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人魔のはみ出し者  作者: 生意気ナポレオン
第二章:まっありきたりな大会編
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第三十八話:剣姫、怒涛

お待たせして申し訳ない<(_ _)>

「姉さん……なのかい?」

「おいおい、実の姉の顔を忘れたのか? まぁいい、どうだ、この"剣姫の羽衣"は?」

 姉さん――いや、紅き剣姫の目を逸らしたくなる程の威圧感、だと言うのに目を放せない優美さ、矛盾に満ちた思いを言葉で表現するなど土台無理な話だった。

「凄いと思うさ、それが本物だとしたら」

 反射的に口から出た言葉は、思ってる事と正反対の言葉だった、混乱する頭を必死に落ち着かせ、理屈を作りだし、目の前の事実を否定する。体が認める事を頭は認めようとしなかった。

「本物ではないと?」

「そうさ。恐らく、"変化士"とか言う男がその魔術をそう見える様に、変化させているんじゃないのか? となれば、実際には"子雷の巨剣"と同じように、実際は創造魔術を使って無い、只の炎なんだろう? そうじゃないと、説明が付かない」

「相変わらず頭が固いな、ヴェルデン。悪いとは言わないが……」

 剣姫が肩を竦め、首を振りかぶる。その態度には、出来の悪い近衛兵にでも対するような、高圧的で侮辱的なものを感じる。その余りな態度に、何か言い返そうと口を開こうとした瞬間――

「自分の感覚を……」

 紅き剣姫は目の前に現れた。またも頭はその現実を理解できず拒絶する。現実にかつて剣姫が居た場所には炎の残滓が陽炎の様に揺らめくだけだというのに、視覚、聴覚、嗅覚、触覚、五感のほとんどが剣姫が立っている場所を訴えているというのに。

「信じたらどうだ?」

 何処からか現れた灼熱の刀身が緩やかに迫ってくる、この期に及んで頭は現実から目を背け続けた、その態度に業を煮やした体が勝手に動きだす。

 熱せられた鍋蓋に触れた時の様に、飛び跳ねた油が当たった時の様に、体は即座に反応し、着地のバランスすらも考えぬまま、後ろへ飛び退く。斬撃は寸での所で空を切り、不運な雨粒を幾つか蒸発させるだけにとどまる。

「よく避けたな、だが……」

「くぅぅ!」

 掠りもしなかった筈の斬撃、その認識に反し痛みが全身を奔る。自分の体を視認し、何が起こったのかを理解する、右腕から左腕に掛け、僕の身体は剣から出た熱に焼き斬られ、すぐさま焼き防がれていた。

[鉄血の終端、死臭の放つ汚水、穿て"水弾(ブルーム・アトゥーラ)"!]

 僕が痛みに呻く中、常人ならば飛び退くであろう事態であるにもかかわらず、チューリは自分の持つ最速の魔術を剣姫へと撃ち込んだ、が。

「うそでしょ……?」

 四肢を狙って放たれた、数にして六発の"水弾"は、剣姫の身体どころかその衣にすら触れる事無く蒸発した。その圧倒的な力にさすがのチューリにも一瞬の自失が生まれる。

[我が手に一瞬の煌きを"火花手(デトナ・プラウゾ)"]

「ぐぅ!」

 その隙を剣姫が逃すはずも無く、右手から放たれた小規模の爆発によりチューリの身体が吹き飛ばされ、地面を転がる。

「やれやれ、迂闊だなチューリ。いくら水属性が得意だとはいえ、この衣に向かって"水弾"は無いだろう」

 剣姫は見下し、嘲り、せせら笑いながら言葉を叩き付けてくる。その表情にかつての姉さんの面影は無かった。

「イレーナ……思い上がるのも良い加減にしなさい……!」

「思い上がる? その体たらくで言われてもなぁ? 説得……」

「命ずる! "傾け"! "偏れ"!」

 醜く変わって行く姉さんを見てられず話を遮り、一部の重力を征服し、二つの命令によって重力の飛剣を放つ。

「話の途中は静かにしろ、ヴェルデン」

 再び目に映る陽炎、虚しく通り過ぎる飛剣、背後に熱を感じるが脱力感からか、今度は体も反応しようとしない。

「かぁ!」

 背中は骨が折れる不吉な音を鳴らし、後から追ってくる熱は肉を焼き、骨を溶かし、血を蒸発させる。視界が容易に暗転するも、体を打つ雨に無理やり覚醒させられる。咄嗟に体を起こそうとするが、引き攣った様な痛みに地面に組み伏せられる。

 雨に濡れ歪む視界の中、目を凝らしてみればふらふらとしながらも、地面に立つチューリの姿が近くに映る。

「イレー……」

「先に言っておくが……お前らがそんな姿になってるのも、私がこうなったのも全てはお前らの所為だ」

「何を……!」

「言い訳するなよ、チューリ。魔力が無いから、力が無いから、弱いから、国に連れ戻すんだろ? だったら、こうするしかないだろう? 力に酔って、油断して、増長して、それでも勝てば、お前達に文句は言えない、言わせはしない。さぁ立て、この炎、体の髄まで焼き付けてやる……!」

 言葉に呼応するように、羽衣が煌き、剣から火の粉が飛び散る。押し殺していた感情を解き放ったかのように見えるその光景に吞まれてしまう。

「ヴェルデン君、立てる?」

 チューリの声に引き戻され、手を借りながら立ち上がる。

「傷は少しだけど治しておいたから、時間稼ぎ、お願いできる?」

 言われてみれば背中からの痛みが少し和らいでいた。

「ああ、もちろん……!」

 吞まれていた自分を奮起し、ゆっくりと剣姫へと歩を進める。

「大気に命じる。"模れ(かたどれ)"、"分裂れろ(わかれろ)」

 二つの命令を持って、不可視の双剣を創成、両手に感じる感触は見えずとも剣のそれ。

 声は聞こえているのだろうが、剣姫は瞼を閉じ、微動だにしない。それもまた、力を見せつけるための余裕なのだろう。

 それならば、容赦はいらない!

 全速力で地面を駆ける、一歩また一歩と近づいていけども一向に身動きをしない。

 この距離なら……! 足に込める力が高まる、地面は先ほどの一歩よりも深く抉れる、高まる加速を全て双剣に乗せ叩き付ける!

「軽いな」

 音も無く、ただ双剣が防がれる、剣姫の手には何時の間にか柄が握られ、その先には当然刃が、しかし、その刃は半ばにして――衣の中に差されていた。

「剣姫の羽衣だぞ? 剣が無ければ詐欺だろう?」

 炎が揺らめき、押し迫る熱に体が否応なしに退けられる――反射だ。

「誰しも、自分の体を完全に御すことは出来ない、それが成人すらして無いお前なら尚更だ」

 二度目となるコマ落としのような急接近、そして、そこからの斬撃を反射により受け流す。反射によって退かされ、反射無しでは敵の斬撃すら受け流せない――体を御しきれていない。

「どうした? 御荷物な私を連れ戻してみせろ」

「くっあっつ……!」

 獲物の数は上回って居る筈なのに、少なくとも手数は上回らなければいけない筈なのに、只々攻め続けられる。

「なんとか言え」

 最早、守る事すらままならずあちこちに血の筋が浮かび始める、そうでなくとも熱に受け止める度、熱波によって肉が焼かれる。

「はぁはぁ……!」

「……ふん、つまらん」

 致命傷を避けるのに精いっぱいな此方を見限り、剣姫の眼が据わる、遊びは終わりだと言う様に。

「もういい、寝とけ"我流剣術:昇炎刃"」

 地面を浅く削る様に構えられた、剣と言う名の杯から零れる様に炎が吹き出す、咄嗟で交差に構えた双剣もあっさり弾かれ、全身が無防備になる。

「"ルートナイ流剣術:四肢舞"」

 右腕に熱を感じた瞬間、四肢に焼けつくような――焼け焦がされた痛みが奔る。

 四肢舞――魔創剣の無重量、火属性による瞬発力、双方を生かした高速四連斬撃、自分達には出来る筈の無かった、ルートナイ家伝統剣術。

 この目で見れたと言う充足感と、四肢から力が抜けていく脱力感、満たされる思いに反して、力が抜ける体。

 重力に引かれるまま、ぬかるんだ地面に体が崩れ落ちる。最後の力を振り絞って体を仰向けに、この勝負最後まで見届けない訳にはいかない、それに体が動かないからと言って、出来る事が無い訳じゃ無い。


[……場は狂気に満ち、常人は只の一人もおらず、只々血と怒声が行き交うのみ]

 詠唱の通りに、身が竦むような声が周囲に響き、チューリの手から赤い液体が滴り始める。

「"いがみ合う蒼"か……あくまでも、水の魔術で立ち向かう気か」

[故郷届く潮風に知らせは乗る、知らせに乗るは勝利の祝砲か、侵略の号砲か]

 何処からか潮の香りが漂い始め、徐々にその香りを濁らせていく、その臭いは……硝煙。

「なら、こちらも……」

[祈りは届かず、子は泣き続け、そこには空虚だけが残る]

 チューリが胸に手を翳すと僅かに蒼く発光する、周囲に響き始めた鳴き声と共に、ゆっくりと両手で小さな菱形を作るとそこには確かに小さな蒼い"海"があった。

[海は濁る、海は嘆く、海は叫ぶ]

[点は線に、線は印に、印は塔に] 

 詠唱の二重奏に場は段々と静けさを増していく、この歌声を前にして観客としては口を閉ざしていたい所だが、そうも行かない。

「大気に命じる……! "阻め"、"軟化せよ"、"飲み込め"」

 三つの命令を持って、巨大な大気の"(クッション)"を創り上げる、これは青の歌姫に向けた、観客からの差し入れだ。

["いがみ合う蒼"]

 詠唱を結ばれるとと同時、小さな海は殺意を表し、術者を顧みぬ砲撃を放つ。海は膨大な海水を放出し反動でチューリは僕が創り出した"壁"に押し付けられる、立ち塞がるあらゆる物を飲み込み、砕きながら剣姫へと押し迫る。

 荒々しく迫る海とは対照的に、一切の波風を立たせず剣姫は剣を突きの構えをとる。

["ルートナイ家流剣術:凱旋刀"]

 衣が掻き消え一つの炎へと変わり、剣に、腕に、巻き付いて行く、右腕全体が煌々と燃え、自らの存在を象徴するようなその輝きに直視すれば目が焼かれそうだった。

 輝きを見せつける様に、何かを示すように、右腕が真直ぐに突き出される。

 怒涛の勢いで迫っていた海に向けて、炎の尖塔が打ち立てられる。

 拮抗したのもつかぬ間、海は見る見る間に干上がって行き、尖塔は輝きを増し続け、その輝きは周囲を白で埋め尽くすほどだった。

 尖塔はチューリの手にあった海の根源を刺し貫き、一際大きな輝きと共に消滅する。

 輝きが失われ、周囲が闇に染まると同時、僕の意識はどこかへ沈んだ。


恐らく次で第二章が終わる……と思います



追記:ちょこちょこと表現や誤字を修正、指摘された通りに治すのも芸が無いと思ったので自分なりに修正しましたが……どうでしょう?


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