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この結婚は王命ですから。初夜で拒絶された花嫁です、それでは自由にやらせていただきます!  作者: 夏目みや
第三章 近づく距離

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 そうしているうちに、お湯にさざ波が立った。


 もしかしてドリーも入浴する気になったのかしら? 気が変わったのね。

 それならせっかくだから、ドリーと星空を楽しもう。


 隠れていた岩の陰から姿を現す。


「ド……きゃーーーーーー!!」


 声をかけようとしたが、すぐさま叫び声に変わった。


 イザークが岩に寄りかかる姿で、湯につかっていたからだ。


「なっ……!!」


 イザークも私がいると思わなかったのだろう、私に気づくとギョッとした顔を見せた。のんびりしていたところに私を見つけ、あたふたとしている。


「なんでいるんだ!?」


 顔を真っ赤にして叫ぶ。


「こ、こっちの台詞ですわ!! なんでいらっしゃるの!?」


 恥ずかしくて混乱し、再び岩場に姿を隠した。


 どうしよう、イザークは今日いないと聞いたから、ここに入ったのに。勝手に使ったことがばれたら、怒られるかしら。


「ご、ごめんなさい。勝手に入ってしまって」


 ここは彼専用の場所だというし、さすがに私が悪い。


「……別に。構わない」


 ぶっきらぼうな声がしたが、怒ってはいないようだ。


 先に上がろう。


 いつもより熱いお湯で、もうじゅうぶん温まったし、熱いぐらいだ。


 でも、湯から出るにはイザークの前に姿を現さないといけない……。


 まずは落ち着くのよ。体に巻き付けた布を整え、深く呼吸をした。


「……姿を現してもいいかしら」


 一応確認するのが礼儀だと思った。


「…………ああ」


 躊躇するようなたっぷりの間があったあと、返答が聞こえた。

 岩場の陰からおずおずと姿を現すと一瞬、目が合ったがすぐさまサッと逸らされた。


「今日は野営で泊まりだってお聞きしましたが――」

「ああ、魔物を山の奥深くまで追い込んだから、帰ってきた」


 そうか、てっきり野営だと聞いていたから、油断していたわ。


「そう、帰ってきたならごめんなさい。すぐにいなくなるから、安心して」


 疲れているだろうに、私がいては癒されないだろう。

 そのまま湯から出ようとすると、パッと顔を向けられた。


「ゆ、ゆっくりしていけばいい」

「え……」


 私と目が合ったイザークは口元を手で抑え、再び視線をサッと逸らした。

 顔が赤くなっているが、彼でもこの湯は熱いと感じるのだろうか。


「せっかくきたのだろう」

「でも……邪魔ではないの」

「別に……」


 イザークの返答は素っ気なかった。でも嫌そうな空気は感じられなかった。


 ならば――。


 私はその場で腰を下ろし、肩まで湯につかる。

 本当はもう上がるつもりだったけれど、もう少しだけ……。


「ここは、ロゼールが教えてくれたの。疲れがとれるから、って」


 私は空を見上げた。


「でも来てみてわかったわ。この星空、すごく綺麗。冷たい空気に温かいお湯、素晴らしいわ」


 その時、イザークがフッと微笑んだ。ほんの一瞬だったけど。

 イザークの上半身が裸なので、どうしても視界に入ってしまう。私は視線が定まらず、落ち着かない。

 そわそわしていることに気づかれたのだろう。


「な、なにを見ているんだ」

「み、見ていません!!」


 心なしかイザークの声にも焦りを感じる。

 そりゃ、たくましい胸だなとか、筋肉すごいとか思ってしまったけど。


 イザークの胸はところどころ傷があった。一番大きな傷は右胸から三本、まるで引っ掻かれたような傷だった。


「大きな傷……。いったいどうしましたの?」

「ああ、これは十三の時、魔物の爪で引っ掻かれた時の傷だ」

「まあ……」


 イザークは右手で自身の傷をなぞった。


「油断した。爪に毒を持つ魔物で、三日間、高熱に苦しんだ」

「よくご無事で……」


 私が十三歳の時は、そんな想像すらしたことがない。

 やはり北部の人間から見たら、南部の人間はそんな経験が少ないから、甘く見えるのだろうな。


「北部は危険と隣り合わせなのね……」


 ちょっとしんみりしてしまう。


「でも、立派な勲章ですわ」


 私がのんびり南部で過ごしていた時も、イザークは死と隣り合わせだった。 

 私が口にすると沈黙が落ちた。


「あの――」


 唇をギュッと噛みしめると、思い切って顔をあげる。


「近くで傷口を見せていただけませんか?」

「はっ……!? な、なぜだ」

「見たいの」


 北部であなたが、どんな風に体を張って生きてきたのか。


 イザークは落ち着かないようで、無言で唇を噛みしめた。


 やはり、好きでもない私に見せるのは抵抗があるのだろうな……。


「では、私もお見せしますわ。それならばお互いさまでしょう?」


 イザークは目を丸くしたのち、徐々に首から上が真っ赤になる。


 ……ん?


 私が変なことを言ったと気づいたのは、イザークの反応を見てからだ。


「あ……」


 途端に自分の発言が恥ずかしくなる。私もイザークと同じ、いや、それ以上に顔が真っ赤になる。


 私ったら、勢いに任せてなんてことを……!

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