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この結婚は王命ですから。初夜で拒絶された花嫁です、それでは自由にやらせていただきます!  作者: 夏目みや
第一章 拒絶された初夜

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 そして私は部屋に戻ってきた。


「本当に感じが悪いですわ、イザーク・カロン侯爵は!!」


 ドリーがプリプリと怒っている。


「それにあのロゼールという男も、軽薄な感じがしますし! シャルロット様になれなれしい口をきいて!!」

「そうかしら? 人懐っこい感じが似ているじゃない。親近感がわいたわ」

「誰にですか?」

「実家にいたパトリオットに」

「それ、犬じゃないですか!!」


 ドリーがたまらず噴き出した。パトリオットとは実家で飼われていた大きな愛犬だった。愛嬌が良くてお調子者、そんなところが家族に愛されていた。


「とにかく、まだなんとも言えないわ。時間がたてば仲良くなれるかもしれないし」

「そうだといいのですけどね」


 その後は特にすることもなかったので、部屋でドリーとお喋りをして過ごした。

 

 しばらくすると扉がノックされた。相手をしたドリーは、すぐさま戻ってきた。


「シャルロット様、昼食の準備がダイニングにできたそうです」

「もうそんな時間なのね」


 イザークはどんな態度を取るのだろうか。


「行きましょう」


 なにかを言いたげなドリーを連れて、ダイニングを訪れた。


 ダイニングの扉の前では執事長が立っており、私たちの姿が見えると頭を下げる。彼はガルドと名乗ったあと、私たちのために扉を開けた。


「こちらになります」


 ダイニングの長いテーブルの先に、イザークが席についていた。

 甲冑を脱ぎ捨て、すでに着替えている。


「お待たせいたしました」


 声をかけてみるが小さくうなずいただけ。別に私のことなど待っていないと、暗に告げているのを感じる。


 やがて昼食が運ばれてきた。

 まずはスープだった。今回は温かいことにホッとした。

 だが味の方はよく言えば上品、はっきり言うと薄味でぼやけていた。


 そこから次々と料理が運ばれてきた。

 肉は噛み切れないほど固い。パンは朝食べたものほどではないが、これもまた顎が鍛えられそうな一品だった。


 比べるのは悪いけれど、やはり南部は食糧に恵まれていたのだ。

 食卓には季節の果実が常に並び、毎食肉と魚の両方が出た。特に肉は赤ワインでホロホロになるまで煮込まれて、口の中に入れた瞬間、とろけるほどだった。


 でも贅沢を言っていられないわ。この味に慣れないといけない。


 モグモグと口の中で噛み続けるが、いかんせん、先ほど朝食を食べたばかりだ。お腹はあまり空いていない上に、こうもよく噛んでいるとすぐにお腹いっぱいになった。


「食べないのか」


 ふと手が止まるとイザークがたずねてきた。


「お腹がいっぱいで……」

「そうか。北部では食料は貴重だ。南部と違って」


 これは暗に残すなよ、もったいない、と釘を刺されているのだろうか。


「すみません。もとから小食なものでして」


 そこでふと思う。貴族の食事がこれならば、街に住む庶民たちの食事はどうなっているのだろう。


「そういえば私の持参金の一つとして、南部から運ばれた食料があったと思いますが……」


 北部に嫁ぐ娘を不憫に思った父が、これでもかというぐらい、お金と食料を持たせてくれた。最初は食べ慣れない物より、食べ慣れている方が口に入れやすいだろうとのことで、膨大な食料もあったはずだ。 


 塩漬けにして保存された肉などは、寒い北部では長持ちすると思われた。

 それに足りなくなると悪いから、定期的に食料を送るとまで言い残して両親は去った。あの調子では断っても送ってきそうだった。


 遠い地に一人嫁ぐ娘が心配で、せめて好きな物をお腹いっぱい食べさせ、不自由ないようにさせたいと思う、親心だろう。

 

「ああ、だろうな。倉庫を埋め尽くす勢いだった」

「使わないのですか」

「北部は北部の食料がある」


 要は間に合っている、必要ないということだ。


 イザークの意図はわからないが、あのまま倉庫で朽ちてゆくのなら、どうして使わないのだろうか。


 そして彼はどうして私を頑なに拒否するのかしら。


 そんなに嫌われるようなことをした覚えはないのだが、もう少し根気よく付き合ってみよう。


 噛み切れない肉をいつまでも口の中で咀嚼しながら、長期戦も覚悟した。

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