第十九話:異形
今回,人によっては不快な表現を伴っているかもしれない事を注意しておきます
また,それに伴いこれ以降タグに念のため"残酷な描写あり"を付けさせていただきます事をご了承お願いいたしますm(__)m
首から先が無くなった体、首から迸る鮮血、光りを称えてない瞳…その全てに死というものを冷酷に告げられる。
二十年育ててくれた親ではない、一緒に切磋琢磨した学友でもない、同郷ですら無く、お互いについては未だにほとんど知らない存在。
そうたった三か月の間の…それもこちらが一方的に仕事の為に相棒にしたそれだけの存在。
ああ、そうだ。知った人間がいない街で放っておけばいいものの厄介ごとに手を出すお人よし。こいつなら裏切るような真似はすまい、そんな打算的な考えで相棒に存在。
だが、そんなあいつに私は縋ってここまでやって来た。この三か月、魔力切れで足手まといになったのも一度の二度の話では無かった、なのにあいつは…!
「あ…ああ…ああああああ!」
「「「ぎゃっはははは!」」」
部屋に響く嘲笑、心底愉快そうな黒服たちの顔…そんなものは気にならなかった、ルフトの死体…そう死体にしか目に映らなかった。
「お前が狸根入りしてたのは気付いてたんだよ!今まで何人攫ったと思ってやがる?そうやって俺達から逃げ出そうとした奴なんてざらにいるんだよ!ぎゃっはははは!」
此処でもなのか…?直接の死因はこいつ等…だけど裏を掻いたつもりになってルフトを殺したのは…
「さて、それじゃあ…失意のどん底にいるかわいそ~な子を慰めてあげますかねぇ~げへへへ」
これから起こる事は想像するまでも無い、だがここで自殺などはしない。いつか…どれほどの年月がたっても…
「う~ん?いいね~このしまった肉体…これじゃないと女は~」
殺す、殺してやる。手を千切ってでも、足がもげても、拘束を解き、此奴らを殺す。
「おお、怖ぇ目してやがる。いや~この目つきたまらねぇ…へへ、ぞくぞくしやがる。おっと、念のため猿轡持ってこい、自殺なんてするたまじゃねぇだろうが念には念を入れろ」
「俺達にもおこぼれくだせ~よ」」
「はん、馬鹿言うな…って言いたい所だが…おい、スピルコ、シュバッハ。お前ら…ちょっと来い」
「了解」
「えっ良いんですか!?」
「インモンドさん!スピルコさんはともかくシュバッハは…!」
「良く考えてみろ…スピルコは恋人を殺した仇、シュバッハは罠にはめたのはこいつ、その上二度もしてやった相手…屈辱だろ?」
「おいおい、誰が殺されたんだよ…誰が…!ええ!?インモンドさんよぉ!」
聞き覚えがある声、聞けるはずがない声、聞こえてはいけない声。
黒服たちが一斉に振り向き、顔を青ざめ、一斉に叫ぶ。
「なんで…生きてるんだ!」
◇◆◇◆◇◆◇ルフトside◇◆◇◆◇◆◇
「なんで生きてるんだぁ~?おいおい、知らないのか?最近のギルド員は首が働く、仕事中毒者なんだぜ?」
無くなった首から元の頭を生やす、ちなみに飛んだ頭はとっくに溶けてる。感情が一回りにして愉快だ。いや、此奴らの顔を見たらさらにもう一周して、元に戻った。
「ば、化け物がぁぁぁぁあ!!」
動揺した様子でこちらに襲い掛かる黒服。まずはお前だ。
「"貫殺破城撃"」
五指を牙に、手刀の構えでそのまま突く、破城撃の型の内で最も殺傷力が高い技だ。
「がはぁ…」
「ひ、ひぃぃぃ…!」
「何が「この目つきたまらねぇ」だ、何が「屈辱だろ?」だ…ふざけんなよ屑野郎!」
「お、おいお前ら。行け、行けぇぇぇ!」
「「「お、おおおおおおおお!」」」
「魔術を構えろ!早く、早くしろぉ!」
「「「りょ、了解!」」」
「変化…"鬼腕"!」
前の鬼人のようなちゃちな物ではない、本当の鬼の腕、本気で握れば人の体など熟れた果物に等しい。
「ひぃ!」
「おい、止まるな!」
こちらの腕の変化にビビって足を止める黒服,インモンドとか言う野郎の言うとおり止まるべきじゃなかったな。
「死ね」
頭を掴んで…握る。それだけであっけなく死ぬ、その命は今の俺にとっては価値など微塵もない。
「くそぉ!」
「邪魔だ」
左腕で薙ぎ払い、壁の向こうまで叩き付ける。よし、これで変化の時間が…
[風よ、刃となりて駆け抜けよ"風刃"!]
余裕で避けれる速度でこちらに向かってくる風の刃、魔術と言うにはお粗末すぎる。まぁあの大きさなら核には当たらないだろう、だったら無視だ。
「変化…奇獣…基礎大蜘蛛」
脚が巨大な蜘蛛に変化していく途中脚の数が六本ほどになった所で左腕が切り飛ばされる、消費は激しくなるが並行して腕も創るか
「変化…犬頭手」
左腕から手に当たる部分が犬の頭になっている腕が生え魔術を唱えた黒服の喉笛を噛み千切る。そして、左腕が完成すると同時に脚が変化完了。
蜘蛛のような八本脚に、それぞれ蜘蛛の足・狼の足・熊の足・蜥蜴の足・鳥の足・木・鬼の腕・蛇の頭が生える。熊、木、狼、蜥蜴の足で支え、他の脚は攻撃用だ。
「どうしたんお前ら!やれ!やれ!」
その言葉に目を覚ましたかのように頭を振る黒服達、しかし、こちらに襲い掛かる様子は無い。
「こ、殺されるー!」「戦えるかあんなのと!」「殺さないでくれぇー!」
「お前ら!」
「逃がす訳ねぇだろ」
蜘蛛の脚で一人を刺し貫き、鳥の足で抉り殺し、鬼の腕で握り殺し、蛇の頭で毒殺する。
右の腕では首から頭を跳ね飛ばし、左の腕では噛み殺す。
[け、顕現は土、模るは弩、は、放てぇ!"弩具得"]
流砂岩で出来た弩から同じく流砂岩で出来た矢が放たれる、しかし恐慌状態で上手くイメージなど出来るはずもなく、みるみる間にボロボロと砕け、こちらに届く前に粉となる。
「あ、ああ…!」
振るえる黒服に慣れない八本の脚でゆっくりと近づ…
[我に仇名すものに罪の十字架を…"重呪得渉遅"]
こうとした途端、体が巨大な十字架を背負ったかのように重くなる。
「き、決まっ…」
「殺人者の刺突剣」
「へぐぅ!」
脳天に深々と刺さる投げナイフ、間違いなく即死だな。刺さった途端体の重さが嘘の様に無くなる、術者が死んだら消えるタイプの呪いで助かった。
「うおぉぉ!」
そんな声に気付き振り返ってみると、黒服が熊の脚に一太刀浴びせようとしていた…が無駄だ。
近くに生えていた狼の脚に脚を切られ「ぐぅっ!」、屈んだところを熊の脚で踏みつけ体重をかけ圧殺する。
残りはさっき俺の首を切った奴が一人とシュバッハとインモンド…こいつらは特別だからな…!
「くっ…元は言えばスピルコ!お前の失敗だ!責任をとりやがれ!」
「…了解!」
こいつだけは明らかに身のこなしが違う、こちらの容姿に動揺せずどれも紙一重で躱してこちらの心臓目掛けて突きを放ってくる、首がだめなら心臓…まぁそうなるよな、実際その見立ては正しい、核は確かに左胸にあるからな…が
「"群殺破城撃"」
「っ……!」
「悪いな、人間の腕じゃないとダメなんてことは無いのさ、この技は」
支え以外の足や腕からの同時の破城撃、当然握りこぶしなどと言う甘っちょろい物ではない。
「す…スピルコまで…わ、わか「分ったもの何も…お前たちを見逃すつもりはない…!」ひ、ひぃぃぃぃ…!」
「や、止めてくれぇ…俺は只のしたっぱなんだぁぁぁぁ…!」
右手でインモンドを掴み、左手でシュバッハを咥え持ち上げる。
「五月蠅いんだよ…!お前達二人はたっぷり苦痛を味わって死ね。今までの事を懺悔しながら死ね。今まで何人の人を不幸にしたか思い知って死ね…変化…"寄生木"…!」
両腕を木に変化、気になった腕はインモンドであれば、爪で出来たひっかき傷、シュバッハであれば噛まれたところから木がゆっくりと侵食していく…
「あぁぁぁ!腕が、腕が…!」「や、止めてくれぇぇぇ」
皮膚の下を蠢き、筋肉や骨を切り裂き、穿ち、拓き、侵食していく…
「おい、ルフト!」
二重の悲鳴に包まれる部屋に、凛とした声が響く―――