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異世界帰りのTS転生ロリババア、ひ孫のヒロインになる  作者: ひさなぽぴー/天野緋真
第一章 始まりの夏、TSロリなひいじいさんと

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第六話 走れユーイチ 4/4

 ──基本的な情報、知識として。

 今僕たちが走っている傘町競馬場は、日本各地にある競馬場の中では小さい競馬場だ。競馬場の規模の話ではなくて、レースコースの話だよ。


 何せ傘町競馬場は、一周千百メートル。これは短いコースが多い地方競馬場の中でも、特に短いと言っていい。


 そんな競馬場だから、このコースは直線も短い。これはつまり、スピードを上げる、ひいては高速を維持するのが難しいコースと言えるだろう。

 何せスピードを上げても、すぐにコーナーがやってくる。速すぎると曲がり切れなくなってしまう、というわけだね。


 だから僕は、コーナーに入る前に攻撃を受けて速度を上げられなかったことには、あまり悲観していなかった。魔力によってどれだけ速く走ったところで、どうせコーナーで速度を落とすだろうと思っていたから。

 走ること自体はもはや問題ではなくて、魔法にしろ身体接触にしろ、直接的な妨害そのものを警戒すべき。そう考えながら、リア号を追いかけコーナーに入ろうとしたわけだけれど……。


「な……何ィーーっっ!?」


 先を行くリア号、スピードを落とさない! 逃げどころか大逃げとも言うべき勢いをまるっきり維持したまま、コーナーに突っ込んでいく!


 目を疑ったよね。一瞬、ほんの一瞬だけ自殺行為だと思った。

 けれどその速度を維持したまま、まったく遠心力に振り回されることなくコーナーを進むリア号の姿を見たら、声を上げて驚くしかないというものでしょうよ。コーナー手前のゴール脇で待機している大輔からも、「ありえねー! どうなってんだよ!?」とわめく声が聞こえてきた。


「遠心力どうなってるんだいそれ!? おお物理法則よ、寝ているのですか!」


 僕も同じようにわめく。そんな状況でも足を緩めることなくコーナーを走り続けられたのは、曲がりなりにも超常現象との付き合いがここ最近多かったからだろう。


 しかしわめいたところで、結果が変わるなんてことはない。そういう現象は、魔法が絡んでいるに違いない。

 実際それを肯定するかのように、リア号のたてがみ根元辺りが青い光を放ったのが見えていた。


 間違いない。魔法を発動させた際に見られる、魔石の発光だ。僕やセティは体内のかなり深いところにあるから光は漏れないけれど、体表に近いとああやってはっきり光が見える……とは、もちろんセティに教えてもらった知識。


 それがあったということは、リア号は何かしらの魔法を使い、コーナーを減速なしで曲がっているということになる。

 具体的な効果は現時点ではわからないけれど、あの大ジャンプと共通した何かがあるはず。恐らく、僕と同じく汎用性の高い魔法と思われる。


 なんてことを考えていると、コーナーを先に曲がり切ったリア号のたてがみ根元辺りが再び青い光を発した。また魔法を使った? 今度は何が?


 しかし、見た目では特に変化はわからない。結局、僕は答えを得られないままコーナーを曲がり切った。


 この時点で、リア号との差は二馬身弱といったところか。絶望的な差ではないものの、ここで魔法の正体を察しておかないと、この先終盤に向けて苦しくなりそうだ。


 そう思いながら、僕はリア号の真後ろにつく。たまに跳ね上げられる砂は厄介ではあるけれど、この速度だと空気抵抗がバカにならないから、スリップストリームを期待してのことだ。

 実際、さっき後ろについたときにそれなりに空気抵抗が弱まったから、効果はある。もっと近づけばスリップストリームもより効果的になるけれど、そこまで行くと先ほどのように尻尾で叩かれる。この辺りが無難だろう。


 あとは、この位置でリア号の魔法がどういう効果を発揮しているのか調べられればいいんだけれど……と、思ったところで気がついた。


「おかしいぞ、これは……()()()()()()()()()()()()()()()()!?」


 走りながら声を上げる。既に一キロ走っていることもあって、驚愕のみならず少し息苦しさが混じる声だった。


 リア号から風が出ているのか? 風を操るのだとしたら、これまでの現象も説明はできる。

 高い高い大ジャンプは、風に乗って跳躍した。慣性を受けずにコーナーを曲がり切ったのは、風で姿勢を制御していた。今僕が真後ろにいるのにもろに風を受けているのは、妨害として向かい風を発生させている。こんなところか。


 ただ自分で言っておいてなんだけれど、どうもしっくりこない感じがする。確かに説明はできるけれど、どこかこれじゃない感があるというか……。


「……! 今度は何を……んん?」


 そうして再度コーナーに差しかかったところで、またもリア号が魔法を発動させた。青い光を一瞬たなびかせ、コーナーに入っていくリア号。


 しかし僕はその直前、あれほど感じていた風が一気に弱まったのを感じていた。スリップストリームが復活した……魔法の効果を切り替えたということだろうか。

 僕と同じく、一種類のことにしか使えないのか? と、思った直後。


 穴が視界の端に飛び込んできた。一周目にリア号が着弾した場所だ。


 もちろん突っ込むわけにはいかないので、仕方なく遠回りする……が、そこで僕は再びリア号の魔法の光を見た。さらには直後、信じられないものを目撃することになる。


「ウッソだろ!? 空中を走っているのか!?」


 リア号はあろうことか、穴にまっすぐ突っ込んだ。しかしその穴に足を取られることなく、なんと空中を蹴って走り続けたのである。

 まるで穴なんてないかのような走り。これはいくらなんでも、風では起こせない挙動だろう。やはり僕が抱いていた違和感は正しかった。


 そしてそれを見たことで、僕の中で仮説が組み上がっていく。


 最初の大ジャンプ。僕はまるで重力など知らんと言わんばかりに、と表現した。

 次のコーナー移動を、僕は遠心力どうなってるんだと言った。

 その次の風についてはわからないけれど……今回の空中移動は、穴なんてないかのような走り、だ。


 これらはいずれも、僕が表現した概念が存在しないのであれば、リア号の動きは可能だと思われる。

 これは言い換えれば、あるはずのものをないものとして扱っている。


 ということは、つまり!


「自分が選んだ何かをないものとする……無視する! 『イグノー』! それが君の魔法か、リア号!」


 わからなかった風についても、空気抵抗を無視して走っていたのだとすれば辻褄が合う。


 そしてここに、大輔から聞いていた「わがままで自分がしたいことしかしない」というリア号の性格を加味すれば、恐らく間違いないだろうという確信に至れる。

 魔法はおおよそ、魔石に寄生された存在の気質が反映されるのだ。自分がしたいことしかしない、というのは、裏を返せば自分がしたくないことは無視している、と言えるだろう。

 この魔法は、それがもとになってできあがったんだろう。


「まあ! レース中に看破されるとは思ってもいませんでしたわ! 素晴らしいですわ優一さん!」


 僕の言葉に対するリア号の返事は、肯定だった。彼女は一瞬だけこちらに驚きと喜びが混ざった顔を向け、楽しそうに声を上げる。


「ですがそれがわかったとて、あたくしをとめられるとは思わないことですわね! あたくしの走りを阻むなど、たとえ神にだって許させはしませんわ!!」

「だろうよ! こんなクソ強い能力、どうしろって言うんだ!!」


 めちゃくちゃなことを言うリア号に、僕は思わず叫んだ。返事は悪役令嬢さながらの高笑いだった。

 いやー、マジでどうしろっていうんだろうねこれ。


 まあ待ってくれ、違うんだ。これが本当の意味での戦闘だったら、やりようはあるんだ。

 ……あるはずだ。ここまでの挙動からして、恐らく一種類のものしか無視できないはずだし、効果の切り替えにもわずかながらタイムラグがあるはずだから。


 けれどね、これはレースなんだよ。妨害もOKのなんでもありになってしまったけれど、本質は変わらない。

 先にゴールしたほうが勝ちというスポーツ。そんな中でリア号の「イグノー」を乗り越えて先にゴールするというのは、至難の業だ。


 だって僕にはわかる。あれだろ。妨害として攻撃したら、その攻撃自体を()()してなかったことにするんだろう? 攻撃はきっと、彼女の身体をすり抜けるだろうよ。


 おまけに僕は、自分の魔法をとめられない。先にも述べた通り、これをとめたら僕はレースにおける最重要項目である走力を失う。リア号に対して切れる札がほとんどないんだよ。


 つまり僕に残された選択肢は、純粋にリア号を上回る速度で走って追い抜かす以外にない。


 ……それができれば苦労はしねェ!


 確かに、今僕がコピーしている馬の走力は、リア号より高い。それは間違いない。純粋に直線で、ヨーイドンで走ればリア号より速く走れる。

 けれどそれは、すべてを置き去りにするような圧倒的なものではないんだよね。


 コピー元の馬のほうが上とはいえ、元は同じ生き物だ。その差はすべてをぶっちぎるほど劇的なものではないわけで……今から僕がすべての負担を気にせず死力を尽くしたとしても、可能なのは少しずつ距離を詰めることくらい。

 しかしこれまでの数々の「無視」によって、リア号は着実に僕との差を広げてきた。今も、コーナー途中の穴を迂回した僕に対して穴を無視したリア号はさらに前に行っており、四馬身は差ができている。


 大差ではないから、ここからリア号を差すことは不可能ではない。

 ではない、はず。たぶん。


 そう、たぶんだ。断言はできない。なぜなら、傘町競馬場のレースコースは短いから!


「おーっほっほっほ! さあ最終直線ですわよ! あたくし、これよりここまでの疲労を『無視』して全力で走りますので、ぜひついてきていただけると嬉しいですわ!」


 遂にリア号が、最終直線に入った。


 そしてその直後に、彼女のたてがみ根元付近が青く輝く。宣言通り、ここまでの疲労を「無視」するのだろう。


 実際、彼女は今まで以上に速度を上げ始めた。馬としては十分すぎる速度があったにもかかわらずだ。その速度は、時速百キロ程度じゃきかないだろう。


 僕も遅れてコーナーを曲がり切ってから全力を振り絞ったけれど、距離は縮まらない。広がらないだけがんばっていると言えるけれど、これでは間に合わない!


「優一ィ! 諦めんなァ!! まだ終わっちゃいねぇぞ!!」


 歯を食いしばる僕の耳に、セティの声が飛び込んできた。


 既にホームストレッチの最終直線だ。観客席に視線を向けるまでもなく、彼女が身を乗り出し口元に両手を当てて叫んでいる姿が見える。必死の形相で僕を激励する姿に、思わず頬が緩んだ。


 にしても、あの小さい身体のどこからそんな声が出るんだ。魔力って声も強化できるんだ?

 あれは下手したらレース場の外にまで聞こえているかもなぁ。


 ……なんていう、益体もないことが脳裏をよぎる。まだ日は暮れていないから、周囲を行き来する人たちにもあっという間に届いているんだろうなぁと……。


「……あっという、間に……?」


 が、直後に僕の脳裏に電流が走った。


 あっという間に。


 そうだ。あった。

 この世には、あらゆる生物よりも早く動くものがすぐ近くにあるじゃないか!


「こ……、れ、だ! ()()だぁぁーーっっ!!」


 僕にペーストしていた、馬の走力を破棄! 途端に速さが落ち、ダートに足を取られて転びそうになるけれど、根性で押さえつけて走る姿勢を維持する!


 そして今まさに、自分が叫んだ声からコピーする。声の速さを、秒速三百四十メートルの音速を!


「ぉあ……ッ」


 瞬間、空を行く戦闘機を思わせる轟音と共に、暗転するかのような刹那で視界が切り替わった。人間の知覚ではすべてを認識しきれないほどの速さで、僕の身体がホームストレッチを直進しきったのだ。

 文字通り、一瞬の出来事だった。


 何せ僕の魔法は、要素をペーストした瞬間からその力を発揮する。段階を踏まず、ゼロか百かなのだ。

 だから僕は一秒どころかコンマのラグすらなく、音速で移動する存在になった。そりゃあ何もわからないのも無理はない。傍から見ていれば、少しは違っただろうけれど。


 そして僕は気づいたら、ボロボロの状態で地面の上に横たわっていた。服だけではなく、身体のあちこちが腫れていたり切れていたりして、めちゃくちゃ痛い。


 一瞬なんでと思ったけれど、深く考えるまでもなく察しはつく。ただ走るだけでも空気に壁を感じるんだから、音速で走るというのは全力で壁に突撃するようなものだろう。魔力で身体を覆っていなかったら、マジで死んでいたんじゃなかろうか。


 いやはや。咄嗟にこれだと思ってやったことではあるものの、こりゃあ自分に使うのはナシだね。

 でも飛び道具として使う分には、かなり強力な武器になるんじゃないだろうか。いや、強力すぎて禁じ手かなぁ?


「優一! おい優一、大丈夫か!?」


 まだまだ明るい夏の空を見上げながらそんなことを考えていると、すぐそばにセティが駆け寄ってきた。そのまま隣に膝を突き、僕の身体を抱き起す。


「なんとか……ハハッ、音速なんて人間の身体でやるもんじゃないって、はっきりわかんだね……」

「あの高速移動はそういうカラクリか……そんなの思いついても普通はやらねぇだろ……」

「まったくですわ! あたくしのチカラがあるならともかく、ナシでそんなことよくやりましたわね!?」


 セティは呆れたと言いたげに顔を歪めたけれど、直後に背後からリア号がやって来たのですぐに身構えていた。


 けれど当のリア号は全身を使って荒い呼吸をしていて、今の言葉も文字通りではなく実際は途切れ途切れ。彼女も彼女で、相応に自分を追い込んでいたんだろう。

 どうやら敵対どころか、これ以上競い合うつもりもないらしい。


 そんな潔いリア号の傍らには大輔がいて、彼は労うようにリア号の身体をさすっていた。


「……大輔、これ勝ち負けはどうなったんだい?」

「それは「アナタの勝ちに決まっているではありませんか! 他に何がありまして!?」……おう」


 とりあえずその大輔に結果を聞いてみたところ、彼が口を開くのを遮ってリア号が答えてくれた。見事なインターセプトに肩をすくめる大輔である。


「非常に非常に口惜しいことこの上ありませんが! 負けは負けですもの! アナタはか弱い人の身で、あたくしに勝つという快挙を成し遂げたのです! もっと誇りなさいな!」


 この言葉に、僕は思わず目を丸くした。なんなら、隣のセティも同じような顔をしていたと思う。


 それがよほど意外そうに見えたのだろう。リア号は文句ありますと叫ぶかのように尻尾をぶんぶんと振り回し、けれど視線は外すことなく正面から言い切って見せる。


「このあたくしが、真剣に競った勝負の結果を受け入れられないような、みっともない女だと思われていたのでしたら心外ですわ! あたくしアスリートですのよ!? 勝ちだろうが負けだろうが、真摯に向き合った結果なのですから正面から受け止めますとも!」


 四本足で立つ彼女にとって、そういう仕草はなかなかできるものではないだろうけれど。

 それでも、そう言った彼女は、大きく胸を張っているように見える。アスリートとして、プロとしての矜持を抱く立ち姿は、まさに輝いていた。


 ここまで言われたなら、変に恐縮するのは違うだろう。だから僕は少しだけ苦笑したけれど、少しでも誇れる勝者であるために気合で立ち上がった。


 そうしてセティに支えられながらも、リア号に手を差し伸ばす。


「ありがとう、リア号。いい勝負だったよ」

「ええ、こちらこそ。対戦ありがとうございましたわ!」


 リア号はそう言いながら、僕の伸ばした手に頬をこすりつけてきた。


 これは甘えている、というよりは彼女なりの握手だろう。馬である彼女には僕たちように手がないもんな。

 だからこれは、全力で競い合った相手の心意気に応じて人間の流儀に合わせてくれたのだと思う。


 だから互いの健闘を称えるつもりで、その頬をなでる。


 僕のそんな気持ちが伝わったのか。リア号は満足げに、ブルルッと小さくいなないたのだった。


まだ事件の後処理が終わっていないんですが、キリがいいので一旦ここまで。

そこについては次の話の冒頭か、幕間とかそんな感じで一話だけ作るか、そんな感じになるかと思います。

なるべく早く更新できるようにがんばりますので、今少し時間と予算をいただければ。


よろしければブックマーク、感想、評価よろしくお願いいたします!

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