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人魔のはみ出し者  作者: 生意気ナポレオン
第一章:もしくは相棒編
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第五話:旅立ち

まず,最初に…申し訳ない!前話の最後に少し文を追加しております,消えていたのに気付かず投稿してしまっていて…言い訳ですね,ほんと申し訳ない.

 あれから三年、俺は長老からしごかれ続け、今日やっと帰郷への旅路へ着く……

「なんて思ってみたりしてな」

「いきなりなんじゃい」

「いんや、ただの独り言。にしても三年かー、半年ぐらいで済む予定だったんだけどなー」

「半年で何もかも学べわけなかろう……はぁ、念のため言っておくが」

「感情的にならない、無暗に言霊を使わない、だろ?」

 三年間、耳にたこができる程聞いた言葉だ。冷静に厄介ごとにはかかわらない、いざと言うとき以外は、言霊を使わない。たった二つ、こんなの守れない訳が無い。


「本当に分かって居ればいいんじゃがなぁ……」

「大丈夫だって。っていうかそろそろ行くぞ……目が潤んでしょうがない」

「ふん、男の涙なんてこっちも御免じゃ……もう何も言わん。これは餞別じゃ持って行け」

 長老は薄汚れたカバンをこちらに放る、中には洗練された装飾の短剣に投げナイフ、それと少量の金貨。長老の人間時代の余りものらしい。

 なにからなにまで……世話になりっ放しだな。


「……ありがとう、長老。んじゃ行ってくる」

「ああ、もう顔を合わせないよう願っておるよ」

「ああ、こっちもだ」

「ではのう」

「じゃあな」

 そんな僅かなやり取りをだけで、俺は三年間過ごした里を去った。湿っぽいのは、未だに得意じゃない。



◇◆◇◆◇◆◇二週間後◇◆◇◆◇◆◇




 里を出て二週間、馬車を乗り継ぎ、目的の国……いや"街"である商人とギルドの街「ゲシャフト」に俺はいた。


 "街".人界の連合軍は主に人界でも主要な五つの国とこの一つの街で構成されている。そう、この街の所為で六大大国などと言えないのだ、不便で仕方がない。

 だが、これには理由がある。一つ目は政治形態が王政でなく議会民主制だという事。二つ目は…少し長い話になるんだが、実はここ、最初は小さな村だったのだが地理的に五大大国の中心近くにある為、それぞれの国の商人が丁度交わる様になっていた。

 しかも、その商人の護衛として来ていたギルド加盟人がここでお互いに情報交換しあい、ギルド加盟人が集まる為依頼も集まる、そんな感じでどんどん物流や人の交流が盛んになり、どんどん村は大きくなっていった。その影響力が五大大国でも、無視できないレベルになっていた。だが、ここで一つの弊害が出てきてしまう。村には"門"が無かったのだ。

 当時も今も正式には決まっていないものの、"門"を持っていない場合は大国とは認められないと暗黙のルールがあった。そのため国と名乗ることが出来なかった、村や町では小さすぎ、国と名乗る事は許されない、そうして苦肉の策で生まれたのが"街"と言う訳だ。


 長老からもらった金貨はここに来るまでに使い果たしてしまった。なんにせよ取り敢えずは、お金が必要だ、となれば行く先はギルド。群がる人ごみにうんざりしつつ、標識便りにギルドへと向かう。

 順調に歩みを進め、あとギルドまで三百メッセと言う所だろうか? 大通りを進んでた俺の耳に、やや高めの男声と綺麗に通る女声。

 ……一番堅実なのは聞かなかったふりする事に間違いない。冷静に厄介ごとに関わらない、簡単、簡単。

 そう思いつつも足は声が聞こえる方へと進む。様子見だけ、様子見だけ、自分に言い訳しつつ、抜き足差し足忍び足。


「おい、姉ちゃんの所為で、あのおっさん逃げちゃったじゃねえか! どうしてくれるんだよ! おい!」

 チンピラ。第一印象はそれだけだった。明らかに染めてるいるであろう、金髪を長く伸ばし、言動も笑ってくださいと言わんばかりに、小物台詞。それに、これまた絡んでいるのが美人と言う辺りが……ありきたりにも程がある。 

 ……にしても本当に美人だなあの人、長い赤髪、気の強そうな目つき、スレンダーな体型、正直に言おう好みである。って、俺も大概、人間に染まってるな……


「お前があの男性を、カツアゲしようとしていたから止めただけだ。こちらには何の非もない」

「はぁ~姉ちゃん。そんなんじゃだめだめ、世の中渡っていけないぜぇ~? ほら、見てみろよ大通りの連中はこっちに目もくれやしねえ。あれが大人の対応、分かるぅ?」

 あのチンピラ……こっちの後ろめたい気持ちに気付いてんのか? 分かってるよ、俺だって。ここまで来たら、引く訳にはいかないって自分が思うの見越してきたんだよ。様子見でやめるなんて中途半端な真似できないって気付いて来てんだよ! ちきしょう!


「確かに私が不器用なのは認めよう。だが私に非が無いのは事実だ」

「おいおい、だからさぁ非がある、ないの話じゃ無い訳分かるぅ? カモを逃してくれた責任を払えっていってんの! そうだなぁ……あんた美人だから今夜ちょっと……な。姉ちゃん位の年なら、分かるだろう?」

 うわー……これは酷い、お前なんなの? 良い子のチンピラ講座でも受けて来たの? 良い子はチンピラになったりしないけど。


「…下種が」

「おおっと、武器に手をかけるなよぉ。俺にもちょっとコネがあるからよ、あんたの身に何が起こるか……おおっおっそろしい」

 ……もういいよ、お前帰れよ。帰れ、帰れ、その陳腐さがこっちのやる気削ぐんだよ。はぁ……叩きのめす方のは簡単だけど、ああいうタイプは例外なく逆恨みして、根に持つんだよな。面倒臭いが一芝居打つか。


「お~い、そこの旦那。そこら辺でやめたらどうです?」

「はぁ~またバカが一人きやがった。おい、その顔面今より崩されたたくなかったらさっさと失せな」

 首をふりふり、もううんざり、と言った様子でチンピラが勧告してくる。お前こそそのでかい顔、小顔に矯正されたくなかったらとっとと失せろ。


「いやいや、美人さんがこんな目にあってたらねぇ? 男としては見逃すわけにはいかないんでしょ」

「……俺は優しいからあと一回だけ言ってやる、失・せ・ろ、いいな?」

 首をふりふり、やれやれだ、と言った様子を演出し、チンピラを挑発する。これで釣れるだろう、単純バカっぽかったし。

「てめぇ……!」

 顔を真っ赤にさせ、持ち前のチンピラフェイスを歪めながら、のしのし(実際には鳴ってる訳が無い、飽くまで擬音的な表現だ)歩いてき、いきなり鳩尾に拳を放ってきた。

 勿論避けることも出来たが、挑発した時点でこの拳を喰らう気満々、鳩尾だとちと演出が必要だが。


「ぐっ! うう……げぼぁ!」

「うわ!下呂吐きやがったって……な、なんだこりゃぁ!血じゃねえか!」

 俺の口から血が溢れ、殴られただけの筈の鳩尾には、なぜかナイフが突き立ち、だくだくと血が流れる出る。さてさて、此奴の小物度合いで今後の演技が変わるんだが、どうなるかな?


「貴様、何をした!」

「お、俺は何もしてない!」

「嘘をつけ! だったらその男に刺さっている物はなんだ!」

 ナイス、謎の女性。まず、このナイフに気付いて貰わないと、話が進まないんだよね。


「ち、違う俺はナイフなんて持ってなかった!」

「見苦しいぞ! この状況、申し開きが出来る訳ないだろ!」

「ち、違う! 違う違う違う! お、俺じゃない! 俺はやってないんだぁ!!」

 そういってチンピラは取り乱した様子で逃げて行った、よし、一番いい形だ。ここで逆上するパターンだと、面倒くさかった。彼奴の小物具合、天下一品と言っていいだろう。


「おい、待て!」

「いやいや、良いですよ。お姉さん」

「っと! そうだ、追う前に治療だった! 動くな、直ぐに医者を呼んで来る!」

「いやいやお姉さん、その必要は」

「そんな重傷で大丈夫なわけがあるか!」

「いや、そもそも傷なんて付いてないですよ。ほら」

 そう言ってナイフを腹から抜き、直ぐに傷を塞ぐ。刺さっていたのは小ぶりの投げナイフだ、塞ぐのも一瞬だ問題は無い筈。


「ほらね?」

「し、しかし血が出てるでは……!」

「ああ、これ血糊ですよ血糊、まぁ本物っぽくみせる為に、少し錆びた鉄を入れてますがね」

「と、という事は…」

「そ、さっきのは僕の芝居って事です。じゃあお姉さんさようなら~」

 さっ何か聞かれる前に、さようならーとはいかない訳で。

「ま、待ってくれ! ナイフは、ナイフは何処から出てきた? その口ぶりからすると、ナイフもお前が仕組んだんだろう!?」

 ですよねー……体内の一部をスライムにして、その中に投げナイフやら短剣やら仕込んで、それを腹から出しましたーなんて言えたら、幸せだなー俺は。


「……いや、それはさっきのチンピラが刺してきたナイフですよ。そのナイフが偶然、腹に仕込んでた血糊入り瓶に当たってこうなったんですよー」

「嘘だ!」

 そりゃそう言うよね。あのチンピラナイフ持ってないとか言ってたし。

「本当なんだけどなぁ」

 白々しいな、我ながら。といくら思っても、本当の事言う訳にはいかないからなぁ。


「……話してくれはしないか……だったら、せめて名前を、名前を教えてくれ」

「全部話したんだけどなーまぁいいや。ルフト、ルフト=ゼーレです」

 名前ぐらいなら問題ないだろう。もう会う事も無……っと、こう言う事思うと、小説では大概会うんだよな……危ない所だった。

「ルフト……か、ここら辺じゃあ、聞かない名前だな、遅くなったがルフト、助けてくれてありがとう」

「いえいえ。それじゃあ」

「ああ、それじゃあ」

 なるべく顔も覚えられたくないので、手早く……も無かったが、話を切り上げ、標識のある大通りに戻る。

 さっ、気を取り直してギルドへ急ごう。



◇◆◇◆◇◆◇一時間後◇◆◇◆◇◆◇



「や、やっと着いた……」

 あの後、どこで間違えたのかわからないが、ギルドへの標識がいつの間にか消え、散々探し回ってやっと着いた。

 だけど、この建物がギルドだと知っていれば、直ぐに来ることが出来たよな……

 目の前にあるのは、そう思う位に大きな建物だった。なんたって、一番最初の門からずっと見れていたのだから。

 ごくりと一つの喉を鳴らし、ゆっくりとドアノブを回し中に入る。胸に抱えるのは、不安八割、希望一割、その他諸々一割だ。

 扉を開き、辺りを見回し、思わず目を疑う。それはと言うのも、長老から聞いていた、騒がしい酒場のような場所ではなく、清潔感が溢れる、まるで一等級の宿屋の受付のような場所だったからだ。

 慌てて外に出て看板を見てみるが、そこには間違いなく"ギルド 渡り鳥の巣"と書かれた木彫りの看板が掛かっている。

 な、なんにせよ……取り敢えず、受付の人に聞いてみるか。


「ここがギルドであってますかね?」

「ええ、そうですよ。何かご依頼でしょうか?」

 良かった。ここで違うと言われたら、若干途方に暮れていた。

「いえ、ギルドに加盟したいのですが……」

「え゛!? し、失礼ですが……貴方様が」

 本当に失礼だよ。だがまぁ、ここは大人の対応だ、うん。見た目、戦うタイプじゃないのは、自分で分かっていたじゃないか。落ち着け、落ち着くんだ。

「ははっええ、そうですよ」

「……分かりました。ではあちらの方にある受付カウンターの方でご加盟ください」

「ありがとうございます」

 言われたカウンターの方に、高級感漂う厚い絨毯を、踏みしめながら歩いていく。


「すいません」

「あっこちらは依頼受付じゃありませんよ」

 ものすごい自然に言われた、恐らく間違えて此処に来る一般人も多いのだろう。だが残念だったな! 今回は間違えてきたわけではないのだよ、こん畜生!


「い、いやそうじゃなくて、こちらに加盟しに来たんですが」

「ええ!? この仕事はい」

「いえ、大丈夫です。恐らく命に関わるとか言おうとしたと思うんですが、大丈夫、分かった上でここに加盟しに来てます」

 逆に分かってないで来る人間いるのだろうか? 居るのだろうな……こんな事言う位だし。

「そ、そうですか。では、この契約書にサインと登録書の必須項目、と書かれてる部分にご記入ください。それ以外は任意ですが、なるべく空き項目が少ない方が、こちらとしても、仕事が斡旋しやすいので、出来るだけご記入を」

「分かりました」

 死んだら自己責任、報酬の二割はこちらによこせ、規約を破ったら罰則など、御馴染みの文章が書かれている契約書にサインし、受付から離れてペンが置かれている机を探して、登録書を一通り見る。

 必須項目として書かれていた部分は、精々、氏名位で他は全部任意みたいだった。取り敢えず住所や出身はかけないが、年齢、得意武器などはかける。

「さて、ちゃちゃっと書こうかね」



◇◆◇◆◇◆◇一時間後◇◆◇◆◇◆◇



 もういい! 書かん! 特技の部分で四十分は試行錯誤した俺の最終的に行きついた先は書かないという事だった。はぁ、これ以上迷わない様、さっさと行こう。

「こ、これでお願いします……」

「はい、では、確認いたしますので少々お待ちを………特技の部分が空白ですが、宜しいでしょうか?」

 迷わせる事を……! だが、ここで決心は変えんぞ!

「…え、ええ大丈夫です」

「……ここを書いてるのと書いてないのとでは、大分違いが出ますが?」

 その言葉を聞き、咄嗟に考え直させてください、と言おうとしたとき、後ろからするりと手が現れ、特技の欄にこう書き加えた"小細工"と。


「へっ?」

「いや、しかし、お前もギルドに加盟するつもりだったとはな。丁度良かった」

 聞き覚えがある声。丁度二時間前程に聞いたような声。そーっと後ろを振り向いて見ると、そこには見覚えのある赤髪の女がいた。

「なっ、なんでここに?」

「私も此処に加盟に来たんだよ、あっこれが私の登録書だ。よろしく頼む。あと、この男の登録書もこれで良いぞ」

「承知いたしました」

 何も疑問に思わず、すーっと持っていく受付嬢。それでいいのか受付嬢。って待ってよ、受付嬢!


「ちょ、本当に持って行っちゃったじゃないですか! なんですか! 特技が小細工って!」

「いやしかし、私を助けてくれた時のあれは小細工だっただろう?」

「そりゃ確かにそうですけど、別に特技って事じゃ…!」

「まぁいいじゃないか、書いてあった方が得と言ってたじゃないか」

「あんたねぇ……!」

 だが、言われてみたら、得した……のか? いや、得したと言っておこう、物事はポティシブに考えよう。


「はぁ……で、なんでこんな事を?」

「いや、特技が書けなくて困ってるようだったからな」

「お節介と言う言葉知ってますか? あー……」

「イレーナ、イレーナ=ルートナイだ」

「イレーナさん」

「勿論知っているさ、ルフト。私も、今ちょっと罪悪感を感じている、だけど、顔見知りがこっちには居なくてな、そんな中、ほんの少しとは言え、見たことがある顔、それも自分を助けてくれた人が困ってるとなったら、思わずな」

 そう言われると、こちらとしても文句を言いづらい。まぁもういいや。


「……ここ出身じゃないんですか?」

「ああ、ラディーア出身だ」

「あの魔術と学問の国の? なんでここに?」

 ラディーアの出身者は、基本的に事務職なら学者か教師、戦闘職なら魔術師、魔創騎士団やらに入るのが一般的だ。ギルド員になるにしても、こんな所まで来るのは、不自然極まりない。

「ほいほい人の素姓を詮索するのはどうかと思うぞ。私は」

「うっ……確かにそうですね。お互い知られたくない事はありますよね」

「うん? お互いという事はお前も何かあるのか?」

 あっ墓穴ほった。って言ってもこれぐらいなら直ぐにカバーできるだろ。

「いえいえ、今のは言葉のあやですよ、あや。僕は清廉潔白、隠し事なんてありませんよ」

「と言ってるんだがどうなんだ」

 受付カウンターに持たれかかり、イレーナが言う。誰に言ってるんだ?


「身元不明、経歴不明、確実なのは氏名だけ。年齢は二十って書いてますが、正直あの顔で二十は……」

「二十!? それは、嘘だろう?」

「喧しい」

 やばい、地が出た。だけど、余り老け顔なのを気にしたことは無い俺でも、こうまでずけずけ言われると、こう言いたくなるのも無理は無いと思う。っていうかこの受付って一応仕事だよね? 個人情報明らかにしちゃダメだよね?

「清廉潔白って言ったのは誰だったかな? ルフト」

「素姓を詮索するのはどうかと思うなんてほざいたのは誰でしたっけ? イレーナさん」

「私以外の誰かだな」

「僕以外の誰かですね」

 お互い、いけしゃあしゃあと答える。


「っと言うか、そう言う事言っちゃダメじゃないんですか?」

「そう言われればそうですね。ごめんなさい」

「軽い! もう少し誠意を見せて謝ってください!」

「まぁまぁお前も嘘を……」

「そう言われれば……って僕は二十歳です!」

「「……」」

 何だよ、その目は嘘ついてねぇよ俺は!

 

「信じないなら良いですよ! 別に!」

 感情的にならない、もうとっくの前に破ったな。御免、長老……許してくれはしないだろうが。

「何を言う、信じているぞ私は」

「信じていますよ、私も」

 この女共は……! 感情的にならない、感情的にならない、感情的にならない……! 絡まれてる女性は助けない方が吉、昔の俺に伝えたい……!


「っていうかここで立ち話続けるの止めてくれませんか?」

 ……よし、落ち着け。ここで立ち去れば何事も無く、物事は進む、一時の我慢が吉だ、今の俺。

「すいませんでしたー」

「おっとすまん、では早めにもう一つの用事を、実はこいつと相棒登録したいんだが……ここで良いのか?」

「はい、ここで大丈夫ですよ」

「いやいやいや! ちょっと待って! 僕は何も承認してないですよ! っていうか相棒登録って何!?」

「そんな事も知らないのか? 十年くらい前にだな、新人の死亡件数の多さが問題になって、加盟して一年は、絶対に二人組以上じゃないと依頼が受けれなくなったんだぞ」

 初耳も初耳だよ! ここ最近の事はあんまりわからないんだよ!

 

「本当なんですか?」

「ええ、本当ですよ。っていうかギルドに入るんだったら、それ位は知っておいて欲しいんですが…」

「い、田舎に住んでたもので……時代の変化って速いですね、道理でギルドの雰囲気も違うはずだ」

「ギルドの雰囲気ですか? ……もしかしてなんですけど、荒っぽい酒場みたいなのをイメージしてましたか?」

「え、ええ」

「ふ、ふふふ……」「ぷ、ぷぷぷ……」

 な、なんだこの二人の女の含み笑いは。


「ふは、あはははははははは!」「ぷははははは!」

 ロビーに響き渡る、笑い声の二重奏。周囲の人が何事かとこちらを見てきている。……一刻も早くこの場から離れたい。

「な、なんなんですか! 取り敢えず目立ちますから、笑うのを止めてください!」

「す、すまん。あまりに昔の話をするものだから……ふふ」

「だって、そんなのもう昔の物語でしか描かれませんよ? それをこの歳まで…ぷぷぷ」

「昔って言ったて精々五十年ぐらい前のでしょ? そんなに笑わなくても……」

 いや、五十年前でも充分昔なのだが。


「へ? いやいや、ざっと百年以上前のイメージだぞそれ。と言うかやはり本気で……ふふ」

「もういいですよ! でっ相棒登録ってなんなんですか」

「ぷぷぷ……」

「オイ、仕事しろよ? 受付嬢」

 自分の顔が引き攣ってるのが分かっていても、止めれない、止める気も無い。

「い、いや、要するにこの人といつも組みますよって言う宣言みたいなものです。これをしてるといつも組んでると云う事は、お互いに息があってるってと認識されて、依頼を優先的に受けれたりするんですよ。だからまぁ、普通はある程度いろんな人とやってみて決め」

「って言ってますよ。僕じゃなくて他の人と組んでみたらどうです?僕にはあなたの言ううとおり小細工ぐらいしか出来」

 話を遮ってイレーナに言う、後ろで受付嬢がむっとしてるのが分かるが、気にしない。


「得意な武器にて拳に短剣に投げナイフ。短剣はともかくとして、他は奇特なものがそろってるんですが、それについては?」

「ほう、そうなのか? やはり、私の目に狂いは無かったな」

「いや、だからそういうのって言っちゃダメでしょ!」

「ああ、ごめん」

「喧嘩を売ってる。そう言う認識で良いんだぁオイ!」

「まぁまぁ」

「大体あんたも大概おかしいぞ! 普通そんな適当に決めるか!?」

 もう、地が出てるなんて気にしない。ここでちょっと強気に出て、何としてでも相棒登録など避ければ、一回や二回ならともかく、そんなに何回も組んでいては、ばれる確率が上がってしまう。


「おい」

 冷えた声。俺の苦手な怒気を含んだ声だ、激しく怒鳴られるより、冷静に指摘される方が怖いのだ、俺は。

「な、なんだ」

「侮辱しないでもらおうか、私は適当に決めたのではない。私が絡まれていたあの状況で、割り込んでくる、お前を相棒に選びたかったんだよ」

「それだけか? 言わせてもらえば、俺は今、絶賛後悔中だ、助けたことをな」

「今、本気でそう思ってるみたいだが……お前は、結局見捨てることの出来ない人間だ、間違いない。」

「勝手に決めつけるな」

「ふぅ……仕様が無い。この手は使いたくなかったが」

「な、なんだよ」

 ここは御馴染、勝った方が言う事聞くパターンか? それなら上等……ここで、ちょっと残虐非道な態度を演じれば、余計な声はかからないだろ。


「なぁ、受付嬢」

「カッツェ=クラッシィです。イレーナさん」

「有り難う、カッツェ。ところで一つ疑問があるんだが」

「なんでしょう?」

 なんだ? 何をする気だ?

「身元不明、経歴不明、得意武器は暗殺に使いそうなものばかり。不自然に口調を変え、誰かと組むことを極端に嫌がる。後ろめたい事があるとは、思わないか?」

「そう言われればそうですね……そんな怪しい人物はギルド側としても、監視しておきたい所です。犯罪者……それも暗殺者かも知れない人物の監視、そんなきついギルドの依頼を頼める人がどこかに居たら嬉しいのですが」

 こ い つ らっ……! 

「おおっ、その依頼、このイレーナがっ! ってもういいだろ、という事で観念しろ、ルフト」

「真面な死に方しないぞ……お前っ……!」

 

「なんだ、清廉潔白だったら何の文句もないと思うんだが…はっ! もしや本当に? おい! カッツェ! 確か殺人犯はギルドに入れないどころか死刑になる可能性もあるんだよな!」

「はい! 勿論です! まぁ相棒登録するような人ならそんなことは無いと思うんですけど……」

 結論、俺敗北。

「ああ! 分かりました、分りましたよ。登録しますよ……」

「では、この水晶にお二人の手をお乗せください」

「了解だ」

「準備早いなぁおい」

 俺とイレーナ、お互いに片方の手を水晶に乗せる。すると、水晶が虫眼鏡で雲が薄く掛かっている太陽を見た時ぐらいに輝いた、うん、自分でも何言ってるか分からない。もう疲れたよ……長老。

 遠い目をしている内に、水晶の輝きは消え、代わりに自分の左手の甲に一つの輪っかが描かれているのが分かる。

「なんなんだ? これは」

「これはお二人が相棒登録している証です。様々な機能があるんですが。一番分かり易いのはこれをしてるとお互いが何処にいるか大体分かります、って言っても勿論、任意で表示を消すことも出来ます」

「成程…ん? どうしたルフト元気が無いな」

「いや、なんでもないです……」

 そんな感じで俺の帰郷の旅路は前途多難な始まりだった。

どうも,生意気ナポレオン(三月十日ver)です。

いやー初登場のイレーナが予想以上に、嫌な奴になってしまいました(汗)


ここまで、彼女がルフトを引き込もうとしたのには、それなり(かどうかは分かりませんが)、理由があるんです。どうか、嫌わないで上げてください(願)


それでは


三月十日、改稿完了。

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