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人魔のはみ出し者  作者: 生意気ナポレオン
第一章:もしくは相棒編
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第六話:初仕事

「此方があなた方のライゼカードになります、ちゃんと職業欄にギルド員と書いてあるか、お確かめください」

 そう言って手渡されるの手の平に収まるほどの赤銅色のカード。ライゼカードと呼ばれたこいつは、いわば"カード型身分証明書付属金庫"だ、要するに、金はこのカードを使って払い、身分証明もこれで済ませる。無くしたら非常に不味いカードという事だ。

「大丈夫です」「此方も大丈夫だ」

「あ、そうそう、さっき簡単には説明しましたけど、相棒登録(バディコネクト)についての詳細はこの冊子に書いておりますので、読んでおいてくださいね。では」

 そう言ってカッツェは登録書を持ってどこかに行ってしまった。

「とりあえずここに居ても邪魔だから、あっちの机に行くぞ」

「あ、はい分かりました」

 厚い絨毯を踏みしめながら、依頼相談所と書かれている看板が上に掛かっている机に座る……座っていいのだろうか?

「まぁ改めて自己紹介しておこう。名前はイレーナ=ロートナイ、得意な武器は至って普通な長剣だ…一応魔創士の資格を持ってる」

「魔創士!?」


 魔創士。魔術師の資格の一つだ。この資格は魔力を使って武具などを創る、創造魔術が習得している者に与えられるものだ、ここら辺の区別がめんどくさいんだが、ある程度の魔術師なら誰でも剣の形をした魔術を作るのは可能だ。

 だが、その作った剣はあくまで唯の魔術であり固体では無い為、剣を弾いたりは出来ない。まぁ土の魔術なら元々固形だから関係ないのだが当然重量がある、なら最初から剣を持っておけばいい話だ。

 まぁこんな話をしてるからもう分かっているだろうが、この魔創士が習得している創造魔術とは、重量なしで固体としての特性を持っている物を創る魔術だ。分かりにくいだろうから簡単に言うと、魔術で普通の道具作っちゃうぜと言う話だ。

 もちろんデメリットはある、魔力の消費量が馬鹿にならないのだ、だから魔創士は普段は普通に剣で戦い、隠し玉としてこの魔術を使う訳だ。まぁ余談なんだがこの魔術、見た目が派手で格好いいため、習得難度は高いのだが人気が高い、挫折した魔術ランキング一位になったこともあるらしい。……俺には一切関係のない話だ。

 しかし、なんでそんな資格を持ってる奴がこんな所にいるんだ?


「…ではこちらも自己紹介をしますか。名前はルフト=ゼーレ、得意武器が変なのは、これは単純に筋力が無くて長剣を使えなかったと言うだけの話です、得意と書いてはありますが、実際には何とか使える武器と言った所ですかね、あと資格は一切持っていません。あっ得意武器に関しての疑問は取り扱っていませんのであしからず」

 今にも「投げナイフには筋力は必要だと思うんだが、というか実用性がなくないか?」とか言いそうだったからな、危ない、危ない。まぁ俺がそっち側だったら俺も同じこと思うけどさ。

「で、早速なんですが、今無一文なもので……なるべく早く仕事をしたいんですが、何かいい仕事ありませんでした?」

 どうやら先に来てたみたいだし、もしかしたらいい依頼を知ってるかもしれない。

「なんだ、お前も無一文なのかだったら丁度いい、この依頼にしよう」

「ちょっと見せてください……ゴブリン軍の残党狩りですか」

 ギルドでは度々この残党狩りと言う依頼が発注される、この残党というのは門の閉門時間までに門に到達できず、人間世界に隠れ住んでる……いわば、あの隠れ里みたいなものだ。決定的な違いとして、近隣の村や道を通る貨物車を襲うという事があるのだが、ちなみにこの時に居た人間は殺害または奴隷にさせられるのが一般的だと言われている。

 ……間違いなく、言霊を使うことになるな。だけど、少しぐらいなら……この考えが正体がばれる要因になるな、絶対。

「ああ、ゴブリンぐらいなら新米の私達でも受けることが出来るだろう?」

「だけど、来ていきなり実戦は……しかも、僕あまり強くないですし」

「大丈夫だ、もしお前に何かあったら私がサポートするさ、そのための相棒登録だろう?。それにこの依頼は歩合制だ、倒した分だけ報酬が増える、無一文の私達にはうってつけだ」

 ……確かにお金は欲しい、今日の食費すらないのだ、住居も無いし、なるべく早いうちに稼いでおくに越したことは無い、だけどな……

「う~ん……」

「すまない、この依頼を受けたいんだが。ええ、あそこの奴と……え? そうなのか? 分った、今すぐ行く」

「え?ちょっ!」

「よし、私が依頼受付は済ませたから早く行くぞ! 今直ぐ行くなら、無料で近くまで送ってもらえるそうだ! ほら、早く!」

「ええ!?」



◇◆◇◆◇◆◇二時間後◇◆◇◆◇◆◇



 カラスがけたたましく鳴き声をあげ、木々は来るものを拒むかのように茂っている。そんな森の前に俺は居た。

 どうしてこうなった……って思うまでもなく、あの女の所為だよな……! なんで俺、あの時助けようなんて思ったんだろ……お陰で俺の"安全な依頼からコツコツと、帰郷は遠いが頑張るぞ作戦"が行き成り破綻している。

「ん? どうした? こっちをそんなに睨んで」

「いや…なんでもないです。ところでその、ゴブリンが潜んでる洞窟とやらは何処に?」

「この森をまっすぐ進んで三十分ほどの所にあるそうだ」

「了解です」

 そんなこんなで進路を邪魔する木々を切りつつ三十分ほど歩き続けると、やがて岩壁が見えてきた。岩壁?

「洞窟なんて無いじゃないですか」

「おいおい、馬鹿正直に洞窟に潜むわけがないだろう、恐らく擬態か何かの魔術を入口に施してるんだろう」

 そんな魔術もあるのな、魔術に関しては夢を砕かれてから、苦手意識と言うか、これ以上夢を見たくないと言うか……そんな感じで、あんまり勉強しなかったからな。

「成程、じゃあ解術お願いします」

 解術とは、そのまま持続系の魔術を解除するための魔術だ。それ専門の資格を持ってなくとも、魔創士に慣れる位だ、これ位は覚えてるいるはずだろう。

「すまんが、解術は苦手でな、魔創士には必須の物でもないし習得してないんだ。悪いな」

 僅かに額に汗を滲ませながらイレーナが答える。解術は使えないとなれば……面倒臭い事になるな。

「それじゃあ、ぱぱっと調べますかねっ!?」

 岩壁に近寄り、目の前に壁に触れた途端、バランスを崩しするりと体が壁の向こうへと倒れ込む。本当に真っ直ぐで良かったのかよ。

「なんだ、本当に真っ直ぐだったんだな」

「ええ、みたいですね。拍子抜けと言われればそうですが、まぁ面倒が無くて良かったですね」

「そうだな、よし、奥に進むぞ」

「了解……"変化"」

 恐らく今、瞳を見られたら俺には剣が突きつけられることだろう。俺の瞳は今現在、愛すべき愛玩動物である猫のそれになっているからだ。勿論、意味なくこんな事はしない、洞窟が予想以上に暗かったのだ。


「暗いな……ルフト。魔力灯(トーチ)持ってないか?」

「持ってないですよ、っていうかそんな物つけたらばれるじゃないですか? 暗視の魔術は……習って無いみたいですね」

「め、面目ない」

 なんで、こう言う所で素直に非を認めるような奴なのに、誘う時はあんなに強引だったんだろうか? まぁ……考えても分かるはずないか。

「はぁ~だったら、その相棒印(バディサイン)に触れてください」

「相棒印?」

「相棒登録したときに出た印の事ですよ。カッツェに貰った冊子読んでないんですか?」

 ちなみに俺は馬車の中で暇だったので何回も読み直した、そういえばイレーナはずっと馬車の御者と話してたな。説明書を読まないタイプの人間だな、こいつ。

「ああ、そんなの物ももらったな、なるほど相棒印と言うのか、これに触れて……ってうわ!?」

「声を抑えてくださいっ、洞窟だから響くんですよ」

 だけどまぁ、気持ちは分かる。触った途端、印から文字が浮かびあがった時にはビビったからな。

「すまん…だが、なんなんだこれは? 急に洞窟が明るく見えるぞ」

「洞窟が見えるようになったのは、相棒印の機能の一つ、"感覚共有"です。僕が今、暗視の魔術使ってるんで、夜目が利くようになったんですよ。それに以外については、あとで冊子を読んでください」

「わ、分ったすまんな」

 本当に申し訳なさそうにイレーナが頭を下げる……これ、実は魔術を使う側が二倍消費するようになるんだが、この態度を見るといい辛い、まぁ俺の場合はほんとのところは魔術使ってないし、言わないでおこう。

「本当にすまん、この分は戦闘で返す」

「ええ、頼りにしてますよ……っと。止まってください、ゴブリンが来てます、」

 様子的には巡回と言った所だろうか、相手は二人魔力灯を持って接近中、近くには手ごろな岩陰、やる事は一つだな。イレーナも同じように思ったらしく、目線だけで会話する。

(どっちをやる?)

(僕が右を)

(了解、私が左をやる)

 音を立てない様にしながら素早く隠れる。右に差した鞘から安物ダガーを抜き出し、ゴブリンの足音、そして魔力灯の光を目印にタイミングを計る。

 ターン、あと三歩。ターン、あと二歩。ターン、あと一歩。ターン、今!

 身を屈めて岩から飛び出し、相手の判断がつかぬ間に、下から突き上げる様にダガーを突き刺す。よし、これで応援は防げるな。

 手ごたえを一瞬で確認し、突き刺さったダガーを左に振り抜く、こと切れた体が重力に引かれるままに地面に傾く、その体を音を経てないように支えドサ……支える。


(音を経てないようにしてくださいよ!)

(し、仕様が無いだろう! 私はお前と違って長剣なんだから!)

(それはそうですけど……もうちょっと何とか『おい、何か倒れるような音がしたぞ』ほら! こうなったでしょう!)

(くぬっ全員斬り伏せれば、問題無しだ!)

(そうするしかないですよね!)

 これ、全部目で会話してるんだぜ、信じられるか? なんだかんだ言って、良いコンビなのかもしれないな。

 慌てて、再び岩陰に隠れ、敵の数を確認――四人。声を上げさせずに殺すのは、ちと難しそうだが、やるしかないか。

(行けますか?)

(行くしかないだろう?)

(それもそうだ)

『なっ人間の襲撃か?!』

(来ましたね、行きますよ!)(ああ!)

 

『早く、本部に知らせなければ』

 岩陰から出てみれば、死体を間に片膝を付いてるのが二人、警戒しているのが二人。左腰に差したもう一つのダガーを音を立てない様に抜き出し、背後へと忍び駆ける。

『よし、二人が報「悪いが、そうはいかないねぇ……!」こ……』『きさっまっ!……』

 ドチャア――話が終わる前に、二つの首が落ちる。どちらも死体を検分してた奴だ。安物ダガー二刀流、二人同時とはいかなかったが、素早く殺れて助かった。

『よ、よくもー!!』

 怒りに震えるゴブリンが襲い掛かってくる、どうやらイレーナも二人は仕留めきれ『ゴッフォ!』

 ビシャァ――ゴブリンの口から吐き出された血が、もろに掛かる。非常に気持ち悪いし、血の臭いで吐きそうになる。吐き出した本人に文句を言おうとも、本人は心臓付近から刃物が飛び出ている、なので俺はその後ろの居る人物に文句を言う事にした。

「イレーナ、もう少し早めにお願いしますよ」

「い、良いじゃないか。ちゃんとノルマは達成だ」

「そうですけど……」

「私の方が警戒してる奴だったんだから、文句言うなよ」

 多少、むくれたように言われる。それを言われると、こちらとしても何も言えない。

「はいはい、僕が悪かったですよ」

 しかし、実際、これだけの時間で斬り殺せると言うのは、剣の腕は同年代に比べても、結構いい線言ってる気がするな。俺は長老から教わった、二つの流派しか知らないからよく分らんが。

「近くにはもういなかったみたいだな」

「ええ、そうみたいですね」

 結構大きな物音が出ていたから、それも聞こえないという事は、結構本部とやらは遠くにあるのだろう。

「けど、こいつ等が帰って来なかったら、不審に思うでしょうから、のんびりもしてられませんね」

「そうだな、急ごう」


 それ以降はこれと言った会話も無く、巡回をこっそりと倒しながら淡々と奥へと進んでいき、円状に拡がる広間の前に居た、のだが……

『くそっ! おい、巡回が一人も帰ってこないぞ! 敵はかなりの手練れだ、固まって待ち伏せするぞ!』

 司令官らしきゴブリンがそう声を上げると、何処に居たのかぞろぞろとゴブリンが集まって行く、一応数えていたのだが、人数が三十を超えたあたりでやめた。

 これはこの姿のままだとちときついな……さて、どうした物か、今から帰って応援を呼ぶのがベストだろうが、下手したら住処を移す……いや、近隣に村があったなとなると……

「どうした、ルフト」

 思案にふけっていた、俺にイレーナが声を掛けてくる。

「いや、どうした物かと」

「……行くしかないだろう」

「増援を呼ぶと言うのは?」

「近隣に村があっただろう、恐らく、ここで逃げれば村を襲撃、人質兼奴隷候補を確保しつつ逃走、それがオチだろうな」

 だよな……となると、俺とイレーナはあの軍勢の中に飛び込む必要がある訳だ。いや、必要あるか? 今まで一族を脅かしてきた人間共の村の為に、俺がリスクを負うのか? 馬鹿らしい。だが、俺が動けば幾つもの命が助かるのだろう、俺達一族が最も得難い"命"が。種族はどうであれ、命という概念は間違いなく平等。

「行くしかないよなぁ……作戦かなにかありますか?」

「無い事も無い、あれだけ人数が居たとて、同時に攻撃するにはそれ相応の広さが必要だ。となれば、あの細い通路で戦えば、多少は数の不利がどうにかなるだろう」

 指差す先には確かに、細い路地。そこに行くまでには続々と集まってくる軍勢を通り抜けなければいけない。あれに突っ込んでも、数で押されて通り抜けるのは不可能だろう。

「安心しろ、道は私が切り開く」

[炎から生み出されし小さき者よ、我が手に集いて剣となれ"火片の剣"]

 煌々と輝く火の片刃の長剣。刀身はイレーナの身の丈を超え、宝飾剣かと見紛う程の優美かつ繊細な装飾が施されていた。

「それじゃあ、後に続けよ」

 すぅぅぅ……イレーナが深く息を吸う、通路までの距離はおよそ五十メッセ、その広間に集まるは優に五十は超えるだろう軍勢。突撃したら、まともに呼吸は出来ない。俺は、変化で口を幾つか創るから関係ないが。


「はぁぁぁぁ!!」

『な、なんだ!?』『て、敵襲だぁー!!』

 イレーナが雄叫びをあげながら、真っ直ぐに通路の方へ駆け出す。それに反応し、ゴブリンの壁が此方へ押し寄せてくるが、イレーナが剣を一振りするだけで、ばたばたと斬り伏せられていく。

「ルフト何をしてる!早く来い!」

 っと確かに! こんなぽけっと見てる場合じゃなかった。

「了解!」

 慌ててイレーナの後を追う。幸い、ゴブリンの注目はイレーナに向かい、こちらへ向かって来るやつは少ない。

『死ねぇ!』『よくも仲間たちを!』

 イレーナの背後、俺の前方、二人のゴブリンがイレーナに襲い掛かろうとしている。止めようとも、出足が遅れた俺のダガーからは範囲外、道を斬り開くのに集中しているイレーナは接近に気付いていない。……しょうがない。

「変化"砲腕"、圧縮……」

 両腕をスライム状に変化、腕を真直ぐ突きだし、内部に埋め込んでいた投げナイフを装填。同時、投げナイフのやや後ろ、肘の辺りを圧縮……縮めたばねが弾ける様に圧縮を解放、弩の弦から矢が放たれる様に、ナイフを――撃つ。

「"殺人者の刺突剣(マーダーレイピア)"」

『がふっ』『ぐえっ!』

 狙い通りに致命傷にナイフが深々と突き刺さり、その場に二人が崩れ落ちる。

「ふぅ……ギリギリだったな」

 今のは間に合ったから良かったけど、早々撃つわけにはいかない、見られることは無いと思うが、圧縮には多少時間が掛かる、次は間に合わない可能性が高い。

「ほんのちょっとなら……"重蹄脚"」

 足元に大きな蹄の跡を残し、イレーナとの距離を一気に縮める。よし、ここまで来たら背中は守れる。

「はぁはぁ……大っ丈夫っかっ!」

 息を切らしながらもこちらの安否を気遣う、イレーナ。どちらかと言うと、お前が危なかったんだが、まぁいいか。

「ええ、大丈夫ですっ!」

『なっどこぉ!』

 行き成り現れた俺に動揺していたゴブリンを蹴り飛ばす。

『倒れるな!』『うわぁ!』『邪魔だぁ!』

 すると予想通り、ドミノ倒しみたく周囲を巻き込みながら倒れ込んでいく、そんなに密集してるからだ。

 フォン!――休む間もなく、耳に風切り音が届く。一々鍔迫り合いなんてする義理も無いので、適当に躱しイレーナの後を追う。

 無我夢中で集団の中を掻い潜ってみれば、何時の間にか周囲からゴブリンの数は減り、はるか遠くに見えた通路の入口まであと少し。となれば……

「一気に行くぞ! ルフト!」

「了解!」

 一気に行く、その声に違わず剣の刀身の輝きは増し、斬られた傷口からの発火は全身を包むほどの業火となり、周囲一帯を焦げ臭いが包む。

『がぁぁぁぁぁ!!』『あぐぅぅぅ!!』『ぎぃぃぃぃ!!』

 断末魔がそこかしこから上がる事に、視界を動く物体は消えていく。そんな様子で、労する筈も無く、あっけなく通路へと到達する。

「はぁはぁ……ルフト、もっとこっちに来い」

「は、はい」

 急かす様な口調に、慌ててイレーナの傍へ行く。すると、俺が剣の範囲に出たと見るや、止めと言わんばかりに剣で薙ぐ。こちらを追おうとしていた先頭連中は、仲良く剣の餌食となり、身を包む炎に苦悶し辺りを転げまわる。

「これで少しは足止めになるだろう、もっと奥に行くぞ」

 

 

「ここら辺で良いだろう」

「そうですね」

 イレーナ言葉通り奥に進むと、通路は一段と狭くなり此方に都合のいい地形となってきていた。前から攻めて来られるのは、どう考えても三人が精いっぱいだ、これならかなりの数を殺せるはずだ。

「にしても、ゴブリン共は全然追いかけて来ないな」

「此方が予想以上に手練れだったんで、魔術師でも呼んでるんじゃないですか。あの壁の中には居なかったみたいですし」

 そうでなくても、ゴブリンは人間よりも身体能力は劣ってる、その穴は成長の速さやらなんやらで十二分に補われているのだが。

「まぁ何にせよ、休憩が取れるのはありがたいです」

「そうだな」

 腰を下ろし、脱力する。思い返されるのは今日一日の出来事だ、振り返るには早すぎるかもしれないが、振替してもいい程に出来事が詰まり過ぎだ。絡まれてる美人を助けたと思ったら、その美人が同時期にギルド登録しようとしていて、押し切られた形で相棒登録なんかさせられ、すぐにこの依頼に駆り出され……本当に濃いな、今日。

 ズシン――半ば呆れ混じらせながら、ボーっとしていた俺でも感じ取れるほどの大きな足音、地面を削る様な音、そして揺れ。足音は段々と近づいてき、こちらへ接近している事をを知らせる。

 ゴブリン達、小鬼族の残党が居るという事は、間違いなく魔界六大氏族の内の一つ、"鬼族"の軍の残党なのだろう、此処に居る魔族は。となれば、接近している敵の正体も大体わかる、近づいてくる足音、揺れは否応なしにまだ見ぬ巨躯連想させ、削る音は手に持つ武器が地面に引きずらなければいけないほど重いという事を伝える。

「おい、ルフト」

「ええ、分ってます。十中八九、近づいて来てるのは"オーガ"でしょうね」

 ――オーガ。"鬼族"の中でもゴブリンに並ぶほど知名度が高い種族だ。平均身長三メッセ、体は筋肉隆々で、好んで使用する武器は鉄でできたメイス、オーガの筋力でメイスを振るえば、人間の頭などスイカも同然だ。

「どうします?」

「やれやれ、ゴブリンが来ないのも納得がいく気がするな、オーガが居るとは……」

「ルフト、お前は応援を要請して来い。また、あの壁を抜けるのきついだろうが、勘弁してくれ」

「分ってるんですけど……貴女は」

「分ってるんなら良いだろう? 精々、お前が逃げる時間は稼いでやるさ」

『人間臭せぇと思えば……あいつ等、こんなところまで人間のさぼらせやがって……』

「ほらっ来たぞ! 速く行けぇ!」

「……くっ!」

 叫ぶイレーナに叱咤されるままに、敵に背を向け全力で逃げる、逃げる、逃げる! 重い足音は遠いていく……間違いなく、今、俺は相棒を犠牲にして逃げているのだ。

「よし、此処まで来りゃ、いいだろう……"変化"、神経よし、声よし、髪色よし、体格は……やってる時間無いから、筋肉をちょっとだけ付けとくか」

 顔を粘土細工のように変え、鏡が無いから核にすることは出来ないが、金髪碧眼の美男子になっているはずだ、この状態なら間違いなく、俺がルフトだと分かるまい。

「だーれが、時間稼ぎなんてかっこいい役目させてやるかよ」

 逃げてきた道のりを引き換えし、向かうは鬼の元。

四月三日改稿完了。……改稿して、これかよ。

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