第四話:言霊と喧嘩
一週間後、俺の体は多少運動出来る程度には回復していた。
そんな俺を待っていたのは、長老による"超大賢者様殿による、壮絶に頭が悪いルフト君の為の、超…以下略が行う青空言霊講習会"が始まろうとしていた
正直、言ってて腹が立つ上に無駄に長い。ボケてるつもりなのだろうが、寒いことこの上ない。
長老が何処か、突っ込みを期待する様な目線を投げかけてくる。その目辞めろ、潰すぞ。
「さて、じゃあ。宜しく頼む、長老」
「うむ、超大賢者様殿による、青空言霊講習会"初めようかの」
突っ込まないからな。
「ああ、そうだな。それじゃ早く頼む」
「そうじゃの、なるべく早く言霊を習得するためにも"前略……青空言霊講習会"を行わなければな」
……突っ込まんぞ……!
「それじゃあ"超大賢者……"」
「長い! 何度も連呼するんじゃねぇ! たとえ爆笑のタイトルだったとしても、これだけ連呼されても、しつこいわ! 全く面白くも無いボケだったら尚更!」
「ボケ?何を言っておるのじゃ?お主」
「ああっ!?」
「そんな声をされても、儂はビビらんぞ? 一体何がボケなのじゃ? 儂は、こんなにもすばらしいネーミングに尊敬すべきではないのか?」
本気でこんなタイトルを付けていた。この事実に俺は驚愕を禁じ得ない。驚きすぎて禁じ得ないなんて、普段言わないような言葉を使ってしまった、……俺、この爺に教わって本当に良いのか…?
「ああ、儂のすばらしいネーミングセンスに思わず興奮してしまったのだじゃろ。分かる、実にお主の気持ちは分かるぞ」
「………」
「じょ、冗談じゃよ、冗談!」
嘘つけ。あの時の顔は本気で「何言ってんの?」っていう顔だった。これが、ジュネレーションギャップって奴なのだろう、間違いなく違うが。
「それで? どの言霊から教えてくれるんだ、長老」
早く話を進めたいからな、ここで変に突っ込んだりはしない。
「うむ、まずは"吸身"からじゃ。もう知ってる、と言いたいじゃろうが……お前はこの言霊が何をしているのか、本当の所を分かって居らん」
「まぁ吸身から入るのは良いんだが…その前に言霊ってなんなんだ?秘術って親父達からは聞かされたぞ」
「む、今はそう教えておるのか……まぁ良い。秘術とは即ち秘奥の魔術の事じゃろ? だったら、儂らは使えんとされておるのに、この言葉を使うのはおかしいじゃろ? だからこっちでは便宜上、言霊と言っておるのじゃよ」
まぁ言われてみたら確かに、魔臓が無い俺達が、秘術と言うのはおかしいか。しかし……
「だったらなんで秘術なんて教えるんだ?」
こちらの放った疑問に、僅かだが長老の答えが言い淀む。どういう事だ?
「……言霊と言う言葉を知らないからじゃろう、まぁこの言葉はあまり使われることもないからのう」
「うん?どんな意味なんだ?」
「まぁその事を話してもいいんじゃが……時間が勿体無いから吸身の話に移りたいのじゃが」
ちょっと誤魔化されたような気はするが、確かにそこは重要じゃないか。
「悪い、先に進めてくれ」
「では、一々中断されるのも面倒くさい、質問は最後にまとめてじゃ」
「了解だ」
すぅ――と、僅かに息を吸い込む。絶妙な間、空気が引き締まるのを感じる、その空気にこちらも真顔で、長老の声を待つ。
「"吸身"――お前がこの前、"吸身は相手の体と記憶を吸収する"などと言っていたが、残念ながらそれも間違いじゃ。あの時のしたり顔、今思えば滑稽じゃ」
「喧しいわ」
真剣な空気。それは変わってないのだが、お互いの発言はさして変わらない、俺と長老、お互い、こういう風に流そうと思えば流せる性格なのかもしれない。
「まぁその事は後にするとしてじゃ。実際の"吸身"が吸収するものは……"対象の全て"じゃ。"全て"これが何を意味するかと言うとの、肉体、記憶、意思、思想、概念、感情その他諸々、全てじゃ。まぁ儂は肉体以外のものは"魂"と一括りにしてあるがの、そして、肉体、これは"姿形の記憶"の事と定義しておる。まぁ"姿形の記憶"じゃ語呂が悪いから、そのまんま"形憶"とでも言うかの。この"形憶"は"変化"の言霊で重要となる。まぁそれは後で話すとして。まぁ纏めると"吸身は吸身者の可能性を広げる"とでも言わせてもらおうかの
可能性を広げる……となると、吸身者にはまだまだ可能性を持ってるって事か、それもそうか、まだ核片は二つも残ってるし。
「さて、何か質問は?」
「特には……無いな」
「そうか、では次――"変化"の言霊に話を移そう」
「宜しくたの――お願いします」
危ない、危ない。頼むと言う言い方は、どことなく高圧的、と考えてしまうのは俺だけだろうか。
「"変化"この言霊が何をするかは想像がつくの、"姿形を変える"それだけのシンプルな言霊じゃ。そして、この言霊が最も"形憶"が関わって来る言霊でもある。まぁ"姿形を変える"などと言った時点で気付いたと思うがの。この言霊は、"形憶"を吸収した生物にしか変われん。要するに、吸身した生物にしか変われんという事じゃ。じゃから、今お主はスライムと吸身した何人かの人間にしか変われんという事じゃな」
「……という事は、俺はこの先人間でいる間は、毎日鏡で自分の殺した顔を見ないといけないのか…」
想像できるとは思うが、正直、あまり気持ちのいいものではない。
「安心せい、そこは何とかなる」
「どうやって?」
「吸身で得た"形憶"を混ぜ、新たな"形憶"を創ればいいのじゃよ」
「そんなことが出来るのか!?」
それは朗報だ! どんな種族でも個体差はあるし、欠点もある。だが、同じ種族同士どころか、他の種族との組み合わせが可能ならば――成程、"可能性が増える"言いえて妙だ。
「儂の今の身体もそうやって出来ておる。方法を説明するのはちと難しいの……実際にやってみた方が早いかの。ほれ、やってみい」
出来るか。そう喉まで出かけるが、ここで言ってもどうせ取り合ってくれないだろう、だったら、少しでも感覚を聞いておこう。
「やっては見るけど、少しぐらいこう、コツとか教えてくれ」
「そうは言われてものう……うむむ、"変化"すると強くイメージする。そうとしか言えないかのぉ、まぁあとは感覚でどうにかなるわい」
「はぁ本当にアバウトだな……"変化"」
つい、口に出して一言、"変化"そう唱えてしまう、それが良かったのかどうかは分からない。
だが、間違いなく言霊は発動していた。目を閉じていたはずなのに、目の前に自分と吸身した人間の姿が映る。例えるなら、超精巧な肖像画をまとめて並べられた場所にいるような感じだ。成程、これが形憶……とりあえず混ぜてみるか。全ての形憶を混ぜ、なるべく自分の理想に近い状態に持っていく。手先があまり器用でない俺でも不思議と想像通りに出来た。
黙々と、と言っても頭の中でやってるのだから当然だが、形憶を混ぜ合わせ、創り変えていく。……よし、こんなもので良いだろう。
静かにこれが自分だと念じ始める。まずは、自分の元の姿を思い出す……それを段々と変えていき、先ほど創った形憶に塗り替えていく。
核が僅かに熱を放つのを感じたと思った瞬間、体が脆弱で曖昧、だが慣れ親しんだスライムのそれになって行くのを感じる、だが、これまた一瞬で固形に戻って行くのを感じる。
「……終わったのか?」
「確かに変化しているがのう……初めてにしてはちと早いのう。まぁよい、ほれ目を開いて自分の姿を確認せい」
長老に言われたとおり、目を開く。若干目線が下がってるな。よし、身長は問題なしだ。
「長老、鏡は?」
「ほれ、ここじゃ。にしても時間が掛かった割には…お主その顔で本当に良かったのか?」
「ああ、問題ない。想像通りだ」
黒髪黒目、若干のたれ目に一重、顎には無精ひげが生え、髪はぼさぼさでまとまりが無い。歳は三十までは行って無くとも、二十代後半は確実と言ったようなさえない感じの顔、まさしく想像通りだ。
「お主も変な奴じゃのう、なんでそんな顔にしたんじゃ。ここは人間で言う所の美男子と言う奴にするのが一般的じゃのに」
「いや、この顔でも結構頑張ったんだぞ?」
「お主がそれで良いなら良いのじゃが。しかし、背格好も余り強そうではないし……というかお主十七歳と言っておったのに、そんな老け顔でよいのか?」
確かに、俺の背格好は身長は大体170セインと言った所で、筋肉もあまりついておらず、顔と言うか全体的に年齢より老けてる雰囲気を醸し出してる。だが……
「いかにも強そうって格好してると、危ない仕事が来そうだからな。それより、着実に依頼をこなしていった方が良いだろ。老けてるは……俺が吸身した奴らはみんな年を食ってたからな、まぁしょうがないさ」
「……十七でその顔か……頑張るのじゃぞお主」
「まぁ俺はあんまり気にしないからな、頑張るほどでも無いよ」
いや、良く考えたそうでもないか。十歳以上見た目が違うから、性格も今より落ち着いた性格にしないといけないな。
「では、次は"圧縮"じゃな」
「お願いします」
「"圧縮"この言霊は……実際体験した方が早いのう。そうじゃな、変化のテストの為にも……よし、お主、立つのじゃ」
「あ、ああ。了解」
「よし、では50メッセ程離れるのじゃ……よし、そこじゃ、ではそこを動くでないぞ…"圧縮"」
"圧縮"その長老の一言が、此方の耳に届く時にはもうすでに、長老は俺の懐に入っていた。
「って、なにす「"破城撃"」ごべぇぇぇ!?」
ドギュッ――と、鈍い音と共に、腹部を襲う爽快感。唖然としつつ、顔を下に向けてみる、するとそこには――
長老の腕が突き刺さっていた。
「痛っっっ!……たくない?」
見間違いかと思い、もう一度腹を見てみるが、やはり俺の腹には長老の腕が突き刺さっている、見ててあまり気持ちがいいものではない。
「はぁ~やはりお主そこまでは考えておらなんだか」
「へっ?」
な、何がだ? 考えるのも何も、腕が腹に突き刺さったいた、それだけの事実が今、ここに在るだけでは? そこに議論の余地など、俺には無いように感じるのですが?
「痛くないのも問題じゃが、もう一つ、直ぐにわかる、おかしなことがあるじゃろ」
「……あれ? 血が出てない?」
慌てて、首を捻じってみる、長老の手にも一切、血がついて無い。
「……お主、もしかして人間の身体について思い出そうとしてないのか?」
「ああ、そういえばしてないな」
長老の顔が僅かに引き攣り、息を深く吸い始める。
「こんっっの馬鹿者がぁぁ!!」
「ぬぉ!?」
至近距離で浴びせられる、超大声の長老ボイス。それに呼応して俺の声も必然と大きくなる。
「うるせぇ! こっちは腹打ち抜かれるくらい近いんだ! そんな大声出さなくても聞こえるわ!」
「お主、そんな事でよく「ぼきゅ、ホームシックで家に帰りたいので、人界に下りまーす」なーんて言えたもんじゃな!」
顔を不細工にゆがめつつ、妙に甲高い気持ち悪い声。人の感動のセリフをここまで改悪するか、この爺ぃ、よっぽど逝かせてもらいたいらしいな……!
「だれがそんな気持ち悪い言い方したんだよ!」
「お主じゃ!」
「一言たりともそんな風に入ってないわ! 俺的名シーンを台無しにするな!」
「俺的名シーンって、ぷぷっお主言ってて恥ずかしくないか?」
くっ、この爺……!言わせておけば! だけど……確かに、俺的名シーンは恥ずかしいな
「うるせぇ爺! 老い先短いから言わなかったがよ、あんたのセンス酷過ぎるんだよ!」
「お主言うてくれたのう……! ふ、ふふん、まぁ許してやろうかの、要するにお主のセンスが古すぎて、儂の最先端のセンスが分からんと……怒りを超えて同情に値するわい」
「最先端? ものは言い様と言う言葉を実例込みで教えてくれてありがとうございますよ、超大賢者様殿!」
「やれやれ、自分のセンスが古いと言う事実が、そんなにショックだからと言って……そうやってがなり立てるはどうかと思うぞ、儂は」
「……了解了解、最先端であることは認めよう、だが最先端すぎてもう落っこちてるんだよ! 滑るを超えて落ちるって、さすが超大賢者様殿! 俺達凡人とは核が違うぜ」
「言わせておけば……良いのか? もう言霊の事を教えんぞ?」
その一言で場が凍り付く。この時の長老の顔、それはまさに勝者、食物連鎖の頂点にいる余裕、圧倒的優位からくる余裕の顔。
そう、俺はこの爺ぐらいにしか頼れる奴がいない。ここでこの爺に屈せねば、独力で言霊を習得しなければならない。それはつまり、故郷に帰る為にかかる時間は激増、可能性は激減すると言っても過言じゃないだろう。
だが、このような場において、そのような一言で勝利するなど、余りに無粋! 許されざることではない! 俺は決意した。かの邪智暴虐の爺を除かなければならぬ、と。
「ああ、いいさ! もう爺なんぞに貰わんでも!」
「えっ? い、良いのか? 本気じゃぞ、儂。本気で教えんからな!?」
「ええ、結構です! 超大賢者様殿に言わせればぁ? 私のセンスは古いんでしょう? そうだ……そんな古―いセンスの私なんかに、超大賢者様殿の教えを授けていただくと言うのが、そもそもの間違い! 何を私は思いあがっていたのか! ああ、何という厚顔無恥! 申し訳なかった! こんなセンスが古ーい私なぞの為に、貴重な時間を割いていただくなど、超大賢者様殿、その高尚な教えをどうか他の者にお教えください……では、私はこれで」
「すまん! 儂が悪かったー!!」
「頭をお上げください、私などに頭を下げるなどしては、超大賢者様殿の威光が落ちてしまいます」
「いや、儂が全面的に悪かった! だから許してくれい! ってもういいかのう」
「そうだな、俺も飽きたし」
「長い子小芝居じゃのー儂たち」
「そうだなー腕が刺さるような距離でやってるようには思えないよなー」
ずぶずぶと腕を抜きながら、長老に返す。うむ、腕が抜けると腹がスースーして気持ち悪い
「でっなんでこんな身体になってんだ?」
血は出ないわ、痛覚は無いわ。一回も人界に下りた事のない(当然だが)、俺にでもこんな人間は居ないことぐらいは分かる。
「理由は簡単、変化の時にイメージできていなかったからじゃ」
「おいおい! そこまで細かくイメージしないとだめなのか!?」
血管、神経、臓器、脳……考えただけで目が回る。と言うか、俺は筋肉も想像してないはず、という事は、今中身はスライムで出来てるのか?
「当たり前じゃ! と言っても一つ一つの形まではイメージする必要はないがの、曖昧でもそういう器官のイメージができておけばいいのじゃ。血なら血管を、痛みなら痛覚神経と言うようにな。わかったら腹を治すついでに、そこまでイメージして変化せい」
「その程度で良いなら何とかなりそうだけどよ。それじゃあ…"変化"」
腹を抜けていた風の感覚が無くなっていくのを感じる、体の隅々まで管が通り、糸が通る……様な気がする。これが血管や神経なのだろう。変化が終わったのを確信して、俺はゆっくりと瞼を開ける。途端
「ほれ、耳を引っ張るぞ」
「ちょっ、待っ!痛ててて!!」
「よし、痛覚は合格じゃな、では血はどうかのう」
そう言うと、長老は何処からか取り出した小ぶりのナイフで俺の腕を浅く切る。さっきから行動早すぎるんだけど、こちらの事も考えて欲しい。
「っ痛!」
「うむこちらも合格じゃな」
傷口にはうっすらと血が溢れてきていた。成程、結構曖昧なイメージだったけど、あれぐらいで問題ないんだな。
「さて、お主。何をされたか気付いたことはあるかの?」
何をされたか……拳で腹をぶち抜かれた時の事を言ってるんだろうけど、あれは殴られたと言うより……
「弓や弩のようなもので"撃ち抜かれた"感じだったな」
「まぁイメージは大体あっておるの。ほれ、これを見てみい……"圧縮"」
「うん? あれ、若干だが腕短くなってる?」
「うむ、その通りじゃ。今、儂の腕の中は人間の身体ではなく、スライムになっておる。そのスライム部分を"圧縮"……お前の表現した通り、弩の弦を張ったような状態じゃ。なれば後はやる事は簡単、弩の引き金を引くように、圧縮を解放すれば……」
此方に語りかけながら、長老は付近の岩に近付いていく。腕を伸ばし、拳を岩に当てる、足は直立。到底、今から岩を砕くようには思えない……いやまぁ憶測でモノ言ってるんだけどさ、どう考えても、空手割の要領で何かする気だよな、あれ。
俺がダラダラそんな事を考えていると。いつの間にか岩を粉砕するような音しながら岩が砕けた、うん、岩が砕けてるんだから当たり前だな。比喩的表現な高度な技法、俺にはまだ早かったみたいだ。
「岩をも撃ち砕く一撃となる。それ……」
「御免、正直見てなかった」
「それまさに、破城の域に達す。故にこの技を私はこう呼んでいる、"破城撃"と」
こちらの言葉にもめげず、言葉をつづける長老。若干こちらを見る目つきが鋭い、ごめん、そんな恰好つけた事言うとは思わなかったんだよ。お詫びに、こっちも茶化さない様にするから許してくれ。
「成程ねぇ……あんな拳当てられたら、俺の腹なんて余裕で風穴空くわな。圧縮がこんなことが出来るって言う事は……長老、あんた自分の脚を圧縮して、地面に向けて発射、その反動で一瞬で近付いたきただろう」
「その通り。便利じゃろう?」
「まぁ確かに。だけど、距離調節は難しそうだな」
「それは慣れじゃな。まぁ今後嫌と言うほど使うことになるわい。ちなみにこの技は、"重蹄脚"と呼んでおる」
「破城に、重蹄……あんたも好きだな~そういうの」
「いやいや、技に箔をつけるためじゃぞ」
「いや、俺も好きだから気にすんなよ」
「じゃから儂は別に…」
「はいはい、分った分った」
「ぬう……まぁよい。では今日はこれらを一通り練習じゃ」
◇◆◇◆◇◆◇次の日◇◆◇◆◇◆◇
次の日の朝、俺は何時もより遅く起き、寝覚めも最悪だった。
昨日は散々しごかれたからな……だが、今日も訓練はある、このまま二度寝すると言う甘い誘惑が俺を襲う。そんな誘惑を振り払いつつ起きようとした。起きようとはした。
起きようとした、なんて言ってる時点で気づいたとは思うが、俺は起き上がることが出来なかった。いや、激痛とかは走らなかったのだが、なぜか体が全く動かなかったのだ。
「またかよ…もういい加減このパターンにはマンネリだよ…」
「何を独り言を言っておる」
「のわ!? 長老!」
このパターンももう飽きた。
「耳元で大声を出すでない!全く…にしてもお主、今起き上がろうとしても体が動かんじゃろう?」
「へ? ああ、よく分ったな長老」
「そりゃあそうじゃ、儂も初めて言霊を何回も使った時はそうなった」
「その言い方からするとこれって言霊を使った結果なのか?」
「うむ。お主、気付いておらぬと思うが今のお主の顔色殆ど死人じゃからな」
「え? ちょ、ちょっと鏡をって……うわ! こりゃ酷い……長老、言霊を使ったらなんでこうなるんだ?」
「いや、儂もよく分らんのじゃが、魔術には魔力がいる様に、言霊には何と言えば良いんじゃろうの……こう……"生命力"見たいなものがいるようなのじゃ」
「生命力?」
「うむ、なんかこう…命を消費する感じじゃな」
「いやいや、そんな軽く言わないでくれよ! 俺、大丈夫なのかよ!」
「慌てなくとも大丈夫じゃ、生命力は魔力と一緒で回復もするからの、じゃが使いすぎると死ぬかもしれんがの」
「なんで、昨日のうちに言っておかなかったんだよ!」
「………忘れておった」
よし、この爺の命日は決まった。
セイン及びメッセはそれぞれこの世界でのcm、mのことです。