第二十五話:実態の後情報,牢獄にて戦闘?
正直,タイトルを付けるのが難しくなってきました
◇◆◇◆◇◆◇side シュヴェルト◇◆◇◆◇◆◇
現在時刻午前九時二十八分。ルフト戦闘終了より二分前。シュヴェルト捜索中。
北西区二十一番街、中央通を真直ぐに駆けてゆく。当然、人の目に止まり、周
「まさか、剛塵剣が出てくるとは…」「まぁ…新人同士の大会じゃなかったの…?」「今回はほら、救出戦だから…」「ああ…だけど大人げない…」
ふん、俺とて出る気は無かったんだがな…
―十五年ほど前から、この大会は必ず三つの国のいずれかが優勝している。すなわち、ラチュリア、バーゲルド、ラディーア、この三国の内のいずれかが…だ。
それよりも前は、時にどこかの国が二連覇、三連覇を成し遂げ、勝負方法によっては全員敗退となったり、二つの国が同時優勝になったりと色んなことがあった…
しかし、十五年前からは三国が順番に優勝していった、どう考えてもおかしい。大会の内容にしても、一番最初に優勝候補と呼ばれた奴が、特に追い詰められること無く、普通に優勝する。
要するに面白みが無い。普段戦いと言う行為を見慣れていない、一般人はそれでも満足なのだろうが、ギルド員や傭兵、引退した老兵などちょっと目が肥えた人物からしたら、八百長と呼べれるほどだ。
明らかにおかしいのに、何がおかしいかはわからないのがもどかしく、毎年楽しみにしていたこの大会にも足が段々と遠ざかり、ここ五年ほどは全く見ていなかった。
だが、三か月ほど前に遂にその尻尾を掴む事が出来た、その時は関わることが出来ないからと諦めていたが…今年は都合よく、救出戦。ギルド員以外の者でも副将として参加することが出来る。
「今回しか…チャンスが無い…!」
◇◆◇◆◇◆◇三か月前◇◆◇◆◇◆◇
「よお、久しぶりだなぁ!シュヴェルト!」
「おお!六年ぶりだっけか?タント」
お互いに歩み寄り、固く握手をする。六年ぶりと言えど、長い間生死を共にした仲間だ、そこに変な遠慮や距離感は無い。
「どうしたんだ?急に?」
「いや、お前に知らせていことがあってさ」
「知らせたい事?」
「ああ、まぁちょっと飲みながら話そう」
「おお、了解だ」
「心残者?」
「ああ、それが名前だとさ」
お互いほどほどに酒が入り、口が回りだすと、タントはいきなりそう告げてきた。
「心に残る、それに者で心残者…その名の通り、まだ表に心残りがある者、表での栄誉を得たい者が流れ込む、非正規ギルドの中でも、中途半端と揶揄される奴らだ」
「そいつ等が…三国と繋がっているのか?」
後半をやや声を低くし、タントにそう確認する。
「ああ…三国とその非正規ギルドでの密約があったみたいだ。非正規ギルドでの依頼…そもそも非合法な依頼なんだがな、まぁとにかくそう言うのは記録に残さねぇからな、問題無く"新人"として国営のギルドに入れるってわけだ。ギルドの奴らは新人王を出したとして依頼や寄付の増加、心残者の奴らは心残りが無くなって、すっぱり裏街道へ、依頼料ももらえて資金も潤う…お互いに利点があるからな。残念ながら証拠なんて大層な物は無い、俺も正規の手段で入手した情報じゃないしな」
「だが、間違いないんだろ?」
「ああ、胸糞悪いがな。間違いないだろ…まっこんな事言っても、俺達にはどうにも出来ないんだけどな。悪いな、何もできないのにこんな話聞かせて、だがまぁ一人でこういうの溜めておくのも腹が立ってな」
「いや、教えてくれてありがとよ。最近俺が気に入った奴が参加するようだったら伝えるからよ」
「ん?お前…気に入った奴ねぇ…お前、引退する間近までずっと「最近の若い奴らは…」ってずっと言ってたろ?」
「そんな事言ってたかぁ?まぁいい…実は面白い奴がいてな…」
◇◆◇◆◇◆◇現実◇◆◇◆◇◆◇
「そろそろ身を隠すか…?」
大分走っていたからな、もうこの辺りに居る奴らが集まってきてもおかしくないはずだ…となると、顔がそこそこ割れてる俺がいると近付いて来ないか?
「っ痛!」
気付かぬうち左腕を動かしていたらしい、左腕に痛みが走り…って、この腕ならむしろ隠れない方がいいか?…良く自分自身の状態を確認するか。
まず、かつては"剛塵剣"などと言われているが、今は四十六の中年、おまけに引退したのは六年前で引退後は全くと言っていいほど戦闘の話は聞かない、そして極めつけは重症者の紋章。
重傷側に居る、これは、救出側と合流しなければこの紋章を解くことが出来ない事を意味する。見た所この紋章は"救世"の魔術じゃないと解除できそうに無い。
この紋章を、解除すること自体には、何ら問題は無からな…戦場で言えば重傷を"治療"したそれだけの話、治療できる者がいれば、なるべくその場で回復させ、戦力を増加するのは必然、問題がある方がおかしい。
まぁ…俺達の様に解除できる奴がいない組には全く関係ないのだが…そんな事を知ってるのは、当然俺達だけ、他の代表の新人共は、合流される前にやっておきたいと思うだろう…それは心残者も一緒。
ならば、こんな目立ち方じゃ足りない…こういう時にはどこか他の代表と戦うのが一番なんだが…
「おい、そこのおっさん。ちょっと顔貸せや」
「ふん…これは運がいい」
ガラの悪い口調、服装、態度。十中八九バーゲルドの奴らだな…こいつが心残者か?まぁそうじゃなくても、此奴をちょっと小突けば放送局の奴らが来るだろう、餌になるにはぴったりだ。
「ほら、サッサ来いやぁ!」
「どうした、餓鬼。俺はここで構わないんだが?」
「俺は餓鬼じゃねぇ!」
「分った、分った。で?なんでここで闘わないんだ?」
「ちっ…!ここでやると、下手したら「一般の方々に手を掛けた、よって失格」なんて言われかねねぇからな、お互いそれは嫌だろう?」
「…成程、筋は通ってる」
だがまぁ、今のはあらかじめ考えておいた方便だろう。問題は、これが見え見えの新人の罠なのか…それとも正体がばれたくない心残者の罠なのかだ。
「そう言う事だ…ほら、さっさと来いや」
「…良いだろう」
男と一定の距離を空け、後ろをついて行く。戦いを見たいのだろう、野次馬もぞろぞろと…までは行かないものの、そこそこ付いて来ている。
「ちっ…お前ら!見世物じゃねぇぞ!」
いらだった男が野次馬に向けた怒鳴り散らす、そこに放送局の印が描かれている、浮遊式の魔操車が向かってくる。
<さて、現在北西区二十二番街に到着いたしました。どうやら場所を変えているようですが…?>
<恐らく、民間人への被害が出るのを防ぐためでしょう。怪我をさせて場合は傷害罪で問答無用で逮捕されますから>
<しかし、移動しても生で見たいと言う方も多くいらっしゃいます。このようについて行かれるのでは、意味が無いのでは?>
<この場合は、今ついて行かれている方々は被害を受けると言う、覚悟をもっていかれているので、よっぽどの事が無い限りは、違反になる事はありません>
<成程、ありがとうございます。さぁ、気を取り直して、対決される選手をご紹介いたしましょう。現在、場所まで誘導しているのがバーゲルド代表ピアン選手、その後ろを行く選手がゲシャフト副将………えっ?あっ、いや、も、申し訳ない。とんだビッグネームを見かけたもので…"剛塵剣"シュヴェルト選手です>
実況のその紹介に、周囲の民家から最初は驚きの、次に確認の、最後に野次が飛ぶ。中には窓を開けて直接詰ってくる奴もいる位だ。
「ふん、随分嫌われてるみたいだな、おっさん」
「…ところで、餓鬼。お前は俺の事を知らないのか?」
「はぁ?知ってる訳ねぇだろ、お前みたいなおっさんの事なんか」
「ふん…口のきき方に気を付けろよ、餓鬼が」
「ああぁ!?やんのかぁ!?」
[だから、最初からどこでも構わないと言っているだろう]
「ちっ…すかしやがって!」
<おおっ!ピアン選手、ナイフを振り向き様に投げました!>
<これは、怯ませて間合いを取る気でしょう>
ちゃちな手口…これははずれか?
["弾き風"]
「うぉっ!?」
右手から一メッセ程の風弾を放ち、ナイフごとピアンを吹き飛ばす。ナイフは民家に地面に深々と刺さり、ピアンは口を引くつかせながら壁に叩き付けられる。…口が動いてる?
「ぐぅ…!」
[顕現は土、模るは弩、放て"弩具得"]
地面の石畳から弩が出現し、石で出来た矢を放つ,手加減など一切しない。
<シュヴェルト選手、新人のピアン選手にも容赦がありません!>
<いや、手加減をしなかったのは正解でしょう。ほら、見てください>
["土積瑠"]
止めとして放ったはずの矢が、同じく石畳から出てきた土塊に防がれる。
<おお!ピアン選手、防ぎました!しかし、詠唱も聞こえませんでしたし、余り隠唱を出来るような時間もありませんでしたが…もしや、これは…?>
<ええ。隠唱の派生形。黙唱でしょう>
「やれやれ、少しは手加減してくれると思ったんだけどな」
「ふん、"黙唱"…か。お前まだ覚えたてだろう、口が無意識に動いてる」
「あらら…さすが剛塵剣、洞察力が違うね」
[さて…お前が"心残者"だな?]
「心残者?なんだそれ?」
[恍けても無駄だ…]
「恍けるって…何のことかねぇ!?」
叫びつつピアンが右手風刃を飛ばして来る、しかし大きさは手のひらサイズ、まぁ黙唱ならあのサイズが妥当か。
<おや?サイズが小さいですがあれは?>
<先ほどシュヴェルトさ…選手が言ったように、黙唱を覚えたてなのもあるでしょうが、黙唱自体、精度の高い魔術を放つには長年の修業が必要になりますから>
<成程、だったらあれを詠唱して使えば…?>
<ええ、恐らく三メッセほどの大きさになるんではないでしょうか>
飛んでくる風刃を右に避け、駆け足でピアンに近付く。
[封ずるは雷、模るは球"飛雷球"]
[ふん…"土積溜"]
ピアンが左手から自身の体の大きさ程もある雷球を放って来るのを、土塊で受け止める。
[風よ決起せよ、奮い立て、反発しろ、触れるもの全てを拒絶しろ"弾き風"]
手のひらから出した風弾は土塊を砕き、その破片を周囲に弾きながらピアンへと真っ直ぐに飛んでいく。
「ちぃっ![天へと翔け上がる道よあれ"上翔"]」
<ピアン選手、魔術によって宙に舞いあがりました!>
<しかし、あの体勢から攻撃に移るのは厳しいと思いますよ>
[集え無形の物よ]
しめた…!詠唱の速さはこちらの方が上、あの魔術ならば…勝てる。
[風。それは形無き者なり][射手は大気]
<おや?これはピアン選手の体勢が変わって行きます>
自分の周囲の風の流れが強まって行くのを感じる。
[その身を束縛する咎人が此処にあり][矢は我が身]
<ピアン選手の体が風に包まれていきます、これは…矢の形でしょうか?>
風の動きがぎこちなくなり、歯軋りの様な不快な音を立てる。
[故に風は牢となり][導くは突風…"墜風"!]
<うわっ!ピアン選手の背後から突風が吹き、凄い勢いでシュヴェルト選手に向かっていきます>
風が地面を渦巻き始め、段々と半球を模って行く。
[その身を縛る鎖となる]
ピアンが風を纏ったのに対し、こちらの体は風の鎖が巻き付いてくる。
「何をやってんだぁ?おっさん!自分の体に鎖巻いてぇ!」
もうピアンが此方に追突するまで一秒も掛からないだろう、しかし、こちらの詠唱の方が先、なら問題ない。
["監禁者の牢獄"]
<こ、これは二人が風の壁の中にはいっ…みえ……>
唱えた瞬間に全身に衝撃が走る、元より防御するつもりはない。体が吹き飛び、魔術によって作り出された風牢の壁にぶつかり、中に弾き返され、無様に地面を転がる。
「だが…それに見合う価値はある」
「なっ…!なんで俺の身体に鎖がぁ!?」
「最近の餓鬼は知らないのか…まぁ使い勝手は悪いがな」
「…てめぇ余裕ぶっこきやがって!」
「余裕なんだ」
[くそが…!指輪はとらせねぇぞ"厳鉄"!]
右手の指輪に男が持っていたのであろう、鉄が纏わりつき、まさに鉄壁な守りとなる。正直これ位は余裕で壊せる…が。
「魔術をここで使うとは…馬鹿だな」
「へっ…こんな強固な鎖、てめぇの魔力だってすぐに無くなる。ほら…そろそろ辛く…なって…来たんじゃねぇのか…?」
そう言うピアンの顔には、玉のような汗が噴き出、今にも倒れてしまいそうだ。それはそうだ、あの術は風の魔術を使った人間から魔力を搾り取り、この牢を作る魔術なのだから。本来ならここで鎖に捕まってたのは俺だったが、ピアンが風の魔術を使い、こちらに突進してきたからこそ、今彼奴が捕まっている。
「くそ…なんだ…こりゃ…」
顔を苦痛にゆがめながら、段々と意識が表情から消えていく。
「…よし、そろそろ良いか」
意識の喪失と共に、指輪を守っていた鉄が剥がれる、露わになった指輪を砕くと同時に、魔力元を失った風牢が、鎖が、元の風へと戻って行く。
<おおっ!皆様お喜びください、我々の目を邪魔していた風牢が消えていきます!一体どうなっているのでしょうか!>
ふぅ…久しぶりの実戦だったが…何とか上手く行った。剛塵剣を使わずに済んだのは幸いだったな
<勝ったのは、シュヴェルト選手です!引退して尚、その強さを見せつけ…>
「ぐあつぅ!!」
久しぶりの実戦に勝利し、完全に油断した俺を衝撃と鋭い痛みが貫いた。
午前九時四十二分―side change→
一昨日の活動報告で,「明日人話を更新する予定」などとほざいておりましたが全然更新しておりません.本当に申し訳ない<(_ _)>
今日には必ず更新致します