9-10
大森林西側で同時多発的に火の手が上がる。
「まさか罠ごと森を燃やすつもりなのか?」
「あり得ない方法ではないですな、焼き払うことでゲリラ戦も回避できる」
そんな時、突然東から雨雲が走るように現れて滝のような雨が降り始める。
雨の中をほうきのようなものに乗った黒髪の女がドローンカメラに写っているのが見えた。
女がちらりとドローンのほうを向いたとき、それがだれかと分かった。
「ヴィクトワール・クライフ……」
理屈はわからないが彼女が人為的に雨雲を作って送り込んだのだ、と悟った。
「いったいこの雨雲はどこから?こちらにそんな雨雲見当たらなかったのに?」
ポアロ大佐が窓を指させばそこは晴れた春の空が広がっている。
雲はあれど灰色の雨雲ではなく白い綿雲である。
「おそらく彼女が作ったのでしょう」
木栖がそう口にすると「人工降雨ですか」と感嘆の声を上げた。
窓を見れば遠く西の山付近には厚い雨雲がかかっている。
滝のような雨に山の火はもろくも消え去り、それでも進むものと戻るものに別れててんでバラバラに動き出す。
雨音の隙間にパン!と散発的に銃声が響いた。
この雨の中を進む者たちへ向けられた銃声は確か通用しているようで、たびたび血にまみれて逃げる者が目撃された。
「これは自衛隊装備品の9ミリ拳銃の音では?」
「彼らがこのごたごたで間違えて持って行ったようですね」
木栖が知らぬ存ぜぬと言わんばかりにそう告げるとポアロ大佐は「あまりよろしくないのでは?」と顔をしかめた。
「この状況下で返せとは言いにくいでしょう」
「私は知りませんぞ」
まだ雨雲は引きそうになく、ドローンの充電も危うくなってきた。
「ドローンを後退させます」
そうってドローンに大使館へ戻るよう指示を出し、新しいドローンを矢継ぎ早に飛ばしていった。
****
新しい映像が届くまでの間に南からの映像に目を向けると、こちらは木造のダムを挟んでの攻防戦となっていた。
ダムと言っても黒部ダムのようなものではなくビーバーのダムのような、倒した木を川に積み上げてこれ以上の遡上を防ぐ形になっている。
ダムを壊されたり川岸に上陸されないように守る金羊国側と、上陸して第一都市・第二都市を目指す敵側となっている。
「これ、西の国の兵ではないですね」
持っている道具の紋章からそう見抜いたのはポアロ大佐だ。
昨日の映像からでは視認できなかったが今日はカストロ中尉が撮影した映像だから、かなり近くから見える。
南の国についての資料を自分の部屋から取りに行くとどこの物かも特定できた。
「この川の中流域にあるアベラール都市共和国と中洲騎士団、あとは下流域のサレイユ伯爵私領騎士団。アベラールと中州騎士は西の国と友好関係にあり、サレイユ伯爵は西の国の貴族だ」
「アベラールと中州騎士は友好国への助力といったところでしょうかね、彼らには観戦武官の通告が伝わっていませんからより一層の注意を促しましょう」
トムリンソン准将とカストロ中尉に無線でそう伝えると「了解!」と明るい返事が届いた




