第一話:低血圧な元少年
「よ、祐樹」
私立三宮学園校舎前。送りの車から降り、学園の鉄門を通って敷地内へ入った頃、後ろから声を掛けられる
「……琢磨か」
「なんだ? 元気ねーじゃん」
琢磨は俺の左に並び、同じペースで歩く。身長差が大分あるので、出来れば横に並びたくない
「なんでもないよ。ちょっと低血圧なだけ」
「ふ〜ん。ちゃんと肉食ってるか? 肉。駄目だぜ、男は生肉がつがつ食わないと」
「男……ね」
今、その単語は聞きたくない
「……マジでどうかしたのか? 俺で良ければ話し聞くけど?」
「いや、良いんだ、ありがとう」
歩く度、じゃり、じゃりっと、敷き詰められた白い小石の道が鳴る。普段は心地良く感じるが、今の俺には耳障りだ
「良く分からないけど、頑張れ!」
琢磨は俺の肩を強く叩いて、にかっと笑う。
黒い短髪と相成って、子供みたいだ
「……はは」
ちょっと面白い
「そうそう、笑う門には福来る。そのうち良いことあるぜ?」
「良いことか」
全部冗談だった。そんなオチだったら、俺はいくらでも笑ってやる
しかし、昨夜一睡もせず資料を調べた結果、俺が女である可能性を否定する事は出来なかった
「とにかく、何か困った事があったら言えよ?」
「ああ、頼りにしてるよ」
社交辞令な返事をし、適当な会話をしながら校舎へ向かう
門から校舎迄は、歩いて約十分程の時間を要する長い道。途中、噴水や芝生、花壇等があり、休憩出来る場所もある
そんな道を歩いてたどり着く学園の校舎は、世間から暁の城と呼ばれている。事実、その名に相応しい外装だ
名前の由来は、紅褐色の校舎。赤レンガで作られたこの校舎は、縦では無く横に広い
計った事は無いし、余り興味も無いので正確な大きさは分からないけど、横に百メートルはあるかな?
そんな長〜い校舎には、五ヶ所の昇降口があって、俺達は右から二番目の入口に向かって歩いている
「来週だな来るの」
祐樹は、校舎前にある電光掲示板前に立ち止まって呟いた
「なにが?」
「どっかの劇団が来るとか言ってたろ? 劇場に」
「……ああ、そういえばそんな話があったね」
「美人なお姉さん、来るかな〜」
「さぁね」
どうでもいい
「張り合いねーの。ん? お、雅だ! 雅〜」
俺達を早足で追い抜いた生徒、雅に祐樹が声を掛けた
「…………おう」
雅は振り向き、俺達の前に来る
「なんだ?」
「え? なにが?」
「呼んだだろ?」
「あ〜いや、朝の挨拶をしたくてさ」
「おはよう」
「あ、ああ、おはよう」
「じゃあな」
そう言って雅は、スタスタと校舎へ向かって行く
「相変わらず愛想ねーなぁ」
苦笑い
「そうか? 雅は結構愛想良い方だと思うけど?」
声を掛けたら、ちゃんと返事するし
「元祖、無愛想がフォローしてもなぁ」
またまた苦笑い
「大きなお世話だよ。ほら、行くぞ」
「あいよっ」