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人魔のはみ出し者  作者: 生意気ナポレオン
第二章:まっありきたりな大会編
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第二十八話:卑下の後笑み。それが意味するものは

今回、文の間を空けてみています。この章入ってからというものの,文がころころと変わっております。なんだかもう,大会と書いて迷走と読むんではないかと感じ始めました.

それともう一つ,前回最後に、sidechangeなどと書いておるにも拘らず、今回はシュヴェルトからです。

本当に申し訳ありませんm(__)m

 業火の槍で貫かれた手は、痛みを感じる間もなく、シュヴェルトの腕を燃やし尽くす。槍に刺された勢いのまま、地べたを転がるシュヴェルト。そこに耳障りな嘲笑が響く。


「ひひひぃ……如何だい?左腕は紋章で動かせず、右腕はたった今!使い物にならなくなったぁ!その気分はぁ!?」

 自分の台詞に酔っているのか、男は後半になるにつれ、語尾を上げて声を放つ。


(おいおい、笑われてるぞ"剛塵剣"様よぉ。全く持ってお前は無様だ!)

 声を上げて嘲笑う男に対し、シュヴェルトは静かに内心で自らを蔑すむ。

(もういいだろ?お前はその程度ものだったんだ。だからもう――見せてやれ)

 容赦を無くせ、心に残って僅かに残っていた慈悲を消せ。仇名すものを塵とせよ、塵を用いて塵とする。"剛塵剣"シュヴェルト此処に立つ。


「いひひぃ!まだやるのかぁ?」


「そう言わず付き合っておくれよ、この"剛塵剣"によ」

 

 傷だらけで不敵に笑う、その姿は先ほどの様な無表情な顔では無く、普段の口を吊り上げ、豪快に笑う笑顔。油断?いいや、違う。これは勝利を確信したものの笑み、それは勝利した者の笑み。


[大地を侵す風]「ひひぃ!老害がぁ粋がるなぁ!!」

[風を阻む大地][業火から生み出せし弓よぉ]

[相反する力よ][我に数多の敵を力を与えよ]

[我を塵から塵へと移ろう地へと誘え][炎の子らよ、その身我に捧げよ]

["塵風の境地"……!]["業火弓:炎群創火"!]


 両者が唱えた瞬間。周囲には砂塵が渦巻き、男の手には業火の弓が。一度瞬いた時には、弓には一本の火矢が現れ、砂塵が瞬く間にドーム状に拡がる。


 砂塵で視界を塞がれるのを嫌ったのか、男は先ほどの様な余裕を見せる事無く、即座に矢を放つ。

「死ねぇぃ!老害ぃ!!」

 放つは今までと同じ、一本の火矢。だが、今まではこの火矢が様々な変化を起こして、シュヴェルトへと襲い掛かった。この火矢もその例にもれず、火矢は火の粉をまき散らし、シュヴェルトへと襲い掛かる。火の粉から火矢が生まれ、その火矢から火の粉が生まれる。"無限の火矢"実際には魔力の限界があるとはいえ、そう思わせるのに十分な光景であった。瞬く間にネズミ算式に数を増やす火矢。その数は百を超えようかとしていた。


「いひひひぃぃぃぃ!!!」

 恐らく、これが男の最大の技だったのだろう。自分の攻撃で剛塵剣がやられるその姿を確信し、歪んだ笑みが今まで最大となる。だが――


 ボゴォ!!――その様な音と爆発により、その顔が固まる。男にはその爆発と音は自明であった。だがしかし、それは早すぎた、当たるはずであった"剛塵剣"の遥か手前。砂塵以外何もない空間での爆発。無論、火矢が砂塵によって爆発したという事などは無い、そんな小さなは爆発する前に燃やし尽くす。考える男の前で、その数を増えて来た時と同じ様に、見る見る間に減らしていく火矢。


「な、なにをしがぁ!?」

 思わず問いかけようとした男の側頭部に、衝撃が走る。大きめの石で殴られてかのような、重く、鈍い一撃。

「ごおぁ!」

 痛みにうめく暇も無く、再度衝撃。慌てて、周囲を確認しようとするも、その身はいつの間にか砂塵の渦中。目を開けるなど叶うはずもない。

「うげっ!ごえっ!いぎぃ!」

訳も分からず、衝撃がその身を襲い続ける。一撃一撃は重いと言えど、必殺とは言えない、しかし、それが連続、それも目を開けられぬ状況とあらば――その脅威は計り知れない。


 男が砂塵の渦の中で苦悶の声を上げている時。シュヴェルトは、ただ只管に二つの詠唱を繰り返し続けていた。この砂塵を止めぬ為に、男を砂塵で躍らせ続けるために。


[…吹きすさべ風、模れ大地…]


 男には分からぬであろう、衝撃の正体。それは塵にして、塵なかった。砂塵の外に居ても、男がただ砂塵で蠢いている様にしか見えない、その光景。しかし、男が衝撃に襲われるその瞬間、そこを捕えられれば、その正体は大したものでは無かった。

 それは"岩"であった、この"塵風の境地"において、吹きすさぶ風に塵は載り、対象に当たる瞬間に塵は集まり、岩となり、当たった瞬間に塵となる。それだけ、それだけの魔術である。だが、その単純さゆえに、見破れなければ、身動きもとれない。

 見ればもう、男の瞳から生気が消え、砂塵はもはや渦巻かず、上から下へと叩き付ける様に動く。男のありとあらゆる骨は折れ、砕かれ、塵となる。

 

 ――塵持って塵と成す。塵の境地がここにはあった。


[そろそろ、いいか……"塵風の槌"]

 塵が遥か上空へと、舞い上がり、無数の槌を模り、男に降り注ぎ、塵と化して辺りに散る。塵風の境地は、霞の如く消え、また呼び出される時をただ待つのみ。


「……これじゃあ、"剛塵剣"じゃあねぇな、まぁ"剛塵圏"って所か。わりぃな、剛塵剣はまた今度だ」


 そう動かぬ男に呟き。老兵は塵を払って、来た道を戻る。袋小路に残ったのは、原型を留めていない男のみ。



午前十一時五十分―side change→

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