第二十七話:戦闘の後追跡.敗北の色こゆし―
すいません.今回の話一度誤って削除してしまいました.
前書きに書き忘れたことがあって,訂正しようとしたんですが…諸事情によって,慣れない携帯で何とかしようとしたら…本当に申し訳ない
書き忘れた内容は"前回の話の最後が大幅に追加されているので,更新当日に見ていただいた方は,そちらをお先にご覧ください"という物でした.
◇◆◇◆◇◆◇side ルフト◇◆◇◆◇◆◇
現在時刻午前十一時二十二分。同時刻、老兵、無傷者達、戦闘開始。ルフト戦闘中。
[天からの…][折れて尚…]
「"樹縛"!」
ルフトの言葉と共に、石畳を撥ね退け、地中から樹が生え、二つの初花を摘み取ろうとする。
「なんだ?これは!」「何時の間にっ…!」
しかし、そこは国の代表、突然の攻撃、得体のしれない攻撃、予想外の場所からの攻撃。この三拍子がそろっていると言うのに、紙一重で躱す。
<なんだぁ!?あの樹は!石畳を押し退け樹が生えてきました!どの属性とも言えないこの魔術、もしかして秘術なのでしょうか!?>
(まぁそりゃ、あれだけ喋る時間あったら、地中に樹を仕込むのも簡単だわなっ!)
無論、この樹はルフトの体の一部を変化させたものである、ルフトの体という事はつまりルフトの意思で操作できるという事を表す。つまり…
「追尾までするのか!?」「それに精度も高い…!」
彼女らの言うとおり、追尾する…と言うより追尾しているのだ。自らの意思で操っているので当然、魔力や熱を探知して追尾するものとは精度が違う。
「はぁぁぁ!!」「はっ…はっ…」
追尾してきている樹に対しての彼女等の対処の仕方は、リザーレの方は持っている長剣で片っ端から斬り落とし、メディアの方はひたすらに逃げていた、これはメディアが近接が出来ない訳ではなく、持っている武器がレイピアだったからだ。
レイピアは女性でも比較的使いやすい武器だが、こあれは切る為の物じゃなくて、突くための物だからな。
「しつこいですね…!」
「ははっ、一度目を付けた女性は逃さないようにしてるんですよっ!」
メディアを追尾している樹を、追いつけるよう、より意識して操作する。余談だが、俺ははイレーナやカッツェ以外の女性に話しかけた事はほとんど無い。
「しつこい男は嫌われるって良く聞くだろう!?」
「うわっ!?何時の間に!?」
<おしい!?リザーレ選手!樹を振り切り、ルフト選手に一太刀を浴びせようとするも、紙一重で躱されてしまったー!!>
何時の間になどと言ったが、その理由は単純明快。メディアに気を掛け過ぎ、リザーレに注意を払わなかったのが原因だ。
先ほども言ったが、この樹は自動で追尾しているのではない、ルフトが視認し、そこへ樹を向ける事でやっと追尾と言う形を成すのだ。
[折れて尚…]
「これは不味い!」
「させると思うかっ?」
ルフトが避けている内に、距離をとったメディアが詠唱を始める。当然、止めようとするが、リザーレがそれを許すはずもない。
「させてくださいよ!」
対してルフトも右手に不動行光、左手には安物のダガー、価値がアンバランスな二刀流でリザーレを抜こうと剣戟を繰り出す。
しかし、リザーレは防御に徹し、こちらが横を抜ける隙を作らない。
<前衛と後衛に分かれましたか、これは二対一と言うメリットをちゃんと生かしてますね>
<前衛のリザーレ選手は詠唱の時間稼ぎ、後衛のメディア選手は魔術で攻撃という事ですね?>
<はい。光の魔術は特に真っ直ぐな攻撃がほとんどですから、仲間を巻き添えにすると言う危険性が低いですから。ラチュリアの戦闘員の基本戦術と言えます>
<成程。ありがとうございますヴァルターさん。さて、依然としてリザーレ選手とルフト選手の攻防は続いています>
先ほどから飽きもせず鳴り続ける、金属音。音の感覚は小さく、威力よりも手数を重視しているのが分かる。
くそっ…梃子でも隙を作りそうにない。
「くぅ…!」
段々とルフトが押してきているものの、リザーレは時間稼ぎに尽力を果たしているのだ。ルフトが抜けるまでにどれほどの時間が掛かる事か、間違いなく詠唱などは終わっているのは間違いない。
(ちっ…ブーイングは来るだろうが…)
「なっ…!」
それを見てリザーレが息を呑む。リザーレの視線は、ルフトの袖口。本来なら肌色が見えるはずの手首は、黒塗りの小さな弩が取り付けられていた。
黒塗りでその身を隠し、気付かれぬ様に人を殺す。それは俗に暗器と呼ばれる物であった。
暗器から放たれた矢は、弦を弾く音を極小に抑え、静かに標的を狙う。普段なら迷わず、急所を狙ったであろう矢は、左肩に突き刺さる。
「痛っ!」
悪いとは思わない、これは実戦…ではないものの、それに近い物なのだから。
心中でそう言いながら、ルフトは痛みに怯んだリザーレの横を悠々とすり抜ける。
<何が起こったのでしょう!?リザーレ選手、顔が痛みに歪んでいます!>
<ルフト選手は、暗器所持の資格を持っていますから、恐らく何かしらの暗器を使ったのでしょう>
すり抜けた先には未だ詠唱を続けているメディアの姿、恐らくこちらが近づくまでに魔術を放とうと思っているのだろう。
此方にが近づくまで、なら彼女に分があっただろう。だがしかし…俺には遠距離用の御馴染技がある…!
「"殺人者の刺突剣"」
<なんでしょう!?ルフト選手の手から何かが放たれました!>
そこら弩と同じ速度で射出されるナイフ、狙いは脚だが、刺されば痛みで集中力など余裕で削げる。これで詠唱は中断、あとに残るはそれぞれ、腕、足に怪我をした言わばシュヴェルトさんと同じ重傷者。これで、決着だ…!
俺の腕から放たれたナイフは、メディアの肉を通り抜け、霞む骨を通過し、確固たる地面に突き刺さった。
「通り抜け…!?」
[…滅するは悪しき獣…!]
目の前で起きた光景に戸惑うルフトの右から届いたのは、前に居るはずの人物の声だった。
この声でルフトは自分の誤りを…いや…驕りを自覚する。ルフトは光の魔術を軽んじていた。光の魔術は光を集め放つだけ、直線の攻撃しか出来ない、威力は高くても、いくら早くても、直線状なら…そう考えていた。
(馬鹿が…光を収束させるという事がどういう事かを考えてみろ!光の収束とはつまり"屈折"の連続!そんな当たり前の知識を…!此方の手を貫通させるほどの、威力出せる程に屈折できる魔術なんだ!それならば光を屈折させ、自分の場所を誤認させるのなど造作もないという事になぜ気付かかった…!)
などと、自問してももう遅い。ルフトの視界の端でメディアの口がはっきりと詠唱を終える。
["裁きの信光:司祭の教"!]
メディアの周囲に浮かんでいる、いくつかの光球。それはよく見ると、中で乱反射している為にそう見えているのが分かる。小さいとはいえ、球を埋め尽くすほどの光の線、それが一つに集まった時の威力は計り知れない。そんな光球が、メディアの周囲に五個浮かんでいる。
詠唱の終わりと共に、光球は光線となり、一つ
勿論、全て急所は外してある。だが、あちこちが貫かれ、その体は罪を侵した罪人、神をないがしろにした者に対する裁きと言うにふさわしかった。
ぼろ屑の様な体が吹き飛び、地面を無様に転がる。
「はぁ…はぁ…大丈夫?リザーレ」
「っ…大丈夫だ。それにしても…さすがだな、メディア」
「貴女のお陰よ」
<終わりました…二対一の状況でも余裕の表情のルフト選手でしたが."ラチュリアの初花"コンビの二対一でも決して油断せず、単純な、しかし効果的な罠を仕掛けたのが勝敗を分けたのでしょう…>
午前十一時三十二分―side change→
◇◆◇◆◇◆◇side ディーガン◇◆◇◆◇◆◇
現在時刻午前十一時二十二分。同時刻、万変の者、老兵が戦闘開始。ディーガン相対中。
「ここらで良いだろぉ…それじゃぁ…やるかぁ…」
そう言って来た場所は、中央区十七番街の裏路地にある広場。ここもまたカルトフェルの集合場所として使われていた場所である。
(特徴的な訛りがある…となると恐らく、土地によって癖の強い訛りがある"アイゼル"出身か…)
そう思うと同時、ディーガンは昔シュヴェルトに教わった、アイゼルの戦闘員の特徴を思い出す、
(魔術は余り得意では無く。その代り武器の製造技術の向上が著しい。それに合わせて剣術や武術の進歩も著しい…か)
「こちらも準備は大丈夫だ」
(女の方は弩…男は…プロテクター以外には武器は見つからないな、となると拳)
「さて、ディーガンくんも大丈夫かな?、」
「…大丈夫です」
「それじゃあ…私が今からこの小石を投げるから、それが落ちたら…という事で良いだろうか」
「ええ…ってこうやって、形式ばって闘う必要はないんだけどね」
苦笑いしながら、アイゼル代表と思わしき女が言う。
「まぁそうなんだがな、っと…」
「ああ、名前言って無かったわね。私はスルタナ。それでこっちの大きいのがネサン.やっぱり、倒された相手の名前ぐらいは憶えておきたいものね?」
「そうだな、胸を借りるつもりで戦わせてもらうよ。大体代表に選ばれたの事態、ビギナーズラックなんだ」
「そうそう。僕も仕事してるのを見たことありますけど、とても代表に選ばれる様には見えませんでした」
「まぁ…私がこの大会に出れて良かったと思っているんだがな。選ばれたという事は、それだけでいい思い出になる」
会話を続けるうちに、スルタナの瞳は段々と明るさを失い。イレーナの"いい思い出になる"と言う言動を聞いた頃には、その瞳ははっきりと侮蔑の色が浮かんでいた。
(好都合。相手に見下されるのは腹が立つが、闘いにおいては好都合。侮ってる内に勝負を決める…とまでは行かなくても、幾らか手傷は負わせれるはず)
「ふーん。それじゃあ、無駄話も辞めて。始めましょうか」
「了解だ。それでは…」
イレーナが石を上に放り投げる。石は上空で反転し、重力にのっとて落ちてくる。
そして、石が落ちた瞬間、行動は二つに分かれた、間合いを開ける者と、間合いを詰める者だ。前者はディーガンと"スルタナ"、後者はイレーナと"ネサン"である。
「男の癖に情けないわねぇ!」
"スルタナ"は弩を放ちながらディーガンを挑発する。対してディーガンは、弩を避け、静かに、そして深く息を吸う。
「すぅぅ…」
「やらせないわよ!」
ディーガンの動きを怪しんだのか、スルタナは装填してあったもう一つの弩を使い、ディーガンに向けて放つ。当然、ディーガンにあたる前に、金属音が響き、矢が弾かれる。
「ちっ…異能者なのね…」
(舌打ちしたいのはこっちだ…やっぱり、先取戦声は厳しいか)
厳しい…と言うのは、先取戦声の発動条件に"どちらも攻撃が当たってない状態でしか発動できない"と言う制約があるからである。
「ぐぅぅ…!」
「女だからってぇ…容赦はしないぃ…!」
一方イレーナは、ネサンの殴打を防いで入る物の、生来の体格差という物がある、イレーナが華奢と言う訳ではないが、それでも女性である。対して""は男の中でもかなり体格に恵まれてる方であると言える、たとえ防いだとしても、それなりのダメージは喰らうのだ。
ディーガンも加勢にはいきたいものの、""がそれを許さない。
「…本当に実力は無いみたいね…だけど、異能者の力は厄介…ネサン一気に行くわよ!」
「分ったぁ…」
「何をするかは分からないが…!」
「少し、黙っとけぇ…」
「ぐぅ!?」
大振りの、だが、風切音が鳴るほどの右フックがイレーナを襲う、紙一重で防ぐものの防いだ衝撃は剣を伝わり腕が痺る。。
そのがら空きになった、左半身にネサンの左手刀が真っ直ぐに叩き込まれる。
「がぁっ…」
「お仲間の所で仲良くしてなぁ…」
「ぐぅっ!」
「イレーナさん!」
「私はいい…それよりも…!」
["纏うは蛇の牙][魔の力よ薪となれ]
「詠唱!?」
(魔術は不得手じゃないのかよ!何にしろ阻止だ!ってどうやって!?)
ディーガンからスルタナ・ネサンまでの距離は、近いネサンでも六メッセ程。飛び道具を持っていないディーガンでは、阻止は厳しい。
[浸かるは不浄の血。"付術:紫水"][我が身よ力を生む炉となれ"心炉:第一焼"]
魔術により、スルタナの弩は紫の水が滴り、地面に落ちるしずくは地面に穴を穿つ。ネサンの手には火球が浮かぶ。
(弩への付術と…何だ?火球の詠唱はあんなのじゃなかったはず…)
「ネサン!選手交代よ!」
「了解ぃ…」
弩が効かないと見たスルタナが、狙いをイレーナと変え。ネサンをディーガンへと仕向ける。
(選手交代は此方もありがたい…が、あの火球が気にな…)
「ふぅぅ…!」
「なっ…!」
ディーガンが息を呑むのも無理はない、ネサンは持っている火球を呑みこんだのだから。
「ディーガン!気を付けろ!魔体士は…」
「喋ってる暇は無いんじゃないの!」
「くっ邪魔だ!」
(火を呑みこんでどうするんだ!?)
「ぼぉうっとするなぁ…」
「なっにぃ!?」
いつの間にか迫っているネサン、目の前に迫っている拳。当然避けれるはずも無く、拳はディーガンにぶつかる…前に壁の様なもので遮られる。
「なんだぁ…こりゃ…」
「拳でもダメなの!?」
「ディーガン!距離を取れ」
(分ってますよ!)
剣を鞘から抜きつつ、僅かに後退し、剣を振るのに最適な距離を作り出す。
「それでぇ…距離をとったつもりかぁ…?」
(速いっ!)
「その、刃物は邪魔だなぁ…」
「えっ…?」
その声が届く時には剣は弾かれ、地面を転がり、それを確認したときには、ネサンの右フックが迫っている。ネサンの動きは常にディーガンを上回っていた。
(速いっ!だが、幸い奴は素手じゃない。なら、この攻撃に合わせて後ろに跳ぶ!)
「これじゃあぁ…拳じゃないかぁ…」
(なっ…!)
身構えるディーガンの目の前で、プロテクターがあっさりと外され、放り投げられる。
(ヤバい、これじゃあ…!)
その動作を見て、後退しようとするが、タイミングがずらされ、体勢が崩れる。
「"マーシャル流ぅ:水電雁関"」
胸部中心"水月"への右手刀での突き、右わき腹"電光"と呼ばれる部位への左拳打、心臓周辺"雁下"への右掌底、掌底を放った右手で服を掴み、拳打を放った左手で腕を引く、ディーガンの体はネサンへと引き寄せられ、左膝が下腹部中心"関元"へ突き刺さる。流れる様な連続攻撃、ディーガンは一つ一つの痛みをゆうっくりと味わう暇も無く、四つの部位が同時に痛みに支配される。
「がぁ!?」
「まだまだぁ…」
崩れ落ちそうになるディーガンの前、ネサンは右脚を軸に回転し、ディーガンの頭を蹴り飛ばす。
「おがっ!」
「ディーガン!」
「殺してないでしょうね!ネサン!」
「おっ…とぉ…それぉ忘れてたぁ…」
「ちょっと!」
「っ!…[炎から生み出されし、小さき者よ!]」
ディーガンの安否を確認したい気持ちを抑え、イレーナが詠唱を始める。
「やばっ!」
慌てて矢を放とうとするが、紫水の弩には矢は装填されていない。
「ネサン!」
「分ってるぅ…!」
[我が手に集いて剣となれ"火片の剣"]
イレーナの右手に、自信の背丈を超える炎の魔創剣が出現する。が…
「当たらなければぁ…意味はねぇ…!」
ネサンは出現した魔創剣の屈んで下を潜り抜け、イレーナの膝を叩き割り
「ううっ!」
崩れた体に、上へ立ち上がる勢いを利用して、当身でイレーナを吹き飛ばす。
「あぐぅ!がっ!」
イレーナは僅かな距離の当身としては、異常なほど飛び、ディーガンの反対方向の壁へと叩き付けられる。
イレーナが、そうやって戦っている時。蹴り飛ばされたディーガンは意識を取り戻していた。
(痛ってぇ…くそっ…なにしてんだよ"拳通士"!能力が通じなければ、直ぐこれか!?能力にカマ掛けて、自分を鍛えてねぇ証拠だ!一年前を何も行かせてねぇ!)
自問自答。いや、自問自責と言った方が正しいだろう。いくら内心で毒づき、後悔しても、現実は変わらない。
剣は弾かれ、体は思うように動かず、気を抜けば意識すら飛びそうになる。
「ううっ…ぐぅぅ…」
痛みをこらえディーガンは体を動かそうとする。しかし、足は折れているのか全く動かず、僅かに動くのは両腕のみ。
(一矢…いや、一つの投石でもいい。とにかく僅かでも手傷を負わせれないか…!)
動く両腕で見苦しく地面を這いずり回し、石を探す。
(ん?なんだ?これは?)
触れたものの正体を確かめる為、ディーガンはうっすらと瞼を開け、右手の先を確認する。ディーガンの手の先にあったのは―
午前十一時三十六分―side change→
◇◆◇◆◇◆◇side シュヴェルト◇◆◇◆◇◆◇
現在時刻午前十一時二十二分。同時刻、万変の者、無傷者達、戦闘開始。シュヴェルト追跡中。
自身に向けて放たれた火矢を見つつ、老兵は事態を冷静に分析する。
狩人…男が何処を狙っていたのか、火矢の威力、回避の是非、着弾までの時間。
(狙っているのは恐らく腹部、当たったら戦闘不能は間違いない。あの速度だと、こちらが着地する前に着弾する事が確実。結果的に回避も不可能、魔術で凌ぐにも詠唱する間は無し。向かってくる矢は追火…追尾式、だったら弾くの不味い…なら")
状況を把握することで、こちらの手を潰していき、結果的に残った行動をとる。いわゆる消去法で、シュヴェルトは自身の行動を決定する。すなわち―
「ぐぅぅぅぅぅぅ!!!」
肉が焼け、異臭を放ち、掌は絶えず痛みを訴える。シュヴェルトの取った行動は、火で創られた矢を"掴む"事だった。
「ちっ」
獲物を仕留めれなかった男は、舌打ちを漏らし、屋上から飛び降り、逃走を図る。
(逃がす訳ないだろ…!)
その場で、右手を治療したいのを堪え、シュヴェルトは狩人に続いて飛び降りる。
当然、重力に轢かれるまま地面へ落下していく。風が前から後ろに流れ、見る見る間に近づいてくる地面に体は竦む。本能的な恐怖を抑え込み、耳元で鳴る風切り音に負けぬよう、声を張り上げる。
[風の子よ。堕ちし天の子らを救いたまえ"風の揺り籠"!]
"上翔"の時の様な舞い上がる様な風では無く、まるで赤子を抱くかのような、優しく穏やかな風に包まれ、地面に着地する。
「っと!」
着地した途端に火矢で狙われるが、予想していたのだろ、あっさりと躱し、逆に射線から狩人の位置を見出そうとする―
(ちぃ…逃げ足が速い!)
もすでに通路の奥へと逃げだし、角を曲がるところであった。
(確かあの先は分かれ道は多いものの、何処に行っても袋小路…さて、どうするか…)
頭の中で地図を開きつつそう考える。
(まぁ考えるまでも無く、右手は治しておかないとな)
[傷つきし戦士に再起の水を"活水"]
(問題は、相手が追い詰められた時に飛んで逃げるか、挑んでくるかっていう事だ…今までの行動から考えると、逃げる方が確率は高いだろうが…なんにせよ、これ以上傷はあまり良くないな)
[厳かなる大地よ。我に守り、敵を阻め]
シュヴェルトは先ほどの様に出会いがしらに攻撃されても防げる様、防御用の詠唱を準備する。
(これで、相手が逃げた場合には、また距離を離されるだろうが…致し方なし…か)
角を曲がるたび僅かに見える、足を頼りに敵を追う。
(しかし、足音が見えない辺り、そういう事を専門にしてたのか?…そろそろか)
最後の曲がり角を曲がり、暗がりの路地の先を見ると、そこには弓を構え、こちらを待つ狩人…いや、この状況であれば獲物だろう。
[業火弓:追火式火箭]
(さっきと全く同じ…舐められたものだな!)
["土積瑠"]
シュヴェルトは、火の尾を描きつつ迫る火矢を、あっさりと土塊で受け止め。矢を放った獲物へと疾走を開始する。
―しかし、ここでシュヴェルトは気付くべきだった、先程と同じに見えるその矢だが、先程は火の尾など描いては無かったことを。火の尾は消えることなく矢に続き、弓へとつながっている事を。そして…いや。これは気付けと言う方が無茶なのかもしれない、だが、それでも気付くべきだった、"追火"この字には二つの意味が込められていることを―
(なんだ?あいつ…笑ってやがる…)
「ひひ…思った通りだぁ…同じ矢だと思って、のこのこ近づいてきやがった…」
男の声は予想以上に卑屈でこちらに媚びている様なものであった。しかし、その瞳はと声とは違い、愚者を嘲笑い、自分に酔いしれ、自分の勝利を疑わない物であった。
(どんな魔術をするのかしらんが…詠唱ならこちらの方が先!)
[風の民よ…]
「いひひひひぃぃ!"剛塵剣"の旦那ぁさようならぁ![追火]だ!」
「なにっ!?」
(今なんて言った!"追加"だと!?)
慌てて、すでに後方にある矢を見るシュヴェルト。そこで遂に気付く、弓から矢に続いてる一本の線を。業火で出来た弓から火矢に続いてる火線を。
(線…!?追加っていうのはそう言う事か!だが…矢はもう後方!問題は無い!)
矢に構わず、再び男に向かっての疾走を開始する。シュヴェルトは忘れていたのだ、"追火式"のもう一つの意味、すなわち"追尾"を。
男の持ってる魔創弓が、瞬く間に萎み火線を伝い、火矢へとその身を写す。
火矢はもはや矢と言うよりは槍、その中でもお伽噺でしか登場しないであろう、大巨漢だ使うような極大の槍となっていた。
土塊など、その槍にとっては壁に非ず、一瞬で土塊を砕き、身をよじりシュヴェルトへとその矛先を変える。
槍は自身でもある火を推進力としながら、シュヴェルトとの距離を一瞬で詰める。
シュヴェルトが、右手僅かな熱風を感じた時にはもう、槍がその手を貫ていた。
今後,更新が遅くなります.理由は,今日の夜活動報告にて,報告します.