮れずめちゃ怖編集長をイラつかせ、多くのモデルは編集長によりけなされた。
「あなた。そう、あなたよ。鼻が豚みたいよ。」
「そんなポーズしてたら服が美しくならないでしょう?みっともない。」
唯一いじわる先輩と私のみ何も言われなかったけど、私にはどうでもよかった。
松田さんが千夏先輩と付き合ってたなんてな...そんなのアリ?ねぇ?
カシャッカシャッ
先輩が好きだった人を好きになってたなんて....ああ...
「それでは撮影終了でーす!皆さん集まって下さい~!」
みんな走って編集長のところに向かった。私はとぼとぼと歩いて行く。
「テレビ出演するのは...」
松田さんは潔く諦めよう。じゃないと...
「鈴木玲奈、美咲、高月美香よ。」
「ええっ?!」
私の声がスタジオ中に響き渡った。モデルたちが私を見る。
いじわる先輩の視線はナイフみたいな鋭さだった。
「なんで私がテレビに出るんですか?」
「なに...ご不満?」
「不満というより...私、テレビ出演したくありません。」
シーン.....
なっなに?私なんか悪いこと言った...?
「へっ編集長~、美咲ちゃんはテレビ出演NGな感じなんです~!」
「お黙り。」
山下さんの介入をバッサリと切り捨てる。山下さんは一歩後ろに下がった。
「なに...」
めちゃ怖編集長が私に近づいてきた。
「私に逆らうの...?」
怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い!やめて!サングラス取って目力強調しないでくださいっ!!!
「いっ...いいえ...」
「じゃあ出演なさい。」
かーん。完敗だ...KO負け。
「さっさと帰りなさい。」
その言葉を皮切りに一気に慌ただしくなった。
その後のモデルたちの恨みはハンパなかった。みんなの視線が痛いし、嫌味も言われるし私の私服が消えるという事態も起こった。それはもう1人のテレビ出演をする人(名前なんだっけ?)も同様だった。
「どうしよう...家に帰れないわ...」
ネコのような目を下に向けてその子は言う。
「まあ、なんとかなるよ。」
私はその子の肩を叩いた。
「美咲ちゃんよね?私は鈴木玲奈よ。あまり関わりがなかったけど。」
私は玲奈ちゃんと握手する。
「私、テレビ出演するなんて思わなかったわ!編集長に2回も注意されたのに!」
「私も。というか人前で話すの苦手なんだよね。」
2人でゴミ箱をゴソゴソするが見つからない。
「美咲ちゃ~ん!見つかった?」
山下さんも協力してくれた。
「ないです~。どうします?玲奈ちゃん、この後仕事らしいんですよ。」
「あららら...」
山下さんは頭をかいた。
「もう一度手分けするかっ!」
「そうですね...山下さん、ありがとうございます。」
ガッツポーズをした山下さんは反対側へと走っていった。
「じゃあ私はあっちを探すわ。」
「了解。」
玲奈ちゃんと別れた後、私は違うゴミ箱をあさり始めた。
「ない...ない...」
「美人とゴミ箱...ものすごくミスマッチだ。」
私の右側であのハチミツのような甘い声が聞こえた。
「まっ松田さん!!」
近くで腕を組み、笑っている。
かっこいい...
いかんいかん!千夏先輩の元カレだよ?!目を覚ませ美咲っ!!
「どうしたの?大切なものでも無くしたの?」
「いじわるさんたちに私服隠されちゃって...」
私はため息をつき、床に座り込んでしまった。松田さんも隣に座る。
「今着てるのは?」
「撮影用の服です。借り物だから返さなきゃ。」
「よく似合ってる。着て帰っちゃえば?」
「嬉しいですけど、それで困るのは雑誌側でしょう?迷惑かかるでしょうし。」
松田さんは笑って、立ち上がりスタジオに向かって歩き出した。
「まっ...松田さん?」
慌ててついていった。
「美咲ちゃん?どうしたの?」
途中で玲奈ちゃんに会った。着替えをしていた部屋から出てきたところみたいだ。
「わかんない...とりあえずついてきて!」
「松田さん...?」
「この子が着てる洋服全身でいくら?」
気がついたら松田さんは衣装さんに近づき、話しかけていた。
「ちょっと待って下さい...」
衣装さんは突然現れたイケメンにぼーっとしながらも、無事に目を覚ましてどこかへ走っていく。
「なにするつもりですか?」
「なにするつもりだと思う?」
...ま、さ、か!
「この服買うつもりですか?!」
「それ以外なにが....」
「ダメですっ!ダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメ......」
「全部で5万6000円です。」
衣装さぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!
「なるほど...」
なるほどじゃないっ!!!内ポケットゴソゴソするなぁっ!!
「なに財布出してるんですかっ?!払うなら私が...」
「君払えるの?」
うっ....!!
確かに私の給料じゃ払えない...
「梅干し食べたみたいな顔してるよ美咲ちゃん。」
ははは、と笑いながら分厚い財布からお札を何枚か出して衣装さんに渡した。
「この子、モデルたちにいじわるされたらしくて。このお金で服もらえる?」
「はっ...はい。」
私は慌ててバックから財布を出した。
「玲奈ちゃんのも!!いくらですか?」
「美咲ちゃん、いいよ!」
玲奈ちゃんは控えめに声を上げ、、私の肩を抑える。
「玲奈さんのは...6万9000円です。」
...へぇ?
玲奈ちゃんと顔を見合わせた。
高い...私より高い....
「ほいっ。」
松田さんはさらにお札を出した。
松田さんの財布は四次元ポケットか?!
「そんな...!!悪いですっ !!」
玲奈ちゃんがずいと前に出てきた。
「そうですよ!!!10万円以上払ってるじゃないですか!!!」
私も抗議した。
「いいよ。気にしないで。」
あの美しい笑みを浮かべられるとなんでもはいって言ってしまいそうだ。
玲奈ちゃんも同じみたいだった。
「でも...!!」
「君たちはこの後仕事はないの?」
「あっ、玲奈ちゃん...」
玲奈ちゃんは突っ立っていた。かわいい顔が急に勇ましくなる。
「今度...絶対に返しますからっ!!!」
そう叫んだあと、玲奈ちゃんは走り去った。
「本当すいません。私も今度返します。」
歩きながら松田さんに何回もお礼をした。
「いいよ。その代わり...」
松田さんは立ち止まりじっと私を見つめ、私の顎を優しく持ち上げた。
体がどんどん熱くなっていくのが分かった。
「キスしてくれたらいいよ。ここに...」
自分の唇をさしている。
キャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!
「そっ...そんな-:(¥&"@¥¥)((:://))¥っっ!かっ...からかってるんですか?!」
焼肉に使う炭みたいに顔が赤くなった。
「本当、純粋なんだね...ふふっ。」
親指の腹で私の唇を撫でられる。
ゾワゾワっ!と体がしびれた。
「やっやっやっやめっやめっやめっ...!!」
「やめて欲しい?そうは見えないけどな。まあ若い女の子にいきなり手を出したりしないけどね。」
松田さんは顎から手を離した。
私は石像のように固まる。
「また君を奪う機会を狙うよ。そのときは...覚悟してね?」
そう言って松田さんは真っ赤な石像の私を置いてスタスタと歩いていった。
もう...止められないや...




