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ドワーフの童話  作者: 松宮星
ドワーフの童話
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ドワーフの恋

 あるところに、とてもとても美しいお姫様がおりました。


 その肌は透き通るように白く、赤いお口はお可愛らしく、スミレ色の瞳は愛らしく、黄金のように輝く金のおぐしをお持ちでした。

 華奢な体は白鳥のようにしなやかで、蝶のようにかろやかに舞われるのです。

 どんな種族のどんな男性も、お姫様に恋をしてしまいました。花妖精の気まぐれで、生まれながらに魅了の祝福を贈られていたからです。


 お年頃になったお姫様には、あふれかえらんばかりの求婚者が現れました。

 人間の国々の独身の王様と王子様、さらには、人と隣り合う国々の亜人――エルフの王子様に、人馬の賢者様、海人の皇帝様、有翼人の王子様、大妖精様、遠い荒野の魔族達――小鬼王、人狼王、不死王、竜王。

 あまりに多すぎるお申し込みに父王様は困ってしまい、競技会を開く事をお決めになりました。知恵と武道と芸術で競いあう参加者から、お姫様にお相手を選んでいただくのです。



 大地の下の巨大な地下王国、ドワーフ国の若い王子様も、とてもとても美しいお姫様に恋をするお一人でした。

 偉大なるドワーフ王様の代理で地上へ遣わされた際に、女官達と共にイチゴ摘みにいらしていたお姫様を遠目に見かけ、一目惚れなさったのです。


 競技会に旅立とうとする若い王子様を引き止められ、偉大なるドワーフ王様は地下王国を揺るがすようなお声でお叱りになられました。

「人間の子など地虫にも劣る。大地の底を支配する我らとは、住む世界の違う生き物だ。そんな者を妻に望むとは、正気とは思えぬ」

「この世のものとは思えぬほど、お美しいお方なのです」

 魂まで魅了されてしまわれた若い王子様は、玉座におわす偉大なる父王様の長髭を見上げながら、想い人の魅力を熱っぽく語られました。

「あのお方に微笑みかけられたらそれだけで、俺は夢見心地となりましょう。触れれば折れてしまいそうな、華奢なあのお方をお守りできれば、俺は世界一の幸福者となるでしょう」

「おまえには既にふさわしき婚約者がおる」

 偉大なるドワーフ王様のお声に一歩進み出たのは、若い王子様の幼なじみの女ドワーフでした。

 彼女のふわふわの髪と髭を愛しく思った時期もありましたが、色黒でどっしりとしたその体は、とてもとても美しいお姫様よりも不格好でみっともなく思えました。

「よき女だ。子をなし、育み、地を掘り、細工をする、ドワーフ婦人の鑑といってよい。おまえは地下王国の跡継ぎとして、この素晴らしい娘と縁を結んでおるのだぞ?」

「父上はあのお方をご覧になっていないから、俺の気持ちがおわかりになられないのです」

 幼なじみの女ドワーフから目をそむけ、若い王子様は溜息をつかれました。

「あらゆる金銀宝石よりも、ずっと輝いておられました。あのお方こそ、この世で一番素晴らしい宝石なのです。俺はあの宝石が欲しい」

 偉大なるドワーフ王様は、低くうめかれました。人間の子の美貌など一時のもの。そんなすぐに衰え消えるものを、何百年何千年も美を保つ宝石に例えるとは……

 恋に狂った息子に対し、お心の内に情けなさとお怒りがつのるばかりでした。

 偉大なるドワーフ王様は愚かな世継ぎを成敗するべく、玉座のそばの戦斧に手を伸ばされました。


 その時です。

 幼なじみの女ドワーフが、哀しげな笑顔で王様と王子様に語りかけたのは。

「私は構いません。お望みとあらば……婚約は解消いたしましょう」

 弱々しげに微笑みかけてくる幼なじみの女ドワーフに、若い王子様は心からの謝意を伝えられました。

「すまない。恩にきる」

「ですが、一つだけ教えてください、王子様」

「おぉ、何なりと答えよう」

 幼なじみの女ドワーフは、ふわふわの髭を撫でながら、不思議そうに王子様に尋ねました。

「お姫様のお心を射とめられたら、どこにお住いになられるのです?」

 何をくだらぬ事を問うとばかりに、王子様はおっしゃいます。

「我が王国で共に暮らすに決まっている」

「まあ。日の光の射さないこの国に、太陽の下の方をお連れになるのですか? 長い間、日の光を浴びないと地上の方はご病気になられると聞いております」

「ならば、毎月、里帰りをさせよう」

「地上の方は、闇も埃も狭い場所もお嫌いな方ばかりと伺っています。この王国の何処でお姫様とお暮らしになるのですか?」

 若い王子様は首をお傾げになりました。地下王国は大陸中に広がっていますが、明るく、清浄で、広い場所が思い当たりません。細く、長く、狭い所ばかりなのです。

「それにお姫様はたいへんな綺麗好きで、毎日、入浴なさるというお噂も耳にしました。毎日、お風呂のお湯もご用意してさしあげるのですか?」

 お風呂と聞いて、若い王子様は身震いをなさいました。水害こそがドワーフの最大の敵。地下王国に住む者にとって、大量の水は想像するだけで怖ろしいものなのです。

「……俺があの方の王国で暮らしてもよい」

 女ドワーフは目を丸くし、うろたえました。

「それだけは……どうかそれだけはおやめください」

 女ドワーフのくりくりとした目からドワーフならばめったに流れ出ぬものが生まれ、頬を伝い、彼女の髭を濡らしてゆきました。

「ドワーフが地上の国で暮らすなんて、ミミズが太陽の下で生きるも同じです。守り慈しんでくれる母なる大地の下を離れ、王国の仲間とも別れ、掘るべき土もなく、作るべき細工もない……。そんな世界で暮らしたら、あなたはご病気になって死んでしまわれるでしょう」

 彼女の瞳から流れるものは、玉座のそばの薄灯りの下であっても、きらきらと光って見えました。

 まるで宝石のように。

 その美しさに、ドワーフの王子様はみとれてしまいました。

「それに……地上の王国で暮らせば、お姫様は夫であるあなたに、自分と同じしきたりを求められるでしょう」

 幼なじみの女ドワーフはしゃくりあげながら、言葉を続けます。

「毎日、お風呂に入れとおっしゃると思います」


 王子様の心は決まりました。

 幼なじみの女ドワーフの手を取り、偉大なるドワーフ王様と婚約者に、愚かであった自分を謝罪したのでした。



 ほどなく、とてもとても美しいお姫様は亡くなりました。

 隣国の王様に嫁がれたお姫様を諦めきれなかった方々が、お姫様を略奪すべく戦を仕掛けたからです。

 人間の諸国だけではなく、エルフ族、人馬族、海人族、有翼族、妖精族、小鬼族、人狼族、不死族、竜族に至るまで。

 あまりの敵の多さに絶望し、とてもとても美しいお姫様は、夫となられた王様と共に、自ら命を絶たれました。

 怒り狂った軍勢はそのままお二人の国を蹂躙し、全てが灰燼に帰し、国は滅ぼされてしまいました。

 しかし、何の実りもない戦を導いた求婚者達の多くは、国を疲弊させた罪を問われ、その地位を剥奪されてしまったという事です。


 

 過分な祝福は呪いに等しく、過ぎたる望みは不幸をもたらします。



 地上の混乱とは無縁に、ドワーフの王国は繁栄を続けました。先王の長髭にはまだ遠く及ばない短い髭の新王様と、とても賢く情の深いお后様によって。

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