Vo.12
「あんたさぁ....これで私がどうなったか知らないでしょ?」
「.....?」
「私....一日三本のペースでガリガリ君食べてたんだから。」
一瞬の沈黙。
「....そっそんなに食べてたら腹壊すだろ?!」
「全然。ゴミ箱に大量のガリガリ君のゴミあったじゃん。気がつかなかったの?」
「鈴恵さんと千里と3人で食べたのかと....」
「いや、鈴恵さん知覚過敏じゃん。」
あいつは黙り込んだ。
「黙ってたら電話代無駄になるよ。」
「いいじゃんかよ。僕の勝手だろ?僕からかけてきたんだから。」
なんで同じ東京の夜景でも、千里と話してるときとこいつと話してるだと全然違うんだろう。明かりの一つ一つが光を失い、ただの点に見える。
「とにかくやり直すのは無理。信用ってね、鏡みたいなものなの。一度割れたら修復は可能だけど、割れ目ははっきり残るでしょ?」
「....誰の名言?」
「ガガ様。」
ふっと笑う声がした。
「笑ったな?!」
「君って変わらないね。芸能界に入ると変わる人って多いだろ?だから不安だったんだ。君も変わるんじゃないかって。でも....良かった。君の尊敬してる人は?」
「なんでそんなこと....」
「答えろよ。」
いやなぜに命令口調?意味わからん。てか変わったのはあんたじゃ....
「....オードリーヘップバーンとミランダカーとガガ様とテイラースウィフト。それがなに....?」
「好きな映画は?」
インタビューかっ!この前の“人気急上昇モデル特集“と質問内容同じなんすけど?!
てか知ってるだろおまいは!!
「.....プラダを着た悪魔。」
「良かった。じゃあ...」
「あんたはインタビュアーか?!質問したかったら、ユア•スタイルを読めっ!!」
「君の特集があるの?」
「9月号にインタビューのるから....」
私はベッドに寝転んだ。ああっ....なんなんだろうこの疲労感。
「もう切っていい?あんたと違って明日も撮影あるんだから....」
「待って!最後に君の家の住所......」
ピッ。
言うか。押しかけてこられちゃ困る。
「それじゃあ、ラスト行きまーす!3.2...!」
私はベッドからガバッと起き上がり、あたりを見回す。そして自分がベッドから落ちてることに気がつき、今までのも全て夢だったことに気がつきがっくしした。
「はいカァァァァァット!二日間お疲れ様でした!」
みんなで拍手した。
私はまさかのパジャマ姿だ。
「美咲さん、ツイッターとかやってます?」
美術スタッフさんの1人が片付けを始めた。
「いえ。そういうもの一切やってないんですよね~めんどくさくて~。」
「えー!楽しいですよ!多分美咲さんこれからファンが増えるでしょうし、交流する機会とかあったら喜ぶんじゃないですか?」
「そうですかね~?」
と言ってもやる気は一切ない。あのいじわる先輩(また名前忘れた)も問題起こしたときにブログが炎上したっていうし....怖いな。
自分の名前を検索しようとも思わない。
でも....もしもこんな私にファンができるなら、なにかしらファンと交流できるといいな。
「PV撮影おつかれちゃーん!いやー、いい感じじゃないですか?美咲ちゃん!」
「ええ、スタッフさんにも良くしていただいたので楽しかったです!」
事務所で歩きながら山下さんと話してた。
「いやいや、多分これでまた忙しくなると思うよ~!」
「そうですかね~?」
「だってあのPV美咲ちゃんの可愛さ大全開だったもん!」
「やめてくださいよ恥ずかしい......」
言葉を切った。目の前からいじわる先輩が来ていた。
いじわる先輩だよ~。顔怖いよ~。睨まないでちょっ!
私の前でいじわる先輩が立ち止まる。
「あんただっけ?あたしの仕事取ったの?」
.....えぇーーーーー!!なんでそうなるんじゃ?!
あんたの問題の埋め合わせしただけでしょうが!?
しかも、あんたのせいで植草とキスするハメになったんだから!!
私は黙り込んだ。だってなに言えば分からなくない?!
「なに?楽しかった?」
「....はい。スタッフさんに良くしていただいたので。」
山下さんがあんぐりと口を開けた。なんかまずいこと言ったかも。
「分かるかなぁ?あんたは先輩の仕事とったわよ。」
いじわる先輩は毛先をくるくるといじりながらしゃべった。
「それにさぁ....あんたみたいな新人じゃあ植草葵と見合わないわけ。分かる?」
呼び捨て?まさかの呼び捨て?
しかも私、あいつと7年付き合ってたしそのうちの2年間同棲してたから見合うとかない気が......
とか言っても無駄か。
めんどくさいな....よしっ!
「それじゃあ失礼しまーす!」
必殺、満面の笑みでrun away。
山下さんとスタスタと逃走した。
いじわる先輩はまだ睨みつけてる。
「こぉわっ。」
見えなくなったところで山下さんがつぶやく。
「ベテランってあんな感じなんですか?」
「いやー。あそこまでドぎついのはそうそういないね~。鳥肌立っちゃったよーん!」
そうは思えない口調で山下さんはぶるっと震える。
確かに恐ろしい。植草の悪魔のささやきには負けるけど。
「はいっ!今月のお給料!またちょっと増えたよーん!PVとか雑誌の取材とかね~!」
「ありがとうございまーす!」
この給料で千里の部屋の整理しなきゃー!
「家まで送る?」
「いえ。今日は行くところがあるので!」
私は山下さんにお辞儀をして、事務所をあとにした。
家具屋さんで千里のもの買おっと!
おっ重っ...ちょっと買いすぎた....
私は少しふらつきながら東京の町を歩く。ここは見覚えがある。嫌でも。
あいつと同棲していたときの帰り道だった。すぐ近くに広い公園があってよく4人遊んでた。千里と私が川に落ちて..........!?
「千里っ!!」
私は1人でとぼとぼ歩いてた千里に駆け寄った。
「ありさ....」
「千里どうしたの?....鈴恵さんは?!」
「ありさ....ひぃっく.....うぅっ......うえーん‼」
千里が私に抱きつき、大声で泣き出した。
「1人で来たの?迷子になったの?」
何を聞いても千里は泣くばかりだ。
ひざがすりむいて、傷がついてた。