救ってほしい者がいる
――ここはどこだ?
勇者は困惑しながら辺りを見回す。
ほんの一瞬前まで自分は確かに牢屋に居た。
『貴様に救ってもらいたい人物がいる』
牢屋の内と外。
相対した人物の言葉が反芻される。
罠か?
そう思った瞬間にはここに居たのだ。
「油断したか……」
悔やんだが最早すべてが遅い。
勇者は反省と後悔を止める。
ひとまずは元の場所に戻らねば――。
「ざまあみろ!」
そう思った直後に声がした。
勇者はそちらを見ると十人ほどの子供が何かを囲んでいる。
「死ね! 死んでしまえ!」
「今すぐ親のところに送ってやるよ!」
うめき声が聞こえた。
けれど、それもすぐに怒声や暴力でかき消される。
一体なにが?
そう思いながらも勇者はそちらへ向かうと、子供達が一人の子供を取り囲んでなぶりものにしていたところだった。
「待て。それ以上はやめろ」
勇者がそう言うと子供達は顔をしかめながら勇者を睨んだ。
「何でだよ」
「今、遊んでいるんだからほっとけよ」
勇者はいたぶられていた子供をちらりと一瞥し全てを悟る。
――なるほど。
そういうことか。
「たすけて」
泣きながら子供が勇者に助けを求めた。
「もちろんだ」
そう呟いて勇者は子供達を追い払った。
剣を一度振り払うだけで良かった。
悲鳴をあげながら逃げていく子供達を見送りながら勇者は子供の方へ屈みこむ。
「ありがとうございます」
そう言いながら子供は泣きだした。
「もう大丈夫だ。安心して」
数えきれないほどの傷を負っている。
おまけに腕と足の骨がいくつか折れていた。
勇者は何が正しいかも分からないままに回復魔法を唱えた。
「えっ?」
自分の体が治っていくのを目にして子供は驚きの声をあげる。
「治してくれるの?」
「もちろんだ」
「どうしてこんなに優しくしてくれるの?」
勇者は言葉に詰まる。
どう答えれば良いのか、まるで分からなかった。
無言でいる勇者にその子供は満面の笑みで言う。
「まるで、物語に出てくる勇者様みたい」
その顔を見て勇者は何が正しいかも分からないままに頭を撫でた。
子供は嬉しそうに笑うばかりだった。
直後。
「あっ」
気づくと勇者は牢屋の外に戻っていた。
目の前には満身創痍で鎖につながれた魔王の姿があった。
「流石は勇者だな」
魔王の言葉が冷たく響いた。
勇者は無言のまま自分の状況を整理する。
幸いなことに何も変わっていなかった。
つまり、自分は先日、遂に魔王に勝利した勇者。
そして目の前にいるのは明日の処刑を待つばかりの魔王。
「迷いもなしに助けるとはな」
先ほどまで見ていたのは夢か、幻か。
あるいは別の世界か。
いずれにせよ、目の前にあるのは残酷な現実のみだ。
一つ、息をついて勇者は魔王に問う。
「お前の過去か」
「答える義務はあるか?」
魔王の言葉に勇者は頷いた。
「お前が救ってほしいと言ったのだろう」
「あぁ、そうだったな」
心底けだるそうに魔王は言う。
その姿を見て勇者はやりきれない思いを抱く。
「情に訴えかけようとしたわけではなさそうだな」
「当たり前だ。仮にその気ならもっとうまくやるさ」
牢屋に響く声は小さく、冷たい。
勇者は大きくため息をついた。
「何も変わらない。お前は明日、処刑される」
「分かっているさ。それだけのことをした」
魔王は皮肉気に笑う。
「だが、感謝する。貴様のおかげで。少なくともあの日の私は救われた」
勇者は踵を返す。
今は何も考えたくなかったのだ。
「ありがとう」
足音の合間に感謝の声が響く。
「勇者様」




