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人魔のはみ出し者  作者: 生意気ナポレオン
第一章:もしくは相棒編
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第十四話:帰路は寂しく温かい

 話が終わったのは何だかんだでこの時期特有の早めの日落ち、午後五時頃。影を長く伸ばしつつ、三人で坂を下って行く。

 しばらくは適当な雑談を交わし、何の支障もなく歩を進めていたのだが、イレーナが遂に疑問を投げかけてきた。

「ところでルフト、結局なんであのナイフはディーガンに当たったんだ?」

 当然の疑問である。今思えばあの時なんで解説役紛いなことを言ったのやら、あの時の俺に苦言を呈させてもらいたいものだ。

「え……ルフトさん分かるんですか!?」

 いつの間にか名前にさん付けするようになったディーガンが食いついてくる、これまた至極自然な流れである……腹立たしいまでに。

「あー……わかると言いますか、仮定の話なので……」

 我ながらなんという無様な返しだ、口を濁すどころか口が汚染されてるとすら言われかねないたどたどしさだ。

「はっきりしないな、仮定でもいいから話してくれないか」

 ここで断るのはかなり不自然、逆に怪しまれるか。観念をして、適当に誤魔化しつつ説明するしかなさそうだ。

「それじゃあ、仮定の話として聞いて下さい」

「ああ」「はい」

 同時に首を縦に振る二人に内心で嘆息しつつ、言葉を考えながら話し始める

「あのナイフには一つの魔術、それも魔界式の魔術が彫られていました」

 まぁ正確には"概念"と言った方が正しいのだが、そこら辺の説明をするのは面倒だから割愛だ。

「魔界の……? どんな魔術なんだ?」

「"拳"の魔術、正確には"肉体"と言った方が良いのかもしれないですが、とにかくそういうものです」

 俺の説明に今度はそろって首をかしげる、いやまぁそうなるよね、我ながら説明が下手だ。しかしだな、概念の説明なしで話を進めるのがそもそも厳しいわけで……なんて言い訳してもしょうがないな◎

「そうですね……こちらの魔術で言う所の"擬態"に近いですね」

「擬態、つまりはこのナイフを"拳"に擬態させていると?」

「ええ、そうです。それの進化形と言ってもいいでしょう。ただし、擬態させているのは見かけでは無く本質を、ですが」

「な、なんとなく分かる様な分からない様な……」

 眉を八の字にするディーガンに苦笑し、もう少し噛み砕けないものかと軽く頭に意識を集中させる。生憎、魔族を"吸身"したことが無いため、記憶している知識は学生自体扱えないことにふて寝しつつ聞いた授業内容だけだ。本で見た冒険譚で飛び交う色とりどりの魔術、それを俺たち(スライム族)には一生扱うことが出来ないと知った時には幼心ながらに傷ついたものだ。

「ルフトさん、どうしました?」

「いや、ちょっとほろ苦い思い出をな。話を戻すと、そのナイフは簡単な話、ナイフを模った拳と言い換えることが出来るんだ。いわば、お前の"拳通士"の肉弾攻撃以外通じないという絶対の壁、検閲を誤魔化す為の方便だな"これはナイフの形をしてますが、拳ですよ"ってな」

「かなり強引な解釈ですね、それ」

「言っててなんだが、俺もそう思う」

 苦笑いを浮かべて、坂を降り切る。邸宅まではあと少し。どうやら夕食までには依頼を達成できそうだ。


 カーン、と小気味よい音の呼び鈴を鳴らすと、すぐにシュヴェルトさんがのしのしとこちらへ早足で向かって来た。

 その手には小ぶりの斧と何かの紙。どういう取り合わせかさっぱりわからない。

「おお、お疲れさん! まぁ体も冷えてるだろうから一先ず上がれ。あ、だけどそこの馬鹿息子はあと、この紙に書かれてる物ひとっ走り行って買って来い、帰ったら暖炉用の薪が少なってるから、何時も通りの本数薪割してから来い。今回の件はそれでチャラにしてやる」

「……悪かった」

「そんな事言ってる暇があればさっさと行って来い」

 親子の和解。大仰に言ってしまえば、そんなタイトルが付けれそうな絵だった。夕陽と屋敷を背景に、親に子が頭を下げる。不良共を伸した時よりも、残党を殲滅した時よりも、大きな達成感が胸を包んだ。どうやら、為した事の大きさと達成感は必ずしも比例する訳じゃ無いらしい。この温かい光景を増やしたい、なんとなくそう感じた。

「やれやれ、出来の悪い息子を持つと苦労するぜ」

 離れていく足音の方向を見て、シュヴェルトさんが目を細める。夕陽が目に沁みたのだろう、陽は背後から差しているが、きっと。

「さぁ、中へ入ろう。ついでに家で食べていけ、味は保証するぞ。なんて立って家の執事長は元コックだからな」

「いや、そこまで甘える訳には……」

「遠慮するな、材料が無駄になるから」

「もしかして、シュヴェルトを買い出しに行かせたのは」

「そう言うこった、つまりお前らが食べてくれないと困る、という事でほら、入った入った」

 結局、俺達はやや強引に屋敷に連れ込まれ、暖炉の温もりの中、今までに味わった事の無い絶妙な料理に舌鼓

を打った。

 そして、食後。

「食後のコーヒーに御座います」

 白髪オールバックに執事服、いかにもと言った風体だ。服の上からでも分かる(たくま)しい筋肉を覗けば。元コック? いやまぁ、料理してはいそうだが、敵兵か何かを。

「ところでおまえさん、家の馬鹿とやり合ったんだろ? どうだった?」

「……正直な話、そこまで脅威には感じませんでしたね。普段からあまり武器を使って無いからかもしれませんが」

 それとて少し腕に覚えがある人なら何とかなりそうだった。動きもそこらの不良よりはまし程度で素人の域を超えて無かった様に思えるし。

 少なくとも的を外れた事は言って無い筈、なのだがシュヴェルトさんが怪訝な顔をしていた.やはり,多少はオブラートに包んで言うべきだったのか? シュヴェルトさんはそこら辺を気にするようなタイプには思えなかったのだが……。

「……おい、あの馬鹿は何か武器を持ってたか?」

「いや、そんな事は。お互いに殴り合いでしたけど……」

「は~……おい、ディーガン」

「……いくら裏通りったって、街中でやる訳にも行かないだろ」

「それはそうだが……ったく、しょうがねぇなぁ」

 ガシガシと頭を掻き、シュヴェルトさんが俺を見る。

「悪りぃんだが、ディーガンともう一度戦ってみちゃあくれねぇか?」

「おい、親父」

「まぁまぁ、静かにしてろ。で? どうだ?」

「できればご遠慮願いたいんですけど」

 さすがにここ最近働き過ぎだと思うのですよ、俺としては、と言っても立った二日続けてだけども。いやだって、修業してた時もこんな戦闘しかしてなかったわけじゃないし、座学もあった訳だし。

「そりゃそうだよな……ルフトお前、住居は決まってるか?」

「いや、まだですけど……」

「よし、だったらこの話を受けてくれるなら、決まるまでの間、ここに三食付で泊めてやる、もちろんそこの嬢ちゃんもな」

 ごくり、生唾を呑み込む。何という好条件、幾ら安宿と言えど日数を重ねればそこそこの料金になる。是非も無い、受けるべきだとは思う。だが、何らかのアクシデントで正体がばれるのでは、と言う一抹の不安がぬぐい切れな――

「やりましょう、ルフトが」

 いのだが、俺の言葉を待たずして、依頼を受ける事が決まる。何か言ってやりたいが、ここで迷っていてもしょうがなかったとは思うので押し黙る。

「……しかし、なんでそこまでしてディーガンと戦わせたいんですか?」

「まぁ、お前らがなんとなく気に入ったって所もあるんだが……こういうと親馬鹿なんだが、息子の実力を見誤って欲しくねぇのさ。それに、素手のあいつ程度に俺が負けたと思って貰っちゃ困るからな」

 確かに、どんな状況だったかは知らないがシュヴェルトさんを退けて家出してるんだ、何かしら実力を隠してる、もしくは発揮できてないのは間違いない、か。

「成程、それじゃあ気を引き締めてかからせて貰います」

「おう、そうしてくれ。それじゃあ、明日またここに来てくれ。その間に準備済ませとくから」

 準備? ……ああ、怪我を治すって事か。結構、ディーガンも傷を貰ってるからな。

「ええ、ではまた明日」

「それじゃあ、明日からお世話になる」

「イレーナ、貴女何気に図々しいですよね」

「遠慮するな、と言われたからな」

 らしくない返答だ、と思うと良く見ればイレーナの席に一つの酒の空き瓶。先程の依頼への返事と言い、寄っているのは明らかだ。

 しかし、それにしたって若干険が篭ってる気がするのだが、俺に対して。

「いやそれは……」

「がっはっは! 確かに、確かに俺が言ったな。嬢ちゃん、あんたいい性格してるぜ、皮肉じゃ無くな」

「相棒を見習った結果だな」

「ちょっと、僕を使わないでくださいよ」

「そう思うなら一人称を統一しろ、何で相棒の私に対してもお前は他人行儀なのだ」

 あー……眉間の皺に納得が言った。確かに、シュヴェルトさんは年長者だからともかく、イレーナに対しては未だ少し、ほんの少しだけ猫を被った声と口調なのは否めない。

「だけど、相棒って言ったて昨日か「ディーガンには今日会ったよな」……はい、努力するのでそんなに睨まないでください、怖いです」

 何より手が柄に触れたのも怖い、刀身からの反射光はもっと怖い。あの酒の度数が高いのか、それともイレーナが酒に弱いのか、どっちかは知らないが今は執事長が憎い。襲い掛かっても料理されてしまいそうだが。

「はっはっ、ルフトの坊主、嬢ちゃんを宿までしっかり送り届けろよ」

「りょ、了解」「おい、努力するじゃなくてだな」

 一方的な説教を浴びせられ、耐えかねて負けじと言い返し、二つの影が街灯光る夜の坂道昇って行く。宿に送り届けて一人になって、感じるほんの少しの寂しさ。そんな自分を「気を許し過ぎるな」と戒めつつ、自分の宿へと歩を進めた。

11/21 改訂完了

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