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人魔のはみ出し者  作者: 生意気ナポレオン
第三章:時は過ぎ去り別れ編
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第五十八話:紅は月光の夜に、煉獄は深淵の夜に

どうも、お待たせしました……(汗)

「さっ、そろそろ解散と行きますかねぇ」

 湿っぽくなった雰囲気を吹き飛ばす様にルフトが言い、私もそれに同調してズボンに付いた砂が払いつつ立ち上がる。だが、何故か解散と言った本人は立とうとしない。

 何か思索すると言うよりは尻込みしているような顔、なんだかんだ言ってこいつは若干優柔不断な所がある。そして、これまた普段通り、迷いつつもルフトは事を為す決心をしたようだった。

「あー待て、イレーナ。お前に見せる物があるから」

 言ってルフトは修練場の中へと降り、その中心でこちらを振り返る。月光を背に抱え、ルフトが左腕を鳴動させる。

 ずるり、と言った表現が正しいのだろう、それは見ていてとても気持ちのいいものでは無かった。生き物として余りに不自然な事が原因かもしれない、ルフトの左腕からは大小幾つかの明らかに左腕に内蔵する事など不可能なはずの箱が排出されていた。

「体内なら何でも圧縮可能とは聞いていたが……ルフト、やるならやると言ってくれ」

「悪い、お前にばれない様に運ぶにはこの方法しかなくてな」

 ルフトが苦笑いを浮かべつつ、へこへこと体を倒す。

「ばれない様に?」

「言っただろう? 俺特注の品、出来上がったらいの一番に見せるってよ」

「……それ、今日じゃないとダメなのか?」

「まぁまぁ、そう言うなってほら、こっちに来てくれ」

 暗がりでルフトが手招きする。

 やれやれ、子供じゃないんだから明日でも良いだろうに……。

 渋々修練場の中へと飛び降り、やや早足でルフトへと近づく。影だけだったその姿がハッキリするにつれ、何故か肌がピリピリと泡立つ。

「……?」

 妙な感覚に首を傾げていると、にやにやとルフトがにやけているのを気配で感じる。

「なにをにやけてるんだ」

「いや、何でも」

 明らかに何でもあるのだが……まぁその特注の品と言う奴を見れば終わるのだ。ならば、気にするほどでも無いか。

 段々と強くなる妙な感触を無視して歩き続け、やっとルフトの顔がうすぼんやりながら分かる位置に着く。

「さて、それじゃあ、開けるぞ」

 ルフトの言葉に首を縦に振ると、ルフトは箱の中でも比較的大きめな物に手を伸ばす。

 粘液に濡れて光る木箱、その簡易な鍵を手早く開け、蓋をことり、と地に下す。

「ほれ、ちょっと見てみろよ」

 言われたとおり箱の中を覗いてみる、が、ルフトの影が邪魔で何が入っているのかまでは分からない。ルフトもそれが分かったのか、ゆっくりとその場を退き、遮るものが無くなった月光が箱の中へと差しこまれる――と、


 紅色の光が視界を占領した。


 光は雄々しく華麗。光の質は鷹爪花【錦】と同等、だが光量、そしてそこから感じる力は遥かに上。

 夜の暗闇に慣れた目を突く閃光に怯み、その正体がすぐには分からない。

 こう言うものなら早く言え、と内心で毒づきながら目を何度も瞬かせ、漸くそれを目に捕える。

 鎧だった。

 女性用防具にありがちな、受け止めるのではなく力を受け流す華やかさすら感じる流線型の鎧。およそ実戦用とは言い難い、おそらく観賞用だろう。

 ただ、それではこの鎧が放つ光は、肉を打ち震わせ、力を求める根源的な野性を、闘争に餓える獣性を掻き立たせるこの光の説明がつかない。

 では、この光はなんなんだ? 月光の反射? 違う、そんな生易しいものではない現に私は光を"放つ"と感じたではないか。

 自ら光を、力を放つ石。そんなのは私には一つしか思い浮かばなかった。

 だがしかし、そんな筈は無い。私が思う物でこの鎧を作ったとするならば、とんだ愚か者だ。

 あれは――人を殴ったぐらいで砕けてしまうものなのに。

「勘付いたか……やっぱり本職は違うねぇ。この光を見て、俺は綺麗だなぐらいにしか感じない」

 ルフトの声に己が確信を高まり、次の一言で確信は事実に変わった。


「そう、この鎧と言うか防具一式は――前代未聞"魔石"製の防具だ」


 得意気に言い放つルフト、何か返答しようと口を開くが、喉が震えず声が出ない。馬鹿みたいにパクパクと口を開けるのみだ。

 驚き、呆れ、怒り概ねそんな三つが混ざり合わされ、言葉にならないのだ。

 もし、ルフトの言葉が嘘や冗談では無く、この防具全てが魔石で出来ているとしたら、私が付けていた手甲などとは比べ物にならない程の量の魔力を貯めることは出来るだろう。が、魔石の硬度はガラス以上石ころ未満だ。それを生死にかかわる防具に仕立て上げるなど言語道断。そもそも、一体それだけの魔石を集めるのにいくら費用が掛かってると言うのか、手甲一組三十万リズ、防具一式となれば目が飛び出る様な値段の筈、一体此奴の何処にそんなお金が……!

 混乱する私を置いて、ルフトがニヤニヤと笑いながら話を続ける。

「随分と驚いてるみたいだな、無理も無い。何せ、魔石なんてちょっと強く叩けば砕ける上に色も派手、そんなので鎧作るなんて馬鹿の極みだ」

 ルフトが下手な売り子の様に大げさに頭を振り、だが、と強い反意の言葉で話を繋ぐ。

「この鎧と言うか防具一式――柳緑花紅(りゅうりょくかこう)――は別だ。硬度は部位にもよるが下手な防具以上、無論魔力もしっかり貯蓄可能だ」

「ま、待て! そんなのあり得る筈が」

「慌てるな、慌てるな。実はこれ見栄を張ると言うか、インパクトを出す為魔石製だなんていったが、さすがに魔石十割の品じゃないさ正確に言うとこれは魔石とその他諸々の鉱石を使った、オーダイ製特殊合金三号通称――"紅鶴石(こうかくせき)"――と呼ばれる品を使った物だ。いやはや、開発費が結構掛かったんだよなー、これ」

 合金云々の事より、私には最後の開発費と言う言葉が引っ掛った、こいつの何処にそんなお金が……!

「あー、金の事だったら安心しろ、俺の貯蓄から全部だしてっから」

「貯蓄!? 万年借金のお前にか?」

「かかか、俺も慣れない事してきつかったぜ」

 ルフトが笑い、だがまぁ、と寂しさを漂わせる静かな言葉を放ち、

「なにせ何時かは別れるのが決まってる、一方的に別れる以上何かしらのお礼はしないといけないからな。それよりもお前に残額がばれない様にするのが大変だった、しょうが無くシュヴェルトさんに事情を話して入れさせて貰ってたんだ、まっお陰で落とした時には助かったけどな。まーだけど予想以上に早く帰る機会が来たから焦った焦った、家財道具を売った金全部に、こっちに来てからの給料ほとんど全部つぎ込んだからな。精々、恩に着ろよ」

 途中からは照れたのか、空気がいやだったのかおざなりになり、最後はおどけながら言い終える。

 でも、それで良い気もした湿っぽいのはやはり私達には似合いそうもない。

「恩に着ろって……これ、私に……!?」

 感極まって――真には似合わないその言葉に、別れを感じて――喉がつまり、目元が潤む。

「当たり前だろ、魔力なんて俺にあったって使い道無いんだから。それよりほら、付けてみろ付けてみろ」

 ルフトが瞬間顔を歪ませ、直ぐにその表情を隠す様に私から目を逸らしてぶっきらぼうに言い放つ。

「あ、ああ……」

 そんな表情をさせてしまった事を悔いつつ、押し切るような形で進められた風にし、柳緑花紅を上から順に装着していく。

「おっ、ぴったりだな」

 装着し終え、こちらを見た時にはルフトはもう元の表情に戻っていた。私も先程の事は無かった様に装い、さすがはオーダイ製、などと感嘆する。

「さて、その柳緑花紅に付いての説明書がここに在るんだが、これ持って帰るか?」

「出来れば、ここで説明してもらうと助かる」

 りょーかい、と面倒くさそうな声で返事をし、ルフトが静寂を乱さぬ小さな声、しかし、しっかりと聞き取れる音量で話し始める。

「まず、この素材である紅鶴石は他鉱石が入ってる分、本来よりも魔力貯蓄量が劣ってしまう。故に心臓などの急所は他鉱石の比率を高め、そもそも防御が薄くならざるを得ない関節部は魔石比率を高めて調整、その他の部分は防具の種類で微妙に違っているものの、概ね同比率で作っている。ごちゃごちゃ言ったが要するに、関節部への攻撃には気を付けてくれって事だ」

 声を聞き、

「また、重量は前お前が付けていた鎧よりと同等かそれよりも僅かに重いかもしれん、装甲が薄くなってそれでは割に会わないと思うかも知れないが、防御を高めるに密度が高くて重い素材を使わざるを得なかったんだ、勘弁してくれよ」

 息遣いを感じ、

「他に言っておくことは……っとそうそう、魔力貯蓄量は大体魔術師七歳分歳程度、お前が五歳分って言ってたから合せて十三歳分だな。色からして分かると思うが鷹爪花【錦】も紅鶴石製だが、魔力貯蓄量は雀の涙ほどだからあまり期待しないように、代わりっていう訳じゃ無いが刃折部分は"変形"の刻印が彫ってあるとかである程度自在に変形するとの事だ」

 表情を記憶し、

「そうそう、柳緑花紅の方は兎も角、鷹爪花の方には魔力を溜めてないから、溜めてから寝るように、以上説明終了」

 ルフトと言う存在を、胸に収める。

"門"を越えたらもう、こんな機会は無いだろうから。

 何時の間にかきつく閉じていた瞼を開くと、話し終えたルフトは箱を片づけ始めていた。

「手伝うぞ、何処に持っていけばいいんだ?」

「あー、良い、良い。お前はもう寝とけ、明日あるんだから」

「そういう訳にもいかないだろう、ほら、この小さな箱は何処に持っていけば……って、これ開いてな」

「い、良いから良いから! ほら、寝ろ寝ろ!」


「ただいま……」

 結局押し切られ、私は自室に戻ってきていた。

 部屋に帰るとすぐに目頭が熱くなり出したが、それを懸命に無視して、なるべく身に着けた――ルフトに貰った――柳緑花紅を見ないようにしながら外す。

 顔を枕に埋め、"湿気"の所為で僅かに湿ったそれに何かを掴むように指を食いこませていたら、目を開けて来た時にはもう、夜は明け、残酷な朝が訪れていた。


◆◇◆◇◆◇


 ――だが、こうなる事は分かっていたのだ。

 焚火に揺れる回想から、視線を上げ、夜の星空に目を向ける。

 この時の私はまだ知らないのだ、悲劇とは予定調和では無く、不意に思いも至らぬ、今回では思いに至るべきだった、出来事を言うのだと。

 ふと、背後の暗闇に気配を感じ、続き濃密な血の臭いが鼻孔を貫いた。

 この約一週間の戦場を過ごした私でも、一瞬吐き気を催すほどのそれは、目の前の焚火の様なちりちりと強弱を変える殺気と共に来た。弱い時には、蜻蛉(かげろう)の如く儚く、強い時は、煉獄の様に重く熱い。

 その殺気に死を覚悟した、死を許容した体が、断たれた回想を走馬灯で繋ぐ。

 私は罪を見詰める為に目を閉じ、瞼と言う名のスクリーンにそれを写しだす――

今回の話し、ちょいちょい裏設定(?)みたいな所があるので、活動報告の方に書きたいのですが……明日になるかもしれません

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