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人魔のはみ出し者  作者: 生意気ナポレオン
第三章:時は過ぎ去り別れ編
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第四十一話:気付かれない別れ

「よし、行くぞ!」

「はぁ?」

 祝勝会の翌日。ルフトのギルドに来ての第一声に、思わず間の抜けた声を上げてしまう。行くって何処にだ?

「何をボーっとしてんだ、早く準備するぞ」

「ちょっ、ちょっと待て。行くって……」

「"アイゼル"だ。表彰式で貰った依頼書に書いてあっただろう?」

「そ、それはそうだが、"門"が開くのは三か月後じゃないか。今から行かなくとも」

「良く考えてみろ、イレーナ」

 話が長くなると踏んだのか、ルフトが席に着く。そこはかとなく、教師の時間を奪う出来の悪い生徒になったようで居心地が悪い。

「俺達は新残者、どころか余所者だ、向こうに行った時に快い歓迎を受けれるとは考えにくい」

 確かに、言われてみればそうである、ギルドは基本的に荒くれ者と言うか、普通の職にあぶれたものが行くような場所である。数多ある職業の中でも誇り高い正規兵は歓迎してくれるとは思えない。

「それに、俺達自身の事を良く考えてみろ、俺に関しては見た目を見るだけで、それこそ一目瞭然だ」

 自嘲するように体を見せ、服の裾を巻くってその腕を見せる。最初は首を傾げたが、ちょっと考えるとすぐにわかった。

「ああ……成程。私は女だから、お前は……その……」

「ひょろっちいからだろ? 良いよ、遠慮しなくて。なんたって、今から行く所はかの有名な"鉄と血の国"だ」

「男尊女卑、男は六割がたいの良い戦士か戦士の魂を打つ鍛冶師。鉄に魅了される者、血の臭いに取りつかれる者が集う国、アイゼル……だったかな?」

「それに付け加えるなら魔術師嫌い、だな。今は流石にそこまで酷くは無いそうだが、この前はアイゼルの奴らも魔術を使ってたんだろ?」

「ああ、"付術士"と"魔体士"だったな。どちらもアイゼル向きの魔術だ」

 付術士は術を何かに付加して戦う魔術、魔体士は自分の体に魔術を埋め込み強化を図る魔術、どちらも肉体派魔術師が使うものだ、ちなみに"魔創士"もどちらかと言えば肉体派魔術師に入る。

「でだ、なるべく早く向こうに取り入りたい、って言うと人聞きが悪いがとにかく信頼を得たい。そして、信頼を得たら……」

「情報が得たい。何処に門が開くか、自由遊撃兵と言ってもどこら辺まで自由なのか、などなどって所か」

 せーかい、と言う事を取られたルフトが間延びした声で言う。何時までも此奴に言われっぱなしと言うのは気に喰わないからな。

「まぁそれは利己的な問題、もう一つ感傷的な問題は――別れるのが辛くなるからな」

「…………」

 そう、私と違いルフトが門を潜るのは一度だけだ、魔界(向こう)へ行ったら最後、人界(こっち)へ戻ってくる事は……無い。

「……私も下手したら一度になるかもしれないんだがな」

 まだ実感は無いが、門が開いたらそこは戦場なのだ、向こうの駐屯基地に一週間滞在し、その間は常に向こうの兵隊と戦うことになる。そんな戦いで、魔臓欠陥者たる私が生き残れる保証は当然無い。

「お前は絶対に生きて帰すさ、そして怒られて来い故郷の両親にな。まったく"親孝行したいときに親は無し"って言うんだからよ、親はあんまり悲しませるなよ」

「故郷から逃げ出した私と、故郷に戻りたいお前、考えてみたら皮肉だな」

「まったくだ。さて、理由は分かっただろ、俺は賞金で装備を整えてくる、お前は?」

「私も、少し揃えて来るかな、魔石の小手は砕けたしな」

「ついでに剣も変えたらどうだ? お前にはあの剣重すぎるだろ、こんな事言うとあれだが、女性の筋肉量が男に劣るのは間違いないんだからよ」

「回りくどい言い方だな、女は非力、そうハッキリ言ってくれて良いんだぞ?」

「俺は男がなんだ女性がなんだって言うのが嫌いなんだよ、あと、女って言うのもあんまり好きじゃないな、やっぱり女性は女性、女なんてぶっきらぼうな言い方は好きじゃない」

「なんだ、私を非難してるのか?」

「いや、人が言うのにわざわざとやかく言ったりしないさ。だが、"女性には優しく"って師匠に教えられたんでね。あー……勿論、お前も例外じゃないぞー」

「……私まで照れるような事を……」

 顔が火照ってるのが分かる、物凄い恥ずかしいのだが、ルフトもそれは同じらしい真っ赤な顔で必死で目を逸らしている。

「やっぱ言葉にするもんじゃないな、こういうのは、それじゃ準備が終わったらあの喫茶店で待つって事で」

 そう言って立ち上がり、一刻も場を離れたいのか足早に立ち去ろうとする。 

「あっカッツェに連絡頼む、俺はシュヴェルトさんとことヴァッサーさんに連絡するからー!!」

「お、おい! 私も一緒に……ってもう行ったか」

 やれやれ、とりあえずカッツェに連絡してくるか。


◆◇◆◇◆◇


「新しい剣……か……」

 街の中で最も信頼されていると言う、中央区の武器屋で思わず私は独り言をつぶやいていた。

 この剣には思い入れが確かにあったう。あの大会じゃあさして役に立たなかったが、残党殲滅依頼やちょっとした大型の獣を倒す時にはよく役立ってくれたし、何よりこの剣は初めて自分のお金(と言っても、子供の頃のお小遣いを溜めてたものだ)で買ったものだ。

 だが、ルフトの言うとおりこの剣は私には少々重い、だから、ああも簡単に弾き飛ばされたのだ、例え我流で正剣術二級の資格を持っていようと剣が無ければ意味が無い。

 様々な剣があるのだが、どれもピンとこない、とは言うのも女性向けの剣と書かれている一角には短剣や刺突剣などしか無いのだ。

「どうしたイレーナ、良い武器が見つからないのか?」

「ああ、中々な」

「おい、後ろから急に知人と言うか相棒に話しかけられたんだ、少しは驚いてくれよ、振り返ってくれよ」

「いや、御免、今私集中してるから」

 内心驚いているのだが、決して表に出したりはしない、なんだか負けて様な気がするからだ、自分でもくだらないとは思う。

「へいへい」

 見なくとも首を竦めてる声でルフトが答え、隣に並び剣を見始める。近い、近いって。

「……ここら辺のはお前には向いてないだろ」

「だが、向こうの男向けのはこれと対して重さは変わらないからな」

 背後の剣を指さしつつ言う、この一角に来る前に試しに構えさせて貰ったが、やはりやや重い。

「あのさ、イレーナ」

「なんだ?」

「今からアイゼルに行くんだったら、そっちで見た方が良くないか?」

 "鉄と血の国"アイゼル……か。

「……今更言うな」

「悪い。俺のは、別にここで良かったもんでな」

「ん? そう言えば……」

 黒いコート、黒い指ぬきの革手袋、黒い帽子に、黒い靴、レガースも黒、レギンスも勿論黒だ。確かに、此奴は黒好きだったがここまで酷くは無かった。

「お前、そのセンスはどういう……」

「まっ自分でも自覚してるよ、だけど黒が一番好きだからしょうがない。それに、夜間動くにはこっちの方が良いだろ? ほれ、迷彩用の黒の絵の具、勿論肌に優しいそれ用のものだ」

 成程、徹底している、ここまでやられたら確かに見辛いだろう。

「それに……ほれ」

「うわ! お前、重くないのか?」

 黒のコートを広げてみると、そこには幾つもの暗器が仕込まれていた、投げナイフは勿論だが、暗器用弩が数丁、火薬か煙幕かは分らないがなにかしらの爆弾が幾つか、此奴どれだけ準備万端だ。

「それに……」

 手を此方に見せてくると、一瞬指が細くなり、直ぐに元の大きさに戻る、すると指には"角指"と呼ばれる、棘が付いた指輪の様なものがはめられていた。

「おい、ここまでしなくともよくないか? 変化士の能力もあるのだし。それに、お前、身に付ける物は変化の邪魔だから最低限の物しかしないって言って無かったか?」

「まぁそうなんだけど、あんまり変化の能力をホイホイ使うのもな、と今大会で痛感した訳だよ、なにせ変化は生命力をそこそこ使うからな、できれば修復にだけ使いたい。それに、折角資格持ってるんだ、使わないと損だろ?」

「あー……お互い、今大会では殆ど役に立たなかったからな」

「そう言う事、俺も服が今みたいに色々仕込めるようになって無かったからな。ちなみに、今見せた奴以外に袖には"寸鉄"、靴は特注の鉄板が入ってる奴だ、レガースの裏にはナイフを仕込んでるしな。本当はレギンスに"鋼線"を仕込みたかったところだが、あれは一級じゃないと買えないからな」

 ……呆れてものも言えないとはこの事だ、全身暗器だらけその独特の格闘術だけでも十分だと思うんだが。

「それじゃ、シュヴェルトさん達も待ってるだろうから早く行こうぜ」

「ああ、そうだな」


◆◇◆◇◆◇


「何!? もう行くのか?」

 喫茶店に集まり幾つか話をした後、事を伝えると、カッツェとディーガンはそこそこに驚き、ヴァッサーさんは表情を変えず、シュヴェルトさんは見ての通りというか聞いてる通りと言うか。

「ええ、早めに言ってあっちの人たちと話しておきたいんで」

「まぁ言いたい事は分かるが……しばらくは寂しくなるなぁ、おい」

 その言葉に胸が痛む、"しばらく"では無いのだ、正しくは"ずっと"なのだ……!

「ははは……」

 その事でだろう、ルフトも笑ってはいるが、僅かに表情が硬い。

「ディーガン、お前もう歩いても大丈夫なのか?」

「ええ、この通り医師同伴で、ですけど」

「そう言う事だ、万が一の時でも俺が居る、安心しろ」

「そりゃ安心だ」

「イレーナさんは五体満足で帰ってきてくださいね」

「おい、俺は五体満足じゃなくてもいいのか?」

「貴男は再生するでしょう?」

 軽快に言葉が飛び交う、このメンバーが全員集まる事はそう多くは無いが、それでも全員揃った時にはこんな感じで声が飛び交い、笑顔が照らし、心が温かくなる。

「それはそうだがな、もう少しかける言葉が……」

 だけど、その時間ももう終わりだ、私の時計は無慈悲にある時間を告げていた。

「おい、ルフト! もう車が出る時間だぞ」

 この街を出る定期便の出発時刻だ。

「げっ、もうか。じゃ、じゃあ!」

「三か月以上会えないって言うのに、適当だな」

「支払いはしておくんで、勘弁してくださいよ。じゃ! また!」

「早くしろルフト!」

「分かってるって!」

 こうして、私とルフトはアイゼルに旅立ち、私達の一年以上にわたる街での生活は――終わった。

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